溶ける背徳、秘め事の灯

春夏冬

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溶ける背徳

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その日の放課後。あまねは指定された住所を頼りに住宅街を歩いていた。

夕方の空は少しずつ茜に染まり、街の輪郭がやわらかく滲んでいく。地図アプリの示す場所は駅から少し離れた静かなエリアで、どの家も整っていて、落ち着いた雰囲気が漂っている。

やがて目の前に現れたのは、白いタイル貼りの中層マンションだった。

インターホンを押すと、すぐに音声が返ってくる。『どうぞ、今開けます』──あの声だった。

玄関ホールを抜け、案内された部屋の前に立つと、緊張を押し殺すようにそっと呼吸を整えた。

チャイムを鳴らしてすぐにドアが開いた。その瞬間、室内からふわりと香る柔らかな匂いと、洗い立てのリネンのような清潔な香りが鼻腔をくすぐる。

「ようこそ、先生。わざわざご足労いただいてすみません」

清澄は、昨日と同じような落ち着いたトーンで微笑んだ。あまねは冷静を装い、頭を下げて応じる。

「……失礼します」

靴を脱ぎ、通されたリビングは広く整っていた。床は木目が美しく、観葉植物が窓辺に置かれている。ソファには毛布が折りたたまれ、ダイニングには二人分のコップが並んでいた。

生活感があるのに、どこか整いすぎている気がした。その違和感の正体は、すぐには掴めなかった。

「……弟さんとは、二人でここに住まわれてるんですか?」

「ええ。まあ、そうですね」

「……霧翔さんはどちらに?」

「今は出てます。先生、飲み物は紅茶でいいですか」

清澄に問いかけられ、あまねが頷くとポットを傾ける。

注がれる紅茶に目を落としながらも、あまねはわずかに膝の上で指を組み直した。この静かな部屋に今、自分と彼しかいないという事実が妙に重たく響いてくる。

けれど、これは仕事。生徒の将来に関わる、大事な相談。そう自分に言い聞かせながら、あまねは真っ直ぐに視線を上げた。

「……霧翔さんが、進学をやめたいと言っていたそうですが」

あまねは紅茶に口をつける前に、少しだけ姿勢を正してそう切り出した。

「学校では、彼に特に変わった様子はありませんでした。授業中も集中して聞いてくれましたし、課題もきちんと提出して、むしろ私の目にはとても意欲的に感じられました」

あまねの言葉に、清澄は少しだけ目を細めた。

「……そうですか」

その返事は、拍子抜けするほどあっさりしていた。感謝も、驚きも、心配すら見えない。むしろそれは、最初から答えを知っていたかのような響きだった。

言葉こそ丁寧だが、その手ごたえのなさに、あまねの胸の奥に小さな違和感が芽を出す。

(どうして…?この人から、相談を持ちかけてきたはずなのに)

「……弟のこと、よく見てくださってるんですね」


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