俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第二十章 漏れ出す者

第258話 チュートリアル:オーガ(ポン)かわいい

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「――おい、なんかモンスターの数多くね? ッハ!!」

「スラッシュ!!」

「ビョ――」

 鳥形モンスターが攻略者が振るう剣の一撃により消滅。

「ふぅ。確かに多い気がするが、まぁこういう時もあるだろ」

「……それもそうか」

 そのは、ほんの些細な違和感から始まった。

「ゴブ!」

「ごぶごぶ!」

「アイスニードル!!」

 魔法陣から氷の棘が発射された。

 ――ッギン!!

「「ゴブー!?」」

 当然の如く、勢い任せにやすやすと貫かれた小鬼モンスター。何事も無く消滅。

「はぁ~やっと終わった~」

「そっちも片付いた?」

「うん。危なげなくね」

「……それにしても、洞窟からじゃうじゃ出て来たね」

「小鬼《ゴブリン》って一匹いれば百匹いるっていうのホント?」

「それ迷信だから」

「だよねぇ~」

 日本の北国にある未踏破ダンジョン。

「今日はやけにモンスターが多いなぁ」

「ドロップがウハウハで俺は嬉しい限りだけどなー」

 ダンジョン名『鬼の島』

 先述の通り、国連及び攻略者が完全にダンジョンを攻略できていない未踏破ダンジョンである。

 ダンジョン自体が一つの島で形成されており、島のまわりは海で構成され、一定の距離で行き止まりの壁――触れない絶壁があり、その絶壁が島を覆ている形となっている。

「ドロップアイテムのピアスは少額だが、こうした塵積ならバカにできないな」

 名の通り『鬼』。西洋風に言い換えると『ゴブリン』が主だったモンスターであり、活動拠点やセーフティスペースを除けば歩いていると普通に遭遇するモンスターである。

 ゴブリン一体一体の強さはそれほどでもなく、経験を積んだ攻略者ならば、彼彼女らの様に容易に倒す事が可能。無論モンスターであるため危険であり、真剣に事にあたらなければ足元を掬われる。

「ふぅー。もう少し奥に行くか?」

「いや、少しだけ休憩しよう。決めるのは休憩してからでも遅くはない」

 そう、油断しなければ初心者でも対処可能なダンジョン。

 何故このダンジョン『鬼の島』が未踏破ダンジョンなのか。

「――今日は引き返そう。思ったより体力の消耗が激しいし」

「……そうしようか」

 それは単純にゴブリンの数が多いのと。

 ――ッズン

「お、おい……!?」

「え? ――!?」

 ――ロロロロロ。

 不規則に徘徊する数体の門番――つまりは中ボスが無造作にも出現するからである。

「――■■ロロロ■」

 赤い体表に真紅の一本角。

 筋肉密度の高いはち切れんばかりの二頭筋。

 得物の棍棒を担ぎ、天を突く様に聳える下顎から牙は鋭利。

 吐く息は白く漂い、纏う空気は白く薄靄。

『赤鬼 レッドオーガ』

 それが彼らの目の前に忽然と現れたモンスターだった。

「レッド……オーガ……」

 先ほど戦ったゴブリンとは一味も二味も、それどころか味の感覚すら分からなくなるほどのプレッシャーを感じる二人。

 ブワッと額に脂汗が滲み、背中から汗も噴出す始末。

「な、何でここに……ッ。オーガが徘徊してるのはもっと奥だろ……!?」

「静かにしろ……! ゆっくり後退れ……」

 キョロキョロと動く赤い眼と幾度となく重なる視線。吐く白い息を顔に流しながら静観するレッドオーガに対し、静かに、そしてゆっくりと後退する二人。

 実のところ、彼等二人は優秀な部類の攻略者であり、連携と冴えるセンスで戦う事に定評のある二人きりのサークルである。

(徘徊系のボスであるレッドオーガ……。普段通りの俺たちなら快勝はならずとも辛勝で勝てる……!)

(だがそれは全快の場合であって今じゃ到底……。撒けるか……)

 レッドオーガに遭遇という予想外の展開に瞬時に思考。

 他のダンジョンと違いモンスターの遭遇率が高い『鬼の島』。しかし、運が悪いのか否か、今回に限っては大量のゴブリンと相手取り、予定外の消耗に陥った。

 そこに中ボスであるレッドオーガの遭遇。 

 まさに泣きっ面に蜂。嫌な汗が流れるとはこのことだった。

 冷静な判断で徐々に後退り、木々を隠れ蓑にし、何故か静観するレッドオーガの視界から消える事に成功した二人。

 そっと視線を合わせる。

(魔力で身体強化して全速力で逃げるぞ)

(それで行こう)

 意図が分かり、互いに頷いた。

 そんな時だった。

 ――パパキッ

 背後から木の枝が折れる音。

「「ッ!!」」

 男は瞬時にショートソードを鞘から抜き背後に振るう――

 ――そして筋力に任せて振りを止めた。

(女!?)

(男!?)

 ソードが女性の首で止まり、渦巻く魔法が男の眼前で停止。

 何故こんな道から外れた森に人が居るのか。何故お互いに背後を向き合って後退っていたのか。瞬時に思考した二人。否、男女含めれば四人。二つのグループが同じ事を思った。

 そして男は見た。

「ッッ~~!!??」

 青い肌をした豪鬼を。

「ッ!?」

 そして女は見た。

 赤い肌をした剛鬼を。

 瞬時に理解した。

 両者共に、鬼と遭遇したんだと。

「ロロロ■■」

 見せつけてくる剛腕。

「グググ◆◆グ」

 地面を踏みしめる鈍重。

「「――」」

 二つのチームに二つの鬼。

 そして同時に思った。

 ――消耗している。と。

 人間に遭遇し、向かってくる鬼に一矢報いる光明が見えた矢先、互いにひどく消耗しているのが見て取れた。ある程度互いに余裕があったのならば話は別だった。それこそベターに乗っ取った即席の連携で鬼を翻弄できた。しかし現実は非情であり、僅かに見えた希望は二体の鬼の出現に消える。

(まずいなんて状況じゃ無いわ……!)

(このままじゃ……!)

 背筋に感じる死の匂い。

 しかして思考は冷静。

(この状況を打破するには……)

 自然と背中を合わせて任せる両チーム。

 担ぐ棍棒が、反射する鋭い爪が、喉を乾燥させるに事足りる。

(――クソ!)

 考えど考えど。

(そんな簡単には――)

 突破口が無いと結論付ける。

 しかし、余力はある。

 逃げる余力はある。

 ただ一つ。押しの一手が足らないのだ。

「ロロロ」

「グググ」

 まさに死地。今わの際。

 そんな状況に。

 ――ッザ。

 ――ッザザ。

 一筋の光明。

「――おい」

 ――否。

「俺は――」

 ――一筋の。

「俺たちは――」

 ――絆。

「俺たちは、レアだぞ」

 チームファイブドラゴン。

 横に広がり堂々の登場。

「行くぞみんな!!」

『――!!』

 このオーガ事件は、所詮始まりに過ぎない。

 日本《ひノもと》の子供らと。

 漏れ出そうとする鬼《オーガ》の。

 猛戦の序章である。
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