俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十八章 VS傀儡君主

第228話 傀儡師物語6

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「ほーら朝食のパンとスープでーす! たーんとお食べ!」

 普段食べている様なカビてそうな硬いパンではなく、出来立てほやほやの柔らかそうなパンがずらり。
 底の深い木製のお皿には湯気が立つ良い匂いのスープ。ゴロゴロ具沢山で栄養満点だと直ぐに分かった。

 椅子に座ったボクの目の前にとても美味しそうな朝食が並べられている。

 用意してくれたグレーゼルは何事も無くにこやかにほほ笑んでるけど、当のボクはと言うと……。

「」

 顔を真っ青にして俯いていていた。

 それもそうだろう。だってお酒に酔い気分が良くなってさらに飲んだ以降、全くと言っていい程記憶が無い。

 初めての飲酒からの二日酔いと言う黄金パターン(著説あり)を経験したのは百歩譲っていいとして、百歩どころか千歩すら譲れない事があった。

「カルール♪」

「」

 グレーゼルと全裸で床を共にしたと言う事実……。それがボクに影を落とし、しかも記憶も無いと言うダブルパンチ。可愛い笑顔を振りまく彼女と違い、冷や汗が止まらないボクは雲となって消えてしまいたい一心だった。

「」

 消えてしまいたい。それは逃げていると一緒だ……。何から逃げている。それはから逃げているということ……。

 そんなの、男として最低だ。

「グレーゼル――」

 だから精一杯。

「――すみませんでしたああああああああ!!!!」

 勢いよく頭を下げて謝罪――

 ――ッゴン!!

「あだ!?」

 テーブルの角におでこをぶつけてしまった。幸いにもスープはこぼれていない。

「っぷ! あっははははは!! カルールって可愛いい~! あははは!」

 涙目でおでこを押さえながら笑うグレーゼルを見た。

「ちょ、何で笑うの!? ボクは真剣に謝って――」

「えー真剣に謝ってるんだぁ」

「そ、そんなの当たり前じゃん! だってボクは! その! えーっと……」

 ニヤつくグレーゼルに言葉を投げつけようとしたけど、やっぱり言葉が喉につっかえて出ない。恥ずかしくて……。

 オレンジ色の瞳がボクを見て離さない。するとニヤついた顔からどこか哀愁漂う顔へと変貌。

「昨日はすっごい激しかったなぁー」

「ッぅう!?」

「今でもここに熱いものがあるしぃー」

「ぅうう!?」

「赤ちゃんできちゃうかもぉー」

「ううう!?」

 グレーゼルがわざとらしく言った言葉は物凄く背徳感があるし、ますますボクは青ざめた。

 記憶にないと言い訳したい気持ちが湧くと同時に、どうして記憶が無いんだと物凄く悔やんだりもした。つくづくボクも男なんだと思い知らされた。

「……グレーゼル、その実はさ」

「ん? なぁに、パパ」

 ちょやめて。パパはやめて。

「その、言いづらいんだけどさ……」

「あー私もついにママかぁ」

 ちょやめて。わざとらしくお腹さするのやめて。

「記憶に、ないんだよね……。その、あ、愛し合った、こと……」

 自然に下がってしまった視線をグレーゼルの顔に戻すと。

「っひ!?」

 光の無い瞳がボクを見ていた。

「嘘だよね、カルール」

 勢いよく椅子から立ち上がったグレーゼル。

「昨日あんなにダメって言ったのに、容赦なく出したよね」

 そっとテーブルに置いてあったフォークが握りこまれた。

「ボクの子供を生めって言ったよね」

 スタスタと近づいて来る。

「責任取るって言ったよね」

「ひぃぃいい!?」

 黒いオーラを醸し出したグレーゼルに怖気づき、ボクは椅子ごと引き摺って後ずさる。

 そして握りこんだフォークの先端がゆっくりと顔を覗かせると同時に、光の無い瞳のグレーゼルが自然と視界に入った。

 そして。

「噓つきいいいいいいいいい!!!!」

 彼女の手が勢いよく振られた。

「ひいいいいいいいい!?!?」

 ――ッガ!!

