前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
33 / 63

ドラーゴとの邂逅

しおりを挟む
「アイリス、ずっと飛び続けて力が尽きたりしないのか?」

 しばらく飛んだ頃、アンドリューが心配そうに聞いた。

「大丈夫大丈夫。私、力が尽きたことないのよ。前世でも、あの大きな結界を維持するのに何の苦労も無かったわ」

「そうか。さすがだな」

「アンドリューこそ、ずっと私を抱いてるけど大丈夫なの? 重くないの?」

「風の力で重さは感じない。軽いもんだ」

 この方が負担が少ないから、と言われ私はアンドリューの首に手を回して密着する形で抱かれている。

(エドガーともこんなにくっついたことないのに……)

 チラッと上を見るとアンドリューの顎が見える。すました顔で前方を見つめているのがなんだか癪に触り、私もずっと前を向いていた。

 
 やがて陽が沈み始め、空が緋色に染まっていく。東部辺境の森はもうすぐだ。

「アイリス。人がたくさんいる」

 ヒューイが教えてくれた。前方に、騎士団らしき一行が見える。

「あの辺に辺境師団の駐屯地があるはずだ。そこに集まっているんだろう」

「アンドリュー、私たちは森の中に入ってみる?」

「そうだな。魔獣の住処の可能性が高いからな」

 飛んでいる状態から地面に降りるのはなかなか難しい。勢い余って頭から突っ込むこともあるのだ。ヒューイに手伝ってもらって、なんとか上手く着地することが出来た。

 せっかく身体が見えなくなっているので、森に入る前に騎士団の作戦本部を覗いてみることにした。騎士たちの中心にテオドアとステラがいる。なんとビクターもいた。そういえば昇進したとキャロラインが言っていたような。

「いいか。視認された魔獣は緑色の鱗状の身体を持ち、蝙蝠のごとき翼を広げて飛ぶ。かなりの巨体であり、前足と後ろ足に鋭い爪。長い口を大きく開けてギャーと声を上げる。その口には大きな牙が見えたという。未だ攻撃されてはいないが、恐らく火を吹くに違いない。爪と牙にも気をつけろ」

 テオドアが辺境師団からの報告をもとに団員に説明している。

「空を飛ぶのであれば弓で狙うしかないだろう。ステラ様の加護を頂いた矢を用意し、全員で狙うぞ。地面に落ちてきたら剣で素早く眉間を切り裂け。わかったな」

「はい!」

「ステラ様、背後の結界と瘴気払いをよろしくお願いします」

「はい、テオドア様。頑張ります」

(そんな、一人で加護と結界と瘴気払いなんて。無理に決まってるじゃない、テオドア……無理でも頼らざるを得ないのだからしょうがないけど)

 私とアンドリューは本部から出て、森へ入って行った。ドラーゴが森の外に出てくる前に討ち取ろうと思ったのだ。

 森の奥まで来ると身を隠す魔法を解いた。アンドリューが腕を擦りながら呟く。

「やっぱり、身体が見えていないと落ち着かないな」

 もう空は紫色に変わり、森の中は真っ暗だ。私は『ルーチェ』と呪文を唱え、手のひらに小さな明かりをともした。

「ヒューイ、どう? 近い感じする?」

 目を瞑り気配を感じようとしていたヒューイは、ある場所で止まった。

「嫌な感じ、する」
 
 ズザザザァ――木々が、葉っぱが擦れる音がする。

 それは唐突にやって来た。一体どこに潜んでいたのか、密集した木立の間を荒々しく通り抜け、木々を無惨に薙ぎ倒してそいつは現れた。

「ギャアァァ――――」

 甲高い咆哮が森に響き渡る。赤い色の目はギョロリと大きく爛々と光って、開いた口からは鋭い牙と真っ赤な舌が覗いていた。そして大きく息を吸い込み――炎を吐いた。

防御デイフェーザ!」

 私はドラーゴとの間に防壁を張り、炎を防いだ。進路を塞がれた炎は壁を伝い、四方へ広がる。

「とんでもない勢いの炎だな!」

 アンドリューは剣を抜き、臨戦体勢に入るが炎の量が多すぎて前に出て行くことが出来ない。

飛べヴォラーレ

 弓に矢をつがえ、私は防壁の上へと飛んだ。ドラーゴも上を向き、飛び立とうと翼を動かしたその時に、眉間に目掛けて光の矢を放った。

「ギャオォォォ――――」

 ドラーゴは苦しむが、私の小さな矢は深く刺さってはいない。ただ、その一瞬だけ、炎が止んだ。

「はあっ!!」

 アンドリューが壁をすり抜けドラーゴに向かって飛び上がる。ドラーゴの前足を踏み台にして、顔の正面にジャンプすると剣を一閃し、矢の刺さっている眉間を切り裂いた。

「グオォォォ……」

 気持ちの悪い唸り声を上げてドラーゴは俯いた。そして頭から地面に倒れ込んでいく。やがてその身体はサラサラと崩れていき、風に乗って消えていった。

「やったの……?」

「そうだな」

 私は空から降りるとアンドリューの横に立った。

「大丈夫? 怪我は無い?」

「ああ。だが、あの壁が無かったら危なかったな。今頃、丸焦げになっていただろう」

「全然違うわ、普通の魔獣と。身体の大きさも炎の強さも」

「こんなのがあと九体もいるのか……」

 その時、悲鳴が聞こえた。

「あれは?」

「駐屯地の方だ」

「まさか、もう一体いるの?」

 私はすぐにヒューイを呼び、アンドリューと共に駐屯地へ飛んだ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。 本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。 しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。 試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。 ◇   ◇   ◇ 「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」 「お断りいたします」 恋愛なんてもう懲り懲り……! そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!? 果たして、クリスタの恋の行方は……!?

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

処理中です...