58 / 101
婚約(正式)
其方は美しい
しおりを挟む「…………心?」
ルーナは、ラトーニァの二度目の告白に、首を傾げることしかできなかった。
(心?心が見える?じゃあ、今私が考えてることも)
「うん、全部視えてる」
心の声に相槌を打つように、ラトーニァは言葉を足す。どうやら心が視えるのは嘘ではないようで、ルーナは余計混乱に陥った。
心が視えるということは、今までの挙動も周りの心境に影響されたものだったということ。としたなら、今までの不審な言動もそれなりに納得できる。
クロエとゴトリルがダイニングに来る前に驚いていたのも、二人の心が視えたからなのだろう。
それ以外にも思い当たる節が次々と浮かび上がってきたが、ルーナは今それどころではなかった。
『心が視える』即ち、今まで自分が考えていたことは、全て筒抜けであったということになる。
この事実に辿り着くのは難儀ではなかった。
だが、それを知ってしまったルーナは、今まで自分がラトーニァに対して考えていたこと、それ以外のことも含めて羞恥に襲われてしまった。
「も、申し訳御座いません!!いつも余計なものを見せてしまって!!」
「え!?そ、そんな、余計じゃないよ!?」
自分でも訳のわからぬ謝罪を送るルーナと、それを慌てて受け止めるラトーニァ。
遠出から見れば、二人ともあわあわしており少し可愛らしかったであろう。
「あのね、あのね、今は、僕の、話を聞いて、ほしい……」
「あ……ごめんなさい」
ラトーニァに言われて、ルーナは一呼吸して心を落ち着かせた。
と言っても、心は視られているのだろうが、極力意識をしないよう努力していた。
ルーナが落ち着いたのを確認してか、ラトーニァは引き続き口を開く。
「あのね、これは、僕の魔法、の話」
少し、声のトーンが下がった……気がした。
「僕は、生まれつき、心が視えたの。視え方は、思ってることなら文字が浮き上がる感じで、感情は、色で視えるんだ。だから、動物の心も、植物の心もわかるから、今のお仕事をしてるの。それで、生まれつきだったから、これが、当たり前だと思ってた……でも、心を視てると、良くないことなのは、子供の時は、知らなかったんだ」
心なしか、声色が悲しんでいるようだった。
「心を視ると、みんな嫌がるなんて、知らなかった……使用人は僕のこと気味悪がったし、友達もどんどん減って…………だから、みんなには、内緒にすることにしたの。そうすれば、だ、誰も、僕のこと嫌わないから」
そう言う彼の顔は、深く傷付いた人がする時の顔であった。
「僕の魔法、知ってるのは、き、兄弟と、嫌がらなかった使用人と友達だけ……」
これだけ自分のことを寂しそうに打ち明ける者が、いただろうか。
「ごめんね……今まで、内緒にしちゃって」
謝る姿は、誰も咎められないほどに憐れであった。
「……気持ち、悪いでしょ。こんな魔法」
「いいえ」
月の下、ルーナは、ラトーニァの言葉を否定した。
「気持ち悪くなんかありません」
「……ルーナ?」
首を傾げるラトーニァに、ルーナは話を続けた。
「周りがその魔法をどう思っても、貴方のことをどう思っても、私は……あの庭で動物や花を愛でていた貴方を、気持ち悪いだなんて思ったりしません」
「ルーナ……」
「それに、嬉しかったんですよ。貴方と同じ気持ちだったことが。魔法なんて関係無い、私は貴方が好きなんです」
ルーナは、思ったことを伏せることなくラトーニァに全て伝えた。
ルーナは、ラトーニァの魔法を気味悪いだなんてこれっぽっちも思わなかった。
それよりも……
「今まで、辛抱なさいましたね。ラトーニァ様」
ラトーニァの今までの辛さと努力を、理解したいと思っていた。
「…………」
ラトーニァはというと、ルーナを見つめたまま動かない。棒のように突っ立っていた。
今まで見たことない反応に、ルーナは少し戸惑った。
(私……何か失言を)
ルーナが心配になり始めた頃、ラトーニァは不意に口を開いた。
「……やっぱり、君は『綺麗』だね」
うっとりと言うラトーニァに、ルーナは言葉を詰まらせた。
「き、れい……?」
「うん。初めて会った時から、ずっと綺麗だと思ってた。君のその、心……」
「こころ……」
ラトーニァに言われた心が、自分のことを指しているなど思ってもいなかったルーナは、驚きもあったがそれ以上に恥ずかしさが勝ってしまった。
「な、何を仰って!!それって……!」
動揺するルーナに、ラトーニァはゆったりとした足取りで歩み寄る。
そして、未だ花を持ち震えるルーナの手を、両の手で包み込んだ。
