銀色の恋は幻 〜あなたは愛してはいけない人〜

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
7 / 53

7 面接

しおりを挟む

 翌日、緊張して役所へ向かったリンファ。今日面接を受けるのは三人。一人は黒髪を真ん中から二つに分け、耳の下で結んだ少女。笑った口元がとても可愛い。もう一人は前髪を真っ直ぐに切り揃えた幼い様子の娘だった。
 三人は一つの部屋に通され、並んだ椅子に腰掛けて待っていると、ドアが開き面接官だという女の人が入ってきた。

「待たせましたね。今から面接を始めます」

 書類と三人を見比べながらじっと何かを考えている様子だ。

「シーシ。あなたはもう帰ってよろしい」

 幼い娘はすぐに部屋から出されてしまった。面接官はリンファたちに向き直るとニコリと笑った。

「さっきの子は親が推薦して申し込んできたのでやむを得ず面接したのですが、後宮にはふさわしくない容貌のうえまだ幼なすぎました。さて、あなたたちは合格です」
「えっ、もう合格ですか?」

 思わずリンファは聞き返してしまった。顔を見られただけで、何も特技を披露していない。
 フフ、と面接官は笑った。

「後宮は見た目重視なのです。それに、身元はまず役人がちゃんと調べていて、その上で容貌の良い者を推薦してくるのです。役人からの推薦枠のあなたたちは、もうそれで合格です。ところであなたたち字は読めますか?」
「はい」

 リンファは即答したが、もう一人は小さな声で読めません、と言った。

「ではリンファ。あなたがこの紙に書いてあることをメイユーに説明してやりなさい。ここに、注意事項が書いてありますから」
「はい、わかりました」
「それと、早速明日から後宮に入ってもらいます。家族と過ごせるのは今日が最後ですから、悔いのないように」

 隣のメイユーが体を震わせるのをリンファは感じた。きっと、家族と離れるのが辛いのだろう。

「では明日、同じ時刻にここに来ること。それから私があなたたちを後宮に連れて行きます」

 面接官が部屋を出たあと、リンファは紙に書いてあることをメイユーに読んでやった。

「支度金は明日後宮に入る時に渡す。給金は月に一度。働きのいい者は昇給あり。王以外の男性と接触禁止。後宮から出ることも禁止。上級女官には絶対に服従すること。もしも王のお手付きがあれば、部屋をもらえる。それまでは大部屋で……」

 恐ろしくたくさんの決まり事が書いてあった。メイユーも頭が混乱しているようだ。

「どうしよう、間違えてしまったら……」
「大丈夫よメイユー。一番良くないのは男性との接触。それと外出。あとはもう、慣れていくしかないんじゃないかしら」
「リンファ……は、怖くないの? 親と離れて後宮に入ること」
「もちろん、初めてのところへ飛び込むんだもの、怖いわ。でも私には、恩返しという目標があるから。明日、それは一つ叶うんだけど、これからもずっと仕送りをするためにも頑張って後宮で長く働いていかなくちゃね」
「そう、だね。私も親に仕送りしたいの。うち、兄妹多くて、食べるのがやっとだから……」

 近所では器量の良いほうだったから、役人から推薦された時、メイユーの親は飛び上がって喜んだそうだ。

「でも、ここに来てリンファを見たら、私程度の顔でよく推薦されたなあって不思議になっちゃった」
「何言ってるの! メイユーは可愛いわ。笑顔がとっても素敵よ。仲良くなれそうだなって一目で思ったの。ねえメイユー、私たち友達になりましょうね」
「ええ、リンファ! お友達がいれば後宮も怖くないわ、きっと」

 後宮の女の闘いの怖さは庶民にも漏れ聞こえている。もちろんそれは、王が足繁く通うであろう上級妃たちの間でのことだろう。

「じゃあまた明日ね、メイユー」
「ええ、リンファ。また明日」

 役所を出たあと、リンファはふとあの森に行ってみる気になった。あれ以来、一度も行ったことはない。ガクは今でもしょっちゅう薬草を取りに行っているけれど。

(後宮に入れば王が代替わりするまで出ることはできないわ。もしかしたら生きてるうちに出てこられないかも。一度だけ、行って見ておこう。私がすべてを忘れた場所を)

 ガクや町の人々が出入りしている外壁の崩れた場所は知っている。そこからそっと外へ抜け出て、リンファは森へ向かった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

伝える前に振られてしまった私の恋

喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

異世界転移って?とりあえず設定を教えて下さい

ゆみ
恋愛
凛花はトラックに轢かれた記憶も階段から落ちた記憶もない。それなのに気が付いたらよくある異世界に転がっていた。 取り敢えずは言葉も通じる様だし周りの人達に助けられながら自分の立ち位置を把握しようと試みるものの、凛花を拾ってくれたイケメン騎士はどう考えてもこの異世界での攻略対象者…。しかもヒロインは凛花よりも先に既にこの世界に転生しているようだった。ヒロインを中心に回っていたこのストーリーに凛花の出番はないはずなのにイケメン騎士と王女、王太子までもが次々に目の前に現れ、記憶とだんだん噛み合わなくなってくる展開に翻弄される凛花。この先の展開は一体どうなるの?

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

毒姫ライラは今日も生きている

木崎優
恋愛
エイシュケル王国第二王女ライラ。 だけど私をそう呼ぶ人はいない。毒姫ライラ、それは私を示す名だ。 ひっそりと森で暮らす私はこの国において毒にも等しく、王女として扱われることはなかった。 そんな私に、十六歳にして初めて、王女としての役割が与えられた。 それは、王様が愛するお姫様の代わりに、暴君と呼ばれる皇帝に嫁ぐこと。 「これは王命だ。王女としての責務を果たせ」 暴君のもとに愛しいお姫様を嫁がせたくない王様。 「どうしてもいやだったら、代わってあげるわ」 暴君のもとに嫁ぎたいお姫様。 「お前を妃に迎える気はない」 そして私を認めない暴君。 三者三様の彼らのもとで私がするべきことは一つだけ。 「頑張って死んでまいります!」 ――そのはずが、何故だか死ぬ気配がありません。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...