現代がハードモードな吸血鬼の生きる術

雪雲

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吸血鬼に命名

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 結局さっぱりと調べたい事が有ったのを忘れて帰って来た。気に成ったのだから仕方がない。

「ただいま」

「うわっ」

 毎度帰宅の度になんでこんなに面倒なセキュリティなのだろうかと、若干の不便さを感じながら律義に一人暮らしの家だと言うのに声を掛ける。その結果、目の前には例の名無しな吸血鬼が広い玄関でうろうろとしていた。そして家主に対してのあんまりにもな反応をする。

「なにしてんの?」

「え……いや」

 物凄く気まずそうにして、視線を左右へ彷徨わせる。
 別にやましい事は