地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

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第四章 皇女様の帰還

第11話-2 会議

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「どういう事だ? イツシズと皇太子はグルのはずじゃ……それがなぜこんな噂が……しかも、広がりの速さ的に、この噂も意図的なものだろ?」

 慌てたような一木の言葉に、猫少佐は頷いた。

「間違いないですね。そして、実のところこの噂の出どころも分かっています……皇族です」

「皇族?」

 怪訝そうに聞き返す一木。

「はい。そして、この件に関しては確定的な証言もあります。ガズルさん、お願いします」

 猫少佐がそう言って促すと、画面の脇から一人の中年男性が現れた。
 見事に禿げ上がった頭に、立派な髭を生やした、いかにもスケベそうな男だ。
 瞬間、グーシュとミルシャが露骨に嫌な顔をした。

「おお! 本当に生きとったかグーシュ!」

「まさか……叔父上も協力者だったとは……」

「当たり前だろうが! こんな美女だらけの連中に協力せんでどうする!」

 あんまりな言葉に、一木まで不安に駆られてきたが、報告ではかなり有力な協力者なのだ。
 現地での評判以外では、これ以上ないほどだ。
 その唯一の欠点が、あまりにも大きいのだが……。

「ガズルさん、まずはあなたの証言を皆さんに……」

 浮かれるガズルを、猫少佐が促す。

「おお、そうだな。あれは昨日の昼前……幹部の騎士に官吏、主要皇族に、緊急の招集が掛けられた時の事だった……」

 そして、ガズルが語ったのは、現在の帝都で起こっている驚くべき状況の一端だった。



 昨日、連邦標準時10:00。
 ガズルはすっかり人間の使用人から入れ替わった、自分の邸宅を根城にする諜報課のSSに起こされて目を覚ました。

 起こしたのは猫少佐だった。
 ルーリアト特有の使用人服ではなく、地球のメイド服をわざわざ着込んでいた。
 ガズルが地球の服装の方がエロいからと、無理やり着るように頼みこんだのだ。

 ほんの数週間前、いつものように酒場で女漁りをしていた時、向こうから声を掛けて来た美女と一夜を過ごしたのがすべてのきっかけだった。

 その翌朝に突然外国の協力者になってくれと言われた時、ガズルは二つ返事でそれを了承していた。
 彼にとっては、女こそが人生の全てだった。
 
 自分でも異常であると分かってはいたが、全く制御不能な性欲求。
 それを満たしてくれるなら、何もいらない。

 そう思っての浅慮にもほどがある選択だったが、それは正しかった。
 姪のグーシュにまで手を出すほどのスケベ心が、美女が紹介してくれた仲間の女達と一夜を過ごしてからは、半日程度はおとなしくなったのだ。

 最近ではガズルはまともな思考力を手に入れ、数十人の子供達への財産分与や借金の処理、皇族らしい仕事や身内の嫁ぎ先の斡旋、公務、そして地球連邦の諜報活動のサポートをこなせるまでになった。
 
 もっとも、その素晴らしい変化は、これまでのあまりにも大きすぎる悪名と子供の数により、全く知られることは無かったのだが。

「おお、みゃおちゃんか……おはよう、よい朝だな。今日も、太陽と君の美しさを目に出来て、うれしい限りだ」

 ガズル渾身の口説き文句だったが、猫少佐はうんざりしたような表情で言葉を受け流した。

 全裸で寝台に胡坐をかくガズルの周囲には、驚くべきことに電力の切れた、諜報課のハニートラップ用のSSが四人転がっていた。

 メタルアクチュエータを最大出力で稼働させ続ければ、確かに有機バッテリーが一晩ほどで無くなるのは確かなのだ。
 だが、性行為でそのような事が出来るという事実に、猫少佐たちは当初かなり引いていた。

