53 / 101
婚約(正式)
クロエの鍛錬
しおりを挟む__それからまたしばらくの月が過ぎた頃。
訓練場にて、クロエはドレス姿ではなく兵士達と同じ軽装で剣を握っていた。
クロエは、ゴトリルと正式に婚約してから少しだけ考えが変わっていた。
ゴトリルは総督、所謂軍人である。
軍人の妻となる身として、最初の頃矢に反応できなかった自分が、彼の隣にいても恥じぬ妻となれるよう護身術だけでも覚えたいと思い、自分なりの努力を探し見つけた結果が『訓練』であった。
と言っても、クロエは女性。男達と同じような訓練はさせてもらえなかったが、ゴトリルが彼女のレベルに合わせて相手をしてくれるようになった。
初めはゴトリルとの訓練はやめた方がいいという兵士達の言葉もあったが、健気に剣を振るうクロエに今では皆が応援してくれるようにもなった。
こんなこと、普通の淑女ならしないだろうが、クロエは違っていた。
クロエは元々体を動かすのが好きだった。幼少期はおままごとなど女子がするような遊びではなく、かけっこやかくれんぼなど外でするような遊びで同い年の男子と一緒に遊んでいた。
そんな彼女もロズワートとの婚約が決まってからは、我慢していたのだが……
「クロエ!お前すげぇな!どんどん上達してるぞ!」
クロエの剣を何度も受け止めたゴトリルは、そうして賞賛の声を送っている。
その声に、クロエは燻っていた高揚感が戻りつつあった。
この訓練中、彼女は自分を偽ることなくありのままの姿でいられた。
剣技は楽しいし、こうやって誰かと闘うのも楽しい。
こうして体を動かすことが、愉しい。
幼な子の記憶と心が、彼女の中で息を吹き返そうとしている。
そして、全ての力を込めてゴトリルに剣を振りかざした。
「お前は********」
一瞬、クロエの体が強張った。
その隙を逃すことなく、ゴトリルはクロエの剣を弾き飛ばす。
カランと、その場に剣の落ちる音が虚しく響いた。
「いやーお前初めと比べて強くなったな!飲み込みが早いからびっくりしたぜ!!お前本当に令嬢か?」
ゴトリルはそう言ってクロエのことを揶揄っていたが、当の彼女は一点を見つめたまま動かなくなっていた。
「…………?クロエ、どうした?」
心配したゴトリルが声をかけると、ようやくクロエはゴトリルの方へ顔を向けた。
「い、いえ、なんでも!それより、令嬢かどうかを疑うなんて失礼ですわよ!ゴトリル様!!」
「だって、普通訓練を頼む奴なんていないぜ?俺は楽しいから良いけどよ」
普段の躍起さを露わにしたクロエに、ゴトリルは笑顔を返した。
夕方になって、二人は城への帰り道を歩いていた。
と言っても、クロエはいつも通りゴトリルに抱えられているのだが、今では当たり前のようにそれが馴染んでおり、クロエも小言を言うことがなくなっていた。
正直に言えば、ゴトリルの腕の中は落ち着くのだ。
自分よりも大きく、屈強な男の腕が自分を守ってくれているようで、雛を守る親鳥のような温もりが心地良かった。
そんなこと言ったら彼が調子に乗るので口には出さないのだが……
何よりこの暮らしを通して、クロエはゴトリルのことを想うようになっていた。
木の枝を剣代わりに一人で鍛錬してた時、一番初めにそれを見つけたのはゴトリルだった。
しかし、一生懸命に木の枝を奮っている彼女を笑うことなく、他の兵士と同等に剣を与えてくれたのも彼であった。
クロエが今まで会ってきた男性は、幼少期に遊んだ男の子ですら彼女を『女性』として扱ってきた。
彼女が女性らしく振る舞わないと、周りは幻滅したように顔を曇らせていた。
その顔が、クロエは嫌で仕方がなかった。
だが、ゴトリルと訓練場に来る兵士達は、彼女のことを『仲間』として迎えてくれた。
それだけだが、たったそれだけでも彼女には嬉しいことだった。
そしてゴトリルは、クロエを最初に受け入れてくれた彼は、クロエにとって大切な人になっていた。
(こんな気持ちになったの、初めてだわ)
それでも、それでも一つだけ
「お前は本当に『可愛い』よなぁ!」
あなたのその言葉が、私に刺さる。
0
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。
Rohdea
恋愛
王太子でもあるエイダンの婚約者として長年過ごして来た公爵令嬢のフレイヤ。
未来の王となる彼に相応しくあろうと、厳しい教育にも耐え、
身分も教養も魔力も全てが未来の王妃に相応しい……
と誰もが納得するまでに成長した。
だけど───
「私が愛しているのは、君ではない! ベリンダだ!」
なんと、待っていたのは公衆の面前での婚約破棄宣言。
それなのに……
エイダン様が正妃にしたい愛する彼女は、
身分が低くて魔力も少なく色々頼りない事から反発が凄いので私に側妃になれ……ですと?
え? 私のこと舐めてるの? 馬鹿にしてます?
キレたフレイヤが選んだ道は───
※2023.5.28~番外編の更新、開始しています。
ですが(諸事情により)不定期での更新となっています。
番外編③デート編もありますので次の更新をお待ちくださいませ。
皇帝陛下!私はただの専属給仕です!
mock
恋愛
食に関してうるさいリーネ国皇帝陛下のカーブス陛下。
戦いには全く興味なく、美味しい食べ物を食べる事が唯一の幸せ。
ただ、気に入らないとすぐ解雇されるシェフ等の世界に投げ込まれた私、マール。
胃袋を掴む中で…陛下と過ごす毎日が楽しく徐々に恋心が…。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!
まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。
お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。
それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。
和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。
『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』
そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。
そんな…!
☆★
書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。
国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。
読んでいただけたら嬉しいです。
【完結】エレクトラの婚約者
buchi
恋愛
しっかり者だが自己評価低めのエレクトラ。婚約相手は年下の美少年。迷うわー
エレクトラは、平凡な伯爵令嬢。
父の再婚で家に乗り込んできた義母と義姉たちにいいようにあしらわれ、困り果てていた。
そこへ父がエレクトラに縁談を持ち込むが、二歳年下の少年で爵位もなければ金持ちでもない。
エレクトラは悩むが、義母は借金のカタにエレクトラに別な縁談を押し付けてきた。
もう自立するわ!とエレクトラは親友の王弟殿下の娘の侍女になろうと決意を固めるが……
11万字とちょっと長め。
謙虚過ぎる性格のエレクトラと、優しいけど訳アリの高貴な三人の女友達、実は執着強めの天才肌の婚約予定者、扱いに困る義母と義姉が出てきます。暇つぶしにどうぞ。
タグにざまぁが付いていますが、義母や義姉たちが命に別状があったり、とことんひどいことになるザマァではないです。
まあ、そうなるよね〜みたいな因果応報的なざまぁです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる