57 / 101
婚約(正式)
告白
しおりを挟む__ラトーニァの背後に着いて、いつもの中庭に向かう道とは別、獣道すら無い森の中をルーナは歩いていた。
森の中は当然暗く、目の前を歩くラトーニァの背中すら不明瞭であった。
「ラトーニァ様、これから何処に向かわれるのですか?」
「な、ないしょ」
「ですが、これだけ暗いと、危ないのでは」
「大丈夫。『視え』てるから」
その言葉に、ルーナは暗闇の恐怖が少しだけ和らいだ。
(そうだわ。ラトーニァ様には魔法がありますものね。だから大丈夫……)
ラトーニァの魔法を信じていたから。
「ルーナ、此処だよ」
ラトーニァがそう言うと同時に、視界に光が差し込む。
それは日差しのような眩しいものではなく、目に優しく触れる程度の光であった。
「まあ!」
視界が明るくなったことで、全景を捉えることができたルーナの口から出たのは、今振り絞ることができる最大限の感嘆符であった。
ルーナの目の前では、円く満ちた月の下で白く輝く花々が咲き乱れていた。
辺り一面が白い花に囲まれ、時間が経つにつれてその輝きを増していく。
時折扇ぐ微風に、花畑は優しく首を揺らしていた。
「綺麗!!」
ルーナは目の前の絶景に目を奪われていた。
月の光と花の輝きだけで照らされた世界は、この世のものとは思えないほどに美しかった。
「此処、僕のお気に入りの場所……秘密の、花園」
ラトーニァは恥ずかしそうに言った。
「僕、小さい頃から、よく此処に来てたんだ。嫌なことがあったり、とか、楽しいことがあっても、来てたの」
「……そうなのですね」
「うん」
ラトーニァは、足元に咲いていた花を一輪摘むと、ルーナに恐る恐る差し出す。
「え?」
「あ、あげる」
「ですが、これはラトーニァ様の……」
「い、良いの!だって、此処はもう、えっと……」
「?」
「き……
君の場所でもあるから!!」
うわずった声で、ラトーニァは高らかに叫んだ。
二人しかいない世界で放たれた言葉は、虚空へと木霊していく。
ルーナには、一瞬ラトーニァの言った意味が理解できなかった。
(君の場所……?)
ルーナが考えるよりも先に、ラトーニァは話を続ける。
「こ、此処に呼んだ人は、き、君が初めて、で、きょ、兄弟も、呼んだことがないんだ!」
「え……それって」
「う、うん……」
ラトーニァが、決心したように口を開く。
「君が……と…………特別だからっ!!!」
その言葉の真意は、今度こそルーナに届いた。
「とく、べつ…………」
『特別』……姉妹よりも、公爵の兄弟よりも特別だから、此処に呼ばれた。
その真実が、ゆっくりと確実にルーナの心に刻まれ、原動力のように鼓動を加速させていく。
湯冷めしていた体は熱を帯び始め、息苦しさも覚えた。
今のルーナは、自分でもわかるほどに照れているのだ。
「ルーナ……」
ラトーニァは、ずっと花をルーナに差し出している。
差し出されたままの花を、ルーナは震えた手で受け取った。今は彼の顔も見るのが恥ずかしく、花の方へと目を向ける。
花は、ルーナの手の中で白く輝いており、その光が衰える気配は無い。
「君は……花が、よく似合うね」
顔は見えなかったが、自分を褒めてくれたその声は優しい鈴のような音色だった。
(ラトーニァ様。やっぱり貴方は、美しい人です)
温まった体が夜風に当たって心地良い。
この人の優しさが、心地好い。
(……私、この人のことが、好き)
「僕も」
澄んだ声が、花畑に響いた。
「…………へ?」
恐る恐るルーナが花から視線を外すと、目の前にいたラトーニァの顔が見えた。
いつもの怯えた顔でも、恥ずかしがる顔でもない。
年相応……見た目相応の男の顔が、異形の角を生やした眼孔が、ルーナの方へ真っ直ぐと向けられていた。
「僕も、好きです。ルーナのこと」
「…………えぇっ!?」
突然の告白に、ルーナはラトーニァのように素っ頓狂な声をあげてしまった。
(好きって、好きって!?え!?そんな……!!)
頭が回らない。上手く理解できない。
自分が好きだと思ったら、まさか相手から告白されるなど思ってもいなかった。
(そんな、好き、だなんて……
…………あれ?)
この時、ルーナは急激に上がっていた熱をも下げる疑問を抱いていた。
僕も、好きです。
僕も
「うん、やっぱり、気になるよね」
ルーナが聞くよりも早く、ラトーニァは理解しているようだった。
いや、既にわかっていた。
「あのね、ルーナ。僕ね……君に隠していたことがあるんだ」
その言葉は力無く、自信の無さを意味付けていた。
「僕、ね。僕の、生まれつき持ってる魔法……得意な、魔法ね」
何かを恐れているように、体が少し震えている。
「きっと、ルーナは怖がるから、言いたくなかったけど……もう、決めたから。言うね」
しかし、決心したその顔には、一切の後悔が見られなかった。
「僕……
心が視えるんだ」
1
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。
Rohdea
恋愛
王太子でもあるエイダンの婚約者として長年過ごして来た公爵令嬢のフレイヤ。
未来の王となる彼に相応しくあろうと、厳しい教育にも耐え、
身分も教養も魔力も全てが未来の王妃に相応しい……
と誰もが納得するまでに成長した。
だけど───
「私が愛しているのは、君ではない! ベリンダだ!」
なんと、待っていたのは公衆の面前での婚約破棄宣言。
それなのに……
エイダン様が正妃にしたい愛する彼女は、
身分が低くて魔力も少なく色々頼りない事から反発が凄いので私に側妃になれ……ですと?
え? 私のこと舐めてるの? 馬鹿にしてます?
キレたフレイヤが選んだ道は───
※2023.5.28~番外編の更新、開始しています。
ですが(諸事情により)不定期での更新となっています。
番外編③デート編もありますので次の更新をお待ちくださいませ。
皇帝陛下!私はただの専属給仕です!
mock
恋愛
食に関してうるさいリーネ国皇帝陛下のカーブス陛下。
戦いには全く興味なく、美味しい食べ物を食べる事が唯一の幸せ。
ただ、気に入らないとすぐ解雇されるシェフ等の世界に投げ込まれた私、マール。
胃袋を掴む中で…陛下と過ごす毎日が楽しく徐々に恋心が…。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!
まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。
お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。
それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。
和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。
『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』
そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。
そんな…!
☆★
書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。
国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。
読んでいただけたら嬉しいです。
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる