俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十九章 進路

第244話 チュートリアル:レアだぞ俺は

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「「かんぱーい!!」」

 コン! と音が鳴ったのは乾杯したからだ。

 世間話や会社の愚痴、お悩み相談など、ガヤガヤと賑わう大衆居酒屋。

 売り上げ好調なのか、本土を乗り越えて学園前駅に店舗を構えた店――鳥貴野郎。

 その大衆居酒屋の端にある二人用のテーブルで俺と開木さんはささやかな宴をしていた。

「――ンク! ンク! ップハー!!」

 ビールを半分ほど飲んだ開木さん。なんとも満足そうた。

 ミックスジュースを少し飲んだ俺は、酔いが回って頬を赤くした開木さんを見た。

「いい飲みっぷりですね!」

「そりゃ当然だよ花房くん。ストレスが溜まってたんだろう、脱退してから味がしなかったビールが、今じゃ最高にのどごしがいい! ンク!」

 ゴクゴクと喉を唸らせて飲み干した開木さん。

 季節的にも「ボーラーレッ♪」っとCMが響いて来そうな飲みっぷりだ。

「失礼しまーす野郎焼きタレスパイスとかわたれでーす」

「「あ、どうも」」

 笑顔が可愛い店員さんが頼んでいた串焼きを持ってきてくれた。まぁ営業スマイルなんだろうけど、こういったところでもこの店が繁盛しているんだと思った。

「すみませんお姉さん、生ビール一つで」

「生一つ~」

 気分良くした開木さんが再度ビールを注文。飲むの早すぎて草生えるけど、飲み過ぎて介抱しなきゃならなくなるのだけは勘弁願いたい……。

「いやぁそれにしても見たかい? 彼らの顔!」

「おぼえてろよおおお!! って四人揃って捨て台詞吐いて逃げて行ったのは笑うどころか驚きましたよ……。まさかリアルガチで言われるとは……」

 喧嘩吹っかけた俺が勝利して握手で終わろうとにこやかに近づいた結果、サークルの面々は血相を変えてどっかに行ってしまった。

 無礼を謝ろうかと気構えていたけど、まさか無礼で返されるとは思わなんだ。

「ビールでーす」

「どうも~」

 今度は違うお姉さんがビールを持って来た。

 広くはないテーブル。そこに串とグラスが並ぶもんだから狭いのなんの。俺たち二人は野郎焼きを頬張った。

「うし、うし、うし――」

 なんと特徴的な食べ方……。

 地下労働者かよ……。

 地下労働で初給料。寂しすぎる夕食の後に売り出されるポテチ、柿ピー、焼き鳥……ッ!!
 ここでペ〇カを使ったら負けだと狸寝入りを決め込むギャンブラーだけど、隣からはうまそうに食われる焼き鳥ッッ!!
 翌々考えると脱出するためには金が余ると思い、鼻の長いギャンブラーは見事屈してしまう。

 まぁ俺たちには関係の無い事だ。だって冷えたドリンクも、美味い焼き鳥も、普通に食えるんだから……。

 と、焼き鳥にスピードメニューにドリンクといったピンゾロな光景。

 開木さんがジョッキ半分までビールを飲んだ。本当に気分が良い様子だ。

「――ンク。……いやはや、復讐なんて持ってのほっか! 次元ポケット片手に静かに暮らしてたけど、はは、案外スッキリするもんだな」

「ははは……」

 ケラケラと笑う開木さんの言葉、復讐。

 俺も最近、復讐、敵討ちをやった身だ……。俺の場合はこの手で止めを刺したのと、間接的に痛い目を合わせた開木さんとは勝手が違う……。

 そういった違いによる復讐の

 俺のは到底、笑い話にはならない。

 この胸のしこりは、時間が解決してくれるのかな……。

「ん? どうしたんだい暗い顔して」

「え、あ、いやチョット、スパイス効き過ぎかなぁて思って!」

 思わず口に出したセリフ。とっさの嘘、ではないけど、開木さんはそんな俺に対しにこやかにほほ笑んだ。

「だったら他の串焼きでも頼むといい! もちろん一品ものもな! 今日は私のおごりだから好きに食べてもいいよ!」

「ッ!! ありがとうございます!!」

 おごりと言われ純粋に喜んでしまう。

 フリー攻略者の開木さん。まだまだ学ばせていただきます。


 翌日・昼頃。

 遊び、サークルへの引率願い、そしてマリオネットレイドといったあまりにも濃すぎる夏休み。その夏休みもあと数日で終わるともなれば、夏休みの宿題や課題が終わってない人たちはさぞ大慌てだろう。

 実のところ、俺もその中の一人だったり。と言っても、9割片付けてるから若干の心の余裕がある。

 予定が無いと言えばそれは嘘。課題をやる事に忙しいと、既に終えた暇な大吾たちにメッセージを送信済み。机に嚙り付き、ペンだこができる程に勤しむ俺。

 超高性能アンドロイド(技術は不明)の我が家のリャンリャンをも引っ提げて課題に勤しんでいた。

 ――なんて事あるはずもなく。

「ん~ん……」

 我が家の我が部屋にて脚を組み座禅。絶賛全裸待機で神妙に待っていた。

 静か。非常に静か。お隣さんの水が流れた排水管の音しか聞こえない。

 家臣のリャンリャンはホワイト・ディビジョンに行っていて今は俺一人。

「ん~ん……」

 なぜ、俺が全裸で唸っているのかと言うと、非常に簡単。

 俺の将来。もとい、将来の進路に悩んでいた。

 攻略者学園に通う攻略者の卵。それが俺らの訳だけど、普通に考えれば攻略者になる事は何ら珍しくなく、むしろそれ目当てで入った人は多い。あ、覚醒した一般者専攻の人たちは除く。

