ようこそ、喫茶店『小道』へ ~AIにすら見放された”無風小説”は、テンプレ暴風域で“無風地帯”となるか~

はっち

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二十九頁目「貴族の護衛・Part-3 ~ 薔薇の花束 ~」

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「さぁ!」 「その馬車を!」 「我々に!」

「渡してもらおうかぁー!」

 掛け声とともに三人の男がクロスするようにジャンプして、空中で一回転すると、見事な着地を決めた。
 対してユウは呆れ顔だ。

「ふっ、まさか女が一人で護衛しているとはな!」

 一番左の、長髪で、なんだか変な髪形をした男が髪をサラリと手でかき上げながら言った。

(うわぁ……)

 気障ったらしい髪に似合わず、顔はというとお世辞にもかっこいいとはいえない。

「き、きさま、今俺をみて笑わなかったか!?」

 その男がユウを指差して怒りの表情をみせている。

「我ら、イケメン盗賊団、"薔薇の花束"を相手にいい度胸だ!!」

 ダン!ダン!と地面を踏み鳴らしながら長髪の男が叫ぶ。

(イケ……? イケメンの定義ってなんだっけ。それに薔薇の花束って……)

 ユウとしては微妙な表情で困惑するしか術がない。
 ユウだって一人の女性だから、男性の好みなんかもないではない。
 とはいえ、これまで交際をした男性はいなかったが。

「だ、大体なんだ、お前、そんな勇者みたいな格好しやがって!!」

 長髪の隣は、綺麗に剃り上げたスキンヘッド。
 顔立ちは妙に整っているが、もちろん、ユウの好みではない。

 彼女個人の嗜好とは関係なく、こうまで人間的におかしな盗賊を前にすればユウの呆れ顔も納得できるのであるが。

 盗賊という時点で道を踏み外しているわけだから、人間的におかしな、というのも変な話だ。
 
 護衛任務にあたるのだから、とユウは昔の動きやすい服、チュニック、中に帷子を、下はパンツスタイルと、申し訳程度ではあるが頭を守るための厚めの金属製のカチューシャ。
 武器はというと馬車の御者をやることにもなったので、大仰な剣ではなくて腰に短剣をさげているだけだ。
 が、これら全てが魔法の力が込められた魔法道具であり、同時によく知られた今代の勇者の姿であった。

「まぁ、なんでもいいからよ、その貴族みてぇな馬車をよ、こっちへ渡せよ」

 さらにスキンヘッドの隣にいる、髭面の男が先の二人に続いてユウを指差す。
 鼻から下は髭で埋まってるほどの髭だ。

 不細工気障、ハゲ、髭が、この盗賊団”薔薇の花束”の中心人物のようだった。
 どの辺りに薔薇とか花束とかの要素があるのかは、ユウにはわからなかったが。

「お前らは客車を囲め!」

 そんな色物三人の後ろで、精悍な顔つきで、見るからに鍛えていますといった感じの男が盗賊たちに指示を出していた。
 どうやらこの男が実質団を動かしているように思える。
 男の指示で盗賊たちが俊敏に配置を終えていた。

(マズ……)

 盗賊団はぱっと見ても十数人ほど。

 対してこっちはユウ一人である。

 ――殲滅自体は難しくない。

 ただ、相手の数が多いからどうしても時間がかかる事を考えれば、客車の中の二人が心配になる。
 
 客車への被害を無視してでも、中の二人は絶対に守りきらねばならない。

 ユウは、短剣に添えた手に力を込めた――

 *

 ――少し時間はさかのぼる。

 初日の宿から出て間もなく、疲れが抜けきらずに客車で寝ていた二人だったが、先に目を覚ましたのはアイナの方だった。

 肩に何か重いものを感じて振り向くと、目の前に美少女の顔がある。

 まるで名工の手で作られた美しい人形のような顔は思わず見とれて赤面してしまいそうになるほどだ。
 いや、同性の顔に見とれていたことに気付いたアイナは、その事自体に重ねて赤面してしまう。

