俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

文字の大きさ
238 / 288
第十八章 VS傀儡君主

第238話 チュートリアル:幕引き

しおりを挟む
 デンデデン♪

『チュートリアル:ボスを倒そう』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:スペシャルギフト』
 
 それは雨だった。

 ポツリポツリとチョコレートが溶けその雫が落ちるように、この蛍光色の世界が歪んで崩壊が始まる。

 彼を突き刺したフレキシブルブレードは水となり消え、それと同時に彼は血を流しながら膝を着いた。

「……あーあ。負けちゃったかぁー」

 口から血を吐き口元を汚しながらも、カルールは俺を見て楽しそうにそう言った。

 肩で息をしているも、少しづつ段々と、呼吸が浅くなっていくのが分かる。

 傀儡師《パペティア》・哭悲《サドネス》。それがこのダンジョン。

 でも雨が降る様に崩壊する今、カルールの行く末は既に決まったも同然だった。

「お前なら幾らでも戦えたはずだ!! なのに何で手を抜いた!!」

 胸倉を掴み、俺はそう言いたかった。

 当然だろ。

 卑屈な感じで、小馬鹿にした表情で俺と剣を交えてたのに、突然憑き物取れた様に表情を緩ませ、剣を交わせてきたからだ。

 しかもカルールの腹の中であるダンジョン。弱まったとしてもエルドラドを拘束できる程に力を残していた。幾らでもやりようはあったのに、彼は最後の一振りまで、決して力に頼らなかった……。

 呼吸が浅くなっていくのを見ながらそう思っていると、不意に、視界の端に黄金を見た。

「エルドラド、お前大丈夫――」

 大丈夫だと手で静止させられたにもあるけど、言葉が止まるのは当然だろう。ベコベコに凹んだ鎧、破損した兜。普段からは想像できないほどにやられていた姿が、今では見違えるように元に戻っている。心配を口にしたのは早かった様だ……。

 兜を被る後ろ姿のエルドラド。彼がカルールに何を思ってるのか分からないけど、カルール自身は血の気の引いた青い顔でニヤリと笑ったのが見える。

「ックフフ。……やっぱりか。本当に本気なんて出してなかったんだね」

「当然だろ」

「ボクの攻撃にワザと受けたのも、ワザと捕まったのも、疲弊した演技をしたんだねッ。あのままオバケくんが盾にならなければッ、ボクは手痛いカウンターを貰っていたッ……」

「ホントだぜまったく。情にカマかけて後ろのコイツが盾なんかなりやがったばかりに、俺の算段が台無しになっちまったよ」

 痛みに堪えるカルール。その光景を見て会話しているエルドラドの声はやれやれと言いたげに、静かで重い、そんな声だ。

「まぁおかげでウルアーラの残り香を嗅げたんだ。よくやったぞー萌くん」

「う、うん……?」

 少し顔の側面を俺に見せ感謝の言葉をくれた。

「よーし。お前には聞きたい事がある。放っておいても消滅する身だ、観念して答えろ」

「フフ……ッゴホ」

 片膝を立てて力なく座るカルールは少し笑い、血を吐く。その彼に対し視線を合わせるように、エルドラドはヤンキー座りをした。

「お前ら本能は俺たちみたいに徒党を組まず、それこそ本能のままに個人プレーをしている。そうだな」

「……少なくともッ、ボクが知る限りは、そうだねッ」

「ふむふむ。まあわかっちゃいた事だがな」

 そう。俺たち理性の見解は合っている。本能のルーラーたちはやはり思い思いに行動している。

「次だ。いくら個人プレーかましてるとは言え、暴走を抑制する抑止力の存在が居る……。つまりはお前らの中にも絶対的な力を持つ奴が居るはずだ……」

「……」

「そいつはどんな奴だ」

 ヤンキー座りで首を捻って顔を覗き込む仕草はまんまヤンキーだけど、そんな事気にもせず一呼吸したカルールは口を開く。

「キミの言う通りッ、抑止力的存在はいる……。でもそれは一人のルーラーでは無くてッ、三体のルーラーの三つ巴で成り立っているんだ……」

「ほう」

「その一柱の一つが、赤肌の戦闘民族――『刹利《せつり》』だ……」

「……刹利だと?」

 顔を上げて復唱したエルドラド。

「ど、どうやら、刹利の情報は握ってるみたいだね……」

「ああそうだな……。他には? 残りの二つはどんなだ」

「残念ながら、ボクが知っているのは刹利だけだ……。三つ巴ってのは刹利に聞いた話だし、他の本能たちと一緒でボクも個人プレーッ。基本的に干渉しないのさ……」

 ……嘘は言っていない。この場で嘘を付くのは意味がないし、この期に及んでそんな真似はしないだろう。……剣を交えた俺にはわかる。

 そう思いながら立ち尽くす。土砂降りの糸の雨に晒された俺たち。ここの主は、どんどん力を失っている。

「……最後の質問だ」

「……なんだい」

「お前は……お前ら本能はいつもそうだ。戦いの最中、死期が迫った老人みたいに急にしおらしくなって雰囲気が変わりやがる。流行ってんのかそれ?」

「――」

 雰囲気が変わる。

 それは俺も感じた。

 お互いのしのぎを削って戦っている最中、一撃一撃に殺意を込められた攻撃が急に変わり、どこか優しさを感じた……。

 それだけじゃない。体のしなやかさも、晴れやかな表情も、俺に少なくない動揺を生ませた。しかもそれが嘘ではない事も要因の一つだ。

 そしてこの質問をしたエルドラドにも、俺と似た状況があったんだと想像に難くない。

 俺とエルドラド、二人共通の疑問。

 どんな大層な理由があったのか固唾を飲んで待ち構えた。

「簡単だよ――」

 だけど。

「――最期は正々堂々……勝負したかった。それだけだよ――――」

 それは至極簡単な心情だった。

「――カルーディ」

「――――」

 その一言から彼は何も喋らなくなり、被っていた小粋なハットがはらりと落ちた。

 段々と白くなっていく世界。

 彼の過去に何があったかなんて、俺は知る由もない。

 でもきっと、人並みの小さな幸せは、感じていたんだと思う。

 だって、そうじゃなきゃ、最後に笑って、黙り込んだりなんかしない。

「……ウルアーラさん。仇は、取りました」

 何故だろう。不意に涙が流れたのは。

 でもそれはエルドラドに見られていないはずだ。

 頬を伝う一雫なんか。

 この世界に降る雨に。

 一緒に流されるから。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...