 もっとも、それら負の感情を、ガズル当人はたったく感じ取れていなかったのだが……。

「昨晩も君達には多くの愛を貰った……やはり朝はいい……また夕方までは股間に囚われずに仕事が出来るな」
 
「それは結構……実は、先ほど城から呼び出しが掛かりました。なんでも、主要な重臣や皇族は大広間に集合とのことです」

 猫少佐の言葉に、ガズルはピクリと反応した。
 今のガズルには、ここ最近の予定が思い出せた。

「なるほど、グーシュが川に落ちた件が伝わったか」

「ええ、その様ですね。ついては、恐らく皇帝からまずは主要な人間に発表があると思われます。我々としても、帝国側の反応を知るよい機会です。いつも通り、体調が悪いガズルさんのお世話係という事で、私たちも同席します」

 ガズルは帝弟として、本来ならばそれなりに公務で忙しい身である。
 だが、これまでは女、女、女……。
 ろくな活動などしていなかった。

 だが、これ幸いと猫少佐たちはそれを利用した。
 女遊びと不摂生がたたり、ガズルは体を悪くしていると事実をでっちあげ、お世話係として帝城に諜報課の人員を入れることに成功したのだ。

 どんな重要箇所に居ようが、ガズルと一緒にならば、特に女の側が服を乱れさせてさえいれば、誰もが納得してくれるのだ。
 こんなに諜報向きな人材はいない。
 今では猫少佐は、ガズルをそれなりに評価していた。

「うむ。よろしく頼むぞ。じゃあ、今日はネネちゃんと、ンデイちゃんと、マリアちゃんと……」

「…………チッ……スケベジジィ……」

 そんな定例となったやり取りを終えたガズル達は、急ぎ帝城へと向かった。
 急な招集にもかかわらず、大広間にはすでに主だった重臣や騎士、皇族たちが集っていた。

 そして、ある種予想通りではあったが、すでに集まった人々にはある程度の情報が伝わっていた。

 広間は、グーシュの生死や実行犯についての噂でもちきりだった。

 それらに聞き耳を立てつつ、ガズルは小声で猫少佐に尋ねた。

(随分と早いな……イツシズか?)

(その様ですね……うちの情報網からも、イツシズの子飼いの者が皇族を中心に噂をバラまいているのを確認しています)

(なるほど……あれ、私は?)

(ガズルさんに情報を渡しても無駄と判断されたのでは?)

(なるほど、イツシズめ……見る目は確かか)

(その様ですね。さらに、現在では皇族の使用人等から、一般にも噂は広まっています)

(しかしなぜ皇族に?)

(皇女のグーシュ殿下に関する噂が、皇族から流れて来たとなれば、信ぴょう性が増すからですよ)

 一人だけ椅子に座り、どこかの民族衣装(メイド服は彼らにはそう見えた)に身を包んだ美女に囲まれ、そのうち一人と小声で何やら喋っているガズルを見ても、周囲の人間は誰も気にしていなかった。

 ただ、どこか生暖かい目で、その光景を眺めるばかりだ。
 誠に、人間の評価とは積み重ねである。

 そんな騒がしい広間に、新たに入室してきた男がいた。
 背後に帝都駐留騎士団の団長と、近衛騎士団長を従えたイツシズ近衛騎士団人事担当官だ。
 
 二人の団長を従えるなど異様な光景に見えるが、皇太子派のトップとして帝都で強大な力を持つ彼に対し、表立って批判する者は皆無だ。

 ましてや、彼にとって最大の政敵であった、グーシュリャリャポスティ皇女が不幸な事故で行方知れずになったのだ。

 その権力を遮るものはすでにいないも同然だった。

 そして当然の如く、誰もが考える”グーシュが川に落ちた理由”を指摘できる者もいない。

 彼は不吉な噂にもかかわらず、笑みを浮かべ、自らの定位置についた。
 
 重臣たちの列に紛れた彼は、二人の騎士団長の陰に隠れているものの、その風格は王者の如く。
 その権勢を遮るものは、もはやいないと思われていた……。

 ドン!!!

 そんな中、大広間に響いた大きな音に、重臣たちは凍り付いた。
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