「うぅうう゛うぅ」

 アイナがリンの顔に見とれていると、視線を感じ取ったのだろうか、リンが薄目をあけて呻いた。
 と同時に馬車が丁度小さく跳ねて、リンの呻き声は変なうねりを乗せて発せられてしまった。

「ぷっ、あはははっ」

 絶世の美少女の変なうめき声、そのギャップにアイナは思わず噴出してしまう。
 そして、それが切欠だった。

 リンが寝ぼけ眼で見た光景は目の前にいる少女が噴出すところからだったが、何故彼女が笑っているのかわからず、最初は首をかしげていた。

 よほど何かのツボに入ってしまったのか、アイナは笑い続ける。
 さすがに貴族の令嬢ともあろうものが大口を開けて笑い続けるわけにもいかないし、リンの手前失礼になるかと思いながら必死でこらえようとしている。
 だが、肩をぷるぷると小刻みに震わせて、目に涙をためてなお、「ふふっ、ふひっ、ひーっ」などとこらえきれない声が漏れる。
 
 それこそ貴族令嬢としてあるまじき声が出ていることには気がつかないようだ。

「ねえ! アイナ!」
「ふひっ、ひっ、ひー、え?ん?」

 客車の中から大きな声が上がって、ユウは思わず振り向いて半開きにしてあった窓から客車を覗き込む。

(あれ……ふふっ)

 中をみて、二人が寄り添って寝ていた所を見た時とは、また違った微笑を浮かべるユウ。
 客車の中で、二人は向かい合ってニコニコ顔で話をしていた。
 主にリンが喋って、アイナが聞き、アイナが時々歓声のような笑い声をあげる。リンもそんなアイナの反応が嬉しいのか、話しに熱が入るようだった。

 そしてそれから、二人はずっとくっついている。
 客車の中にいるときも、休憩を取るときも、ご飯を食べるときも。

 ある湖畔に差し掛かったとき、リンが「海だ!」と叫んで、アイナが湖と海の違いを説明するのに苦労していたりもした。思いのほかアイナは博識で、リンよりもずっと色んな物事を知っているようだった。

 例えば、先の湖畔についても、そこは帝都から南に馬車で二日といった近くにあるのだが、実は初代神託勇者の戦闘跡だという伝説がある。それについてもアイナはより詳しく話をしていた。

 アイナは自分の知っていることを、リンは自分がこれまで見てきたことをお互いに話し合って、すっかりうちとけている。

 リンとアイナを会わせて、本当によかったとユウは思う。
 少なくとも、ユウにとってはリンが同年代の少女であるアイナから何か新しい刺激を受け取ってくれればそれでよいと思っていたが、子供の引き合う力とでも言うのだろうか。
 最初こそ喋りもしなかったのだが、仲良くなるときはあっという間だ。
 そしてリンが笑っているその笑顔は、ユウも見たことがないほど屈託のない笑顔だった。
 そしてアイナも、初日の微動だにしなかったのが嘘のように自然な笑顔をこぼしているし、振る舞いもとても自然だ。

 人見知りです、と言われても誰も信じないであろうほどに自然な振る舞いをするアイナは、少女でありながら気品があって、魅力的に思える。

 ユウが一番驚いたのは、二日目の宿でいざ就寝とランプの灯を落としたあとすぐに、向かいのベッドに向かったはずのアイナが踵を返してユウとリンのベッドの側に立って、

「あ、あああ、あのユウ様、リンちゃん。えっと、その……いいい、一緒に寝てもいいですか?」

 と枕をぎゅっと握り締めながら言ってきたことだ。
 暗くて顔もよく見えなかったが、きっと蒸気が出るほど顔を真っ赤にしていたことだろう。

 その後はリンを真ん中にして三人で川の字になって、眠くなるまでおしゃべり。
 アール本家についた後も、アイナと彼女の祖父である大家長との二人の時間を除いては、アイナは常にリンと一緒に、家を案内したり、使用人を交えてお茶をしたり、食事を取ったり。
 気づけば、昔から交流のある友達のようにお互いに振舞っていた。