 フォークはボクに突き刺さることなく、テーブルに先端を食い込まされた。

「な~んてね♪」

 鬼気迫った様子だったのに一瞬にして笑顔。

 それに対してボクはと言うと。

「」ガクガクガクガク

 涙目で震えていた。

 それからは冗談だと笑ったグレーゼルに少しばかりの怒りを覚えながらも冷静になったボク。冷めないうちにと朝食を食べながら、グレーゼルの口から驚愕の事実が語られた。

「ええ!? 何もなかったの!?」

「そうよ」

 椅子から立ち上がってしまった。

「そ、そんな事……だって裸だったでしょ! ボクたち二人!?」

「ええそうね。酔っぱらったカルールを介抱しながら家に戻ってぇ、せっかく裸になっていざ! って時に、カルールったら気絶したように眠っちゃうんだからぁ」

 ケラケラと笑うグレーゼル。短い関係だけど、嘘を言っているとはどうしても思えない。
 じゃあ仮に、本当に何もなかったとしたら……! 致した事実も無く、ボクがパパになる事も無く、グレーゼルがママになる事も無く、すべてが杞憂……!! ボクが一人でビビってただけの一人相撲……!!

「んーやっぱり鶏肉って美味しーよねー。スープに漬けといて良かったかもぉ」

「」ピキピキ

 ボクはキレていいと思う。美味しそうにご飯を食べる彼女にキレていいと思う。ボクをフォークで刺そうとした演技にたいしても、覚えていないと分かってて揶揄った事に対しても、ボクはキレていいと思う。

「――でもさ、はーだーか。誰にでも見せるんだって思われるのは嫌だなぁー」

「……え」

「私ってさ、お兄ちゃん以外にビビッと来たの、初めてなんだー」

「びび……?」

 視線を落とし、スープをスプーンでぐるりと回すグレーゼル。何を言っているのか一瞬分からなかった。

「ずっと前にパパとママが死んじゃってさ、お兄ちゃんと二人で暮してたの」

「……そうなんだ」

「辛い時も苦しい時も、俺は兄だからって、私を飢えさせない様にって、お兄ちゃんはずっと必死だった。だから、私はお兄ちゃんが大好き」

 唐突に重い話を切り出したと思ったら、不思議とボクの中にストンとパズルの様にはまった。

 当然だろう。ボクもまた、二人だったから。

「二人で頑張って暮して、ずっと二人っきりで過ごすんだと思ったけど、違った」

「……」

「カルール。あなたを見つけたの」

 オレンジ色の瞳がボクを見る。

「どこにでもいる旅人。汚れているし、なんか酢い~い臭いするし。目に光が無くて今にでも死んでしまいそうで……」

 ボクは臭かったのか……今も?

「でもね、マリオネットを操った時に、ぱっと目に光が宿ったの。路銀稼ぎで魅せてるのは分かってるけど、心の底から楽しそうに操る姿は、私に淡い感情を与えてくれたの……」

 湯気が消えた。冷めてしまった。

「ああ、これが恋なんだって、一目惚れなんだって、生まれて初めて知った瞬間だった。カルール、あなたにね」

 頬を染め、少し恥ずかしそうにはにかんだ彼女。

 ボクは今、どんな表情をしてるのだろうか……。

「グレーゼル……」

 ボクは逃げた。逃げ出した。

 ずっと二人だった。

 二人で一つだった。

 でも、心からそう思っていたのはボクの独りよがりだった。

 それを証明すること、確認することはもう出来ないし、今更確認するなんておこがましい。

 ボクもいい加減、前へ進まなきゃいけないのかもしれない。

「グレーゼル――」

 気付けばグレーゼルの隣へと足を運んでいた。

 立って視点を合わせる二人。

「カルール――」

 互いに手を握る。

 瞳を潤し、彼女は呟く様にボクの名を呼んだ。

 瞼を閉じる彼女。

 腰に手を回し体を合わせ、そっと、唇を合わせ――――

 ――ドンガラガシャン!!

「「!?!?」」

 突然吹き飛んだドア。

 ムードをぶち壊したそれに何だと睨むと。

「――お゛いゴラ゛ああああああ!! 人の妹に手ぇ出してんじゃねぇぞおおおあああああああ!?」

 ヘンテルこと酔っ払いが朝帰り。

 バタリと倒れるヘンテルに対し。

「このバカあああああああああああああああ!!!!」

 グレーゼルがキレた。
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