 うちのクラスのモブ太郎くんは既に中堅サークルに入る事が決定。俺の友達である大吾、進太郎、司。そして彼女の瀬那。それ以外にも別クラスの佃と吉さんと言った実力がある学生は既に大型サークルに唾を付けられている。

 無論、俺も中堅サークルや大型サークルに唾を付けられた中の一人ではある。

「銀獅子……」

 思い浮かべるのは大型サークルの一つ、銀獅子。

 筋肉隆々で獅子の如し――獅童 猛さんがサークル長のサークルで、圧倒的武闘派集団だ。

 戦闘力だけで言えばどのサークルも凌駕していると言われている。つまりは脳筋集団。

 入団試験は非常に体力勝負らしく、如何にもって感じだ。

 ちなみに進太郎が熱烈歓迎されてるらしい。獅童さんと同じ装甲装着型のスキルだし、トーナメントで味を占められたんだろう。

「ディメンションフォース……」

 大型サークルの一つ、ディメンションフォース。

 華奢な体格の如く日本が誇るスピードスター――妻夫木 蓮さんがサークル長で、実力とビジュアルを兼ね備えたサークルだ。

 圧倒的スピードだけで言えばどのサークルも凌駕していると言われている。つまりは迅速に動いてくれる頼れる集団。

 入団試験は実力テストに加え、ファッション雑誌にも仕事がある関係上、ビジュアルも評価されるらしい。

 ちなみに司ことダーク=ノワールが熱烈歓迎されてるらしいけど、中二病の何処が評価されたのかマジで知りたい。

「パンサーダンサー……」

 大型サークルの一つ、パンサーダンサー。

 仕事もバトルもできる大人の色気抜群の妖艶な女性――椿 舞さんがサークル長で、実力もさることながら美貌をも兼ね備えたサークルだ。

 所属している攻略者たちは皆が皆美しく、そして強い。男人禁制と言われているサークルでも、大型サークルの中で唯一次元ポケット持ちの攻略者が在籍していないサークルだ。俺にお鉢が回ってきたのはスキル・次元ポケットの有無が大きい。

 フリー攻略者の開木さんにも声がかかったらしいけど、あの人は普通に断ったと言ってた。

 ちなみにギャルるんな瀬那が熱烈歓迎されている。小顔で褐色肌。性格良し、巨乳良しで実力もある。熱烈歓迎されるのは当然と言ったところか。

「そしてヤマトサークル……」

 日本が誇る最強最高のサークル、ヤマトサークル。

 完璧超人の日本の誉――大和 撫子さんがサークル長で、圧倒的実力、圧倒的信頼度がある最高のサークルだ。

 日本から世界に羽ばたいた最強知名度がある西田メンバーに加え、非戦闘員の三井さん率いる有能調査班の人たち。ダンジョン――『氷結界の里』でさらに名を上げた撫子さんは言わずもがな。だれもが誘われ場二つ返事で入りたがるだろう。

 ちなみにヤマトサークルに熱烈歓迎されているのは俺が知る限り二人。俺と大吾だ。

 まぁ俺たち二人は実際にサークルにお呼ばれしたりして、実力が買われてる。と言っても、大吾に関しては西田メンバーの強い推しが働いたらしく、なんでも『泡沫事件』の一コマで潜在能力を垣間見たらしい。

 つまりは戦闘班入りが約束されたって事だ。

 やっぱりと言うか、俺を熱烈歓迎してくれたのは調査班の三井さんで、是が非でも次元ポケット持ちの俺が欲しいらしい。

「う~ん」

 ここまでが大型サークルの歓迎だけど、実は引率してくれた様々なサークルからもオファーが来ている。

 その中でも、卒業後は是非! とは言わないものの、こっちの選択肢もあるんだぞと、レアだぞと、俺はレアだぞと、メ蟹ックの優星さん率いるチームファイブドラゴンもチラチラと俺を見ていたり……。

 そんな事を考えていると。

 待ち人来たり。

 ピンポーン♪

 来客。

 俺はスタッと立ち上がり、オートロックのカメラを見た。

《……》

 少し俯いて表情が見えない彼女――瀬那が来た。

「開けるね」

 ――ッピピ♪

 解錠したらすぐに扉を開けると、瀬那はそそくさとエレベーターに入って行った。

 そろそろ夏休みも終わるからと、実家から解放された瀬那。

 直行で行くと今朝メッセージが来た次第だ。

 しばらくすると部屋前のインターホンが鳴る。

 俺は真顔で、扉を開けた。

 デンデデン♪

『チュートリアル:来客を招こう』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:力+』

 脳内に鳴り響くファンファーレ。

「――ッ!!」

「!?」

 扉を開けた瞬間に腕を掴まれ、廊下に押し倒され、馬乗りにされ――

「――んん――ん――」

 唇を唇で塞がれた。
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