「此処の家に君達が初めて来た時、オリビアやエレノアやクロエの心は落ち込んでいたけど、それでも真っ白で綺麗な心をしていたよ。でもね……」
間近にあるラトーニァが、微笑んだ。
「君はあの中でも一際輝いてたよ。宝石みたいにキラキラで……美しかった。だから、あの時、僕は君を選んだんだ」
「……そう、なのですか」
ラトーニァの言葉に、ルーナは顔を赤らめて聞くことしかできなかった。
(こんな私が……美しい、だなんて)
「それにね……」
恥じるルーナを待つことなく、ラトーニァは続けた。
「周りの『目』で見た君も、本当に美しいよ」
ルーナの心に触れたからこそ言えるこの言葉が、彼女の中で何度も響いた。
ロズワートには、この顔が下賤だと言われた。
あの時は流石に傷付いたが、今はもう気にすることもない。
目の前にいる人が自分を『美しい』と言ってくれたから。
「……ありがとうございます。ラトーニァ様」
ルーナから出た言葉は、感謝であった。
「私のことを、選んでくれて……美しいと、綺麗と言ってくれて」
ありがとうございます
言いたかった言葉は、涙に掻き消されてしまった。
声を押し殺して泣くルーナの手を、ラトーニァはずっと握っている。
月の下、白い花々が二人を祝福していた。
翌日、いつも通り支度を施されている間、メイド二人から昨夜のことについて鼻息荒く質問責めされたことは良い思い出となった。
2
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。
Rohdea
恋愛
王太子でもあるエイダンの婚約者として長年過ごして来た公爵令嬢のフレイヤ。
未来の王となる彼に相応しくあろうと、厳しい教育にも耐え、
身分も教養も魔力も全てが未来の王妃に相応しい……
と誰もが納得するまでに成長した。
だけど───
「私が愛しているのは、君ではない! ベリンダだ!」
なんと、待っていたのは公衆の面前での婚約破棄宣言。
それなのに……
エイダン様が正妃にしたい愛する彼女は、
身分が低くて魔力も少なく色々頼りない事から反発が凄いので私に側妃になれ……ですと?
え? 私のこと舐めてるの? 馬鹿にしてます?
キレたフレイヤが選んだ道は───
※2023.5.28~番外編の更新、開始しています。
ですが(諸事情により)不定期での更新となっています。
番外編③デート編もありますので次の更新をお待ちくださいませ。
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー
「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」
微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。
正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!
まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。
お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。
それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。
和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。
『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』
そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。
そんな…!
☆★
書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。
国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。
読んでいただけたら嬉しいです。
皇帝陛下!私はただの専属給仕です!
mock
恋愛
食に関してうるさいリーネ国皇帝陛下のカーブス陛下。
戦いには全く興味なく、美味しい食べ物を食べる事が唯一の幸せ。
ただ、気に入らないとすぐ解雇されるシェフ等の世界に投げ込まれた私、マール。
胃袋を掴む中で…陛下と過ごす毎日が楽しく徐々に恋心が…。
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる