俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第二十章 漏れ出す者

第254話 チュートリアル:それもアリ

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「はぁ……」

 俺が父さんと母さんを説得したあくる日の放課後。

 キンコンカンと鳴り響く教室からはそそくさと帰り支度をする生徒がいる中、俺の親友である梶 大吾が珍しく大きなため息をついた。

「はぁ……」

 頬を手で支え、夕暮れ時の窓の外に飛んでいる鳥を眺め、パッチリ二重の瞼を悩ましくも細目て、またもため息をついた。

「はぁ……」

 すごくわざとらしい。

 朝の授業から昼食、そして放課後まで、大吾は心ここに在らずといった面持ち。俺や瀬那、進太郎が声をかけても「うん」やら「ああ」やらとずっと上の空。

「おい大吾。なんか悩みでもあんのか?」

「……まぁなぁ~」

 デンデデン♪

『チュートリアル:昼食を食べよう』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:体+』

 昼飯のカツカレーを食いながらも心配を口にした俺。だけども一瞬だけ目を合わせられただけで、大吾は悩みを内に秘めた。

 進太郎とダーク=ノワールの言葉にもどこか上の空。

「あ、お瀬那さん」

「ん? なあに?」

「……ごめん、やっぱ何でもない」

「……?」

 昼食終わりの教室で斜め後ろの瀬那に、まぁ俺の隣だけど、その瀬那に声をかけるも言葉が詰まり結局言わないでいた。

 そして今に至る訳だが、マジで上の空すぎて授業内容と阿久津先生の連絡事項とか、ムーディー〇山ばりに右から来たものを左へ受け流していると思う……。

「おい大吾。愁いを帯びた顔で黄昏てるイケメンほどイラつくものは無いんだ。いい加減俺悩んでますよアピールするのどうにかしてくれ」

 イラつきながらも、背中をポンと叩いて悩める青年を振り向かせる事に成功した。

 悩める青年、不思議そうな顔をしている。

「え、あ、ごめん萌ちゃん。俺そんな感じだったのか……」

「今のお前ほど黄昏が似合う男はいないと思うぞ」

 クスリと笑う大吾。

「そうか? やっぱ俺ってイケメンだから罪作りだよなぁ」

「イライラポイントが増加しました」(キレ気味)

 普通に笑顔を振りまいている大吾だけど、無理やり元気、つまりはカラ元気で笑顔を作ってる印象だ。伊達に親友してないから分かる。

「お前が悩み事とかマジで珍しいよな」

「私もそれ思った。まぁ大吾も人間だってことじゃないの?」

「いや普通に人間だから……」

 ツッコミにキレが無い。これは重症だ。

「しゃーない。これから俺ん家でお悩み相談だな」

 悩める青年に親友が一皮むいてあげよう。まぁ聞くだけだけども。

 と思っていると、隣の瀬那が眉毛をハノ字にした。

「ごめ~ん今日蕾と約束してるんだぁ~!」

「!」

 何故か驚く大吾。

 この反応で何に対して悩んでいるかおおよその健闘は付いた。

「悩みは私も今度聞くから、元気でね大吾!」

 そう言って席から立ち上がった瀬那。

 すると少し屈んで――

 ――CHU♡

 わしの頬にキスしてそそくさと教室を出て行った。

 Fu~~とモブ太郎くんたちが茶化してくる。

 何のノリなんだよと内心ツッコむも、俺と大吾は帰る準備をして教室を後にした。


 場所は変わって俺の家のリビング。

「やっぱめんたいこが最強だろ」

「それもアリだがコーンポタージュも捨てがたい」

「♰サラダこそ至高!! 貴様ら愚民の舌ではその真意すら辿り着けんようだな♰」

 デンデデン♪

『チュートリアル:家に友達を呼ぼう』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:速+』

 冷たい麦茶とサイダーを取ってバタンッと冷蔵庫の扉を閉める。

「サラダもうまいけどさぁ、ちょっとだけ酸味が強いんだよなぁ。あ、個人的にだぞ?」

「♰めんたいこもうまいのは認めるが、いつまでも口の中に残る風味がしつこくて敵わん♰」

「俺からすればしつこく残るのはどれも一緒だが……」

 人数分のコップを用意してトレイに乗せる。ドリンクを入れて持っていこうと思ったけど、自分で入れろや精神で麦茶パックとサイダーのペットボトルをカウンターに乗せた。

 テーブルにトレイを置いてからドリンクも置く。

「食ってもいいがボロボロこぼすなよって言ったよな!?」

 そして俺はキレた。

 いつの間にか合流したいつものメンツ。そしていつもの俺ん家にいつものお菓子セット。今用意しているお菓子セットは、子供から大人まで広い層に人気があり今も尚衰えない某うまくて棒なお菓子だ。

 お菓子入れのバケットの中を、イイ感じにお菓子を並べるのが俺のささやかな楽しみであったり。そんなうまいな棒は種類があるもんだからまとめて買って少量ずつ抜き取り並べた。

 わしの彼女のお瀬那さんだったら無垢な少女の様に目を輝かせて行儀よく頬張り尽くすのに、こいつらときたら敷いてるマットにこぼしまくる始末。駄菓子だから多少はこぼすのは仕方ないとしても、口元を汚していると同時に大きな欠片としてこぼしているのは非常に良くない。

「あとで(萌が)掃除するから気にすんなって」

「そうだな。(萌が)掃除するから楽しませてくれ」

「♰心配するな、後で(貴様)掃除するから些細なことだ♰」

「お前ら掃除する気ないだろ!?」

 応急処置としてコロコロで引っ付けて掃除した。ちなみに後で掃除機もかける模様。

 それから普通に駄弁り、サイダーも用意したのに全員が麦茶を飲む。

「――でだ大吾。悩みがあるんだろ?」

 コーンポタージュの欠片を口元に付けた進太郎が本題を切り出した。

「……ふぅ」

 さっきまでダンジョンの話で饒舌だったのに、今日の集まりの本題に入った途端意気消沈した大吾。大きくため息を吐いてから麦茶を飲んだ。

 俺は予想する。

 大吾の悩みはきっと、恋人の花田さん絡みだと。

 俺や進太郎、そしてダーク=ノワールの心配を聞いているも心ここに在らず。唯一反応があったのは瀬那に何か聞こうとした時と、去り際に花田さんと会うと言った時だった。

 彼女絡み。むしろそれしか判断する物がないけど、それで十分とも言える。

(仲良かったのに何があった……)

 四季折々でイチャイチャラブラブ。大吾と花田さんの恋人模様を見てそれに憧れたのを今白状する。それくらいに気に留めていたとも言える。

「……」

 ガサゴソと鞄をまさぐる大吾。その姿を見ながらも、破局と言う最悪のパターンをめちゃくちゃ嫌だけど脳裏に想定してしまう。

(((俺たちはお前の味方だ!!!)))

 それはダーク=ノワールも進太郎も同じ気持ちだろう。

 だって友達だもの。

 そしてやっともの思いで鞄から取り出した物。

 それが何気なくテーブルに置かれた。

 一冊の本だった。

 ホワイトの表紙がバックにグリーンのパステルカラーのタイトル。

『恋とはバカリズム』それがタイトルだった。

 側面の紙を見る限り所々に黒があるから漫画の類。

 なんだ漫画か。と思いながらも視野を広げてみると、表紙には綺麗目な男子たちがキャラが大勢いるではないか。

「……コレ。最近読んでるんだよね」

 見紛う事なき圧倒的BL漫画。

「」

「」

「」

 頬を赤く染める大吾。

 俺たちは言葉を失った。
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