 ユウが大家長に誘われて、二人でテラスでお茶を飲んでいると、広大な庭にリンとアイナが駆け回ってるのが見えた。
 思わず目を細めて微笑む。
 慈しみすら覚える笑顔で二人の子供を見守る二人に、側で控えていた使用人は、思わず感嘆の息をもらしてしまう。

 年齢も性別も、おそらくは性格もまるで違うユウが、
 そして隣にいる大家長にくらべ格段に若者であり、自分から見てもはるかに若い彼女が、どうしてこの貫禄のある自分の主と同じような雰囲気を持って、そしてそれを人に感じさせることが出来るのか、と不思議に思う。
 こんな顔して実は齢百を超える、なんていわれてもこの使用人はむしろ納得したであろう。

 さて、本家での滞在も終え、もうすっかり仲良くなってしまった二人。
 アイナといるリンは素直な子供らしい表情をみせるようになっていた。
 アイナもまたそうで、本家から出立する際、ユウは大家長に深く礼を言われていた。彼もまた、アイナの引っ込み思案を心配していたようだったが、まるで違う雰囲気を持ちはじめた孫娘にいたく上機嫌だった。

 祖父の姿が見えなくなるまで、馬車の窓越しに元気に手を振っているアイナ。
 一緒にリンも手を振る。

 やがて見えなくなって、窓を閉めると、二人は微笑みあっておしゃべりを始める。
 肩越しに二人の気配を感じて、ユウも嬉しくなって、自然と笑顔になるのであった。

*

「ちょっと寄り道していこっか?」

 帝都の外壁を遠くにみながらユウは二人に提案する。

 アール本家邸を出てから三日、スケジュールに遅れはなく、むしろこのままだと少し早くつきそうだと思ったユウの考えだった。
 寄り道、という言葉には何かの魔力がこもっているのかもしれない。
 ユウの言葉に二人は満面の笑みで大賛成。
 一緒にいられる時間が長くなるから、それが嬉しいのかもしれない。

 来る途中にみた初代勇者の戦闘跡といわれている湖畔の見える丘がある事をユウは知っていたから、そこへ寄り道していくことにした。

 とは言っても、アイナは帝都有力貴族のご令嬢。なるべくスケジュールを遅らせぬようにはしたい。
 そこでユウは近道を使うことを決めたのだったが、それがよくなかった。
 少し狭い道を飛ばしていると、目の前に三つの人影が飛び出してきた。

 その三人こそが、盗賊団「薔薇の花束」の三人だったのである。

*

「こいつ、剣をもってやがる!」
「俺達とやりおうなんてよ……命知らずな女だよな!」

 二人を守るために短剣を抜き放ち、正眼に構えたユウは精神を集中し始める。

「な、な、なんだ? こ、こいつ、雰囲気が……」

 ユウが薄目を開けて精神を集中し始めると、まるで薄い白いもやがユウの体を覆うように、どこからともなく集まってくるのを、その場にいる誰もが見ることが出来た。

 ユウがちらりと客車の中をみると、すっかりおびえた表情のアイナと、それを守るかのように立ち上がっているリンの姿が見えた。

 気のせいか紅色の目の輝きが増しているような気がする。感情が昂ぶっているからだろうか?

 なんだかユウはいやな予感がして、早めに終わらせねばならないという思いで、力をより高めていく。

 たとえ敵が何十人いようが一瞬で全てを戦闘不能にできるように。

 ユウの力は高まっていく――

(あ、これはなんかやべえ!)

 そう感じとったのは、”薔薇の花束”の色物三人の後ろに控えていた、ユウから実質この団をまとめていると評された男である。

 彼の目に狂いはなかった。
 おそらくこのままバカ三人につきあって、この馬車に手を出せば怪我どころではすまない、という悪い予感が、ユウの白いオーラの昂ぶりと共に膨れ上がっていく。

「やばい、兄貴、あれやばい。」

 男は今にも襲い掛かりそうな三人の盗賊たちを止めるために走りだした――
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