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婚礼
乱入
しおりを挟む公爵達が入場してからは固く閉ざされていたはずの扉が開かれる。
その向こうから、複数の人影が近付いてくるのも見える。その正体が露わになった時、姉妹達は咄嗟に身を構えてしまった。
来客者達もなんだなんだと扉の方に視線が向き、両親も同じようにそちらを見て、絶句していた。
大広間に入ってきたのは、ロズワートとアレッサであった。
此処にいるはずのない、いてはならない二人が、互いに手を取り優雅な足取りで此方へと近付いてくる。その顔はどちらも満足げな笑みを浮かべていた。
そして、その遥か後ろからは、アミーレアの国王であるアグナスが、慌てた様子で走ってくるのが見えた。国王である彼が走っているのである。相当焦っているのが見て取れた。彼の傍で、護衛の騎士も同じように走っている。明らかに異様な光景で、姉妹達はおろか、来客達も困惑していた。
しかも、ロズワートの隣を歩くアレッサの姿は、一際目立つものであった。
胸元から背中までぱっくり開いた純白のペルラインドレスを、アレッサは身に纏っていた。
姉妹達にも負けないほどの白さを放つそのドレスは、袖や襟の部分に高価そうな宝石が散りばめられている。いくら金をかけたのか聞きたくなるような代物を、アレッサは堂々と着こなしていた。
彼女の顔は普段以上に白く、妖艶な色合いの化粧が施されており、両耳にも豪華な宝石を埋め込んだ耳飾りが付けられている。
そんな彼女を連れて、ロズワートは此方へと向かってきていた。
ロズワートとアレッサは、祭壇の側にいる公爵達の前……大広間の中央で足を止めると、公爵と姉妹達に深々と頭を下げてきた。
「お初にお目にかかります。ラヴェルト公爵家御一行様。そして、久しぶりだ、ガルシア姉妹」
そう言って微笑むロズワートと、隣で和かな表情を晒すアレッサに、姉妹達はただならぬ不信感を覚えた。
自分達を陥れた二人が、どの面を下げてこの場に乗り込んできたのか、全くもって理解できなかった。
ロズワートとアレッサに対して良い印象を持ってない姉妹達は、二人が目の前にいるだけで動悸を起こしそうになっていた。
「申し遅れました。私アミーレア王太子のロズワートであります。この度は婚礼に御招待くださり、誠に感謝申し上げます」
「アレッサ・クラシウスで御座います」
淡々と自己紹介する二人に、来客の波が不穏に揺れ動く。
それもそのはずだ。姉妹達が此処にきた理由も、国民は皆人伝いに知っているのだから。情報を流したのは……恐らく婚礼の期日を伝えた者と同じであろう。
ただ、姉妹達はロズワートの自己紹介よりも、「招待された」というその後の言葉に驚いていた。
ラヴェルト公爵家が、元凶であるロズワートとアレッサを呼んだ?一体何のために。
しかし、その言葉はラゼイヤが口を開けたことで虚偽であることがわかる。
「はじめまして、王太子殿。それにアレッサ御令嬢。此処まで遥々おいで頂きありがとうございます。ですが、おかしいですね。私がアミーレア王国の関係者で招待したのはガルシア辺境伯夫妻とアグナス国王殿下だけなのですが?」
笑って答えるラゼイヤに、ロズワートは表情を変えず言葉を繋げる。
「何を仰っているのですか。
アミーレア時期国王となる私もそれに含まれるのでしょう?」
ロズワートの発言に、公爵家と姉妹達は首を傾げているだけであったが、後ろから駆けつけてきたアグナスはそれに対して激昂した。
「ロズワート!!何を勝手なことを抜かしておるのだ!?貴様は廃嫡が決まっておるのだぞ!!」
アグナスの叫びに、大広間にいた者達全員がどよどよとざわめき出した。姉妹達は、その事実が衝撃すぎて言葉も出ない。
ロズワートが廃嫡
アミーレア王国の事情はベルフェナールに来て以来全く耳にしていなかったため、そこまでの展開があったことに姉妹達は驚きを隠せなかった。
「それに、その女の服は一体どうした!!貴様にそのようなものを誂える金などないだろう!?」
アグナスは、彼の隣にいるアレッサにも鋭い視線を向ける。確かに、廃嫡される予定であるロズワートが金銭を動かせる力などないだろうに。
しかし、ロズワートは未だ涼しい顔を崩さず、揚々と口を開いた。
「父上、私は王太子なのですよ?王族の資金は私の資金でもあるじゃありませんか」
「な!貴様、まさか!!」
「ええ……少しお借りさせて頂きました」
ロズワートの言葉に、アグナスは顔が真っ青になっていた。
ロズワートの言う「借りた」とは、恐らく国の金を使ったのだろう。しかし、アレッサの衣装を見る限り、少しでは済まないようだが。
「貴様は、なんということを……今でさえ経理を回すのも苦しいというのに、国の資産を無断で使うなど、どれだけ罪深いことなのか分かっているのか!?」
アグナスは、次に顔を真っ赤にして憤慨している。既に沸点を振り切ったであろう彼の目は、今にも討たんとしている様子でロズワートとアレッサを睨んでいた。
しかし、ロズワートはその視線すら怯えることもなく、アグナスに笑みを返す。
「ご安心下さい。資産でしたら、外交でいくらでも戻せるのですから」
その言葉に、姉妹達は息を呑んだ。
外交で戻す。
外交を扱っていたのは、姉妹の父親であるデカートだった。
ガルシア領は、今はベルフェナールの所有地である。
しかし、ロズワートはそのガルシア領で、国の金を戻すと言ったのだ。
ますます意味がわからなくなる。
一体どうやって今までと同じように外交を行うというのだ。
明らかに困惑している姉妹達に、ロズワートは再び視線を戻す。
そして、自然とした笑みを浮かべたまま、ゆっくりと口を開けたのだ。
「ガルシア辺境伯令嬢。お前達を、私の側妃として任命する」
その言葉に、姉妹達は今度こそ動悸を起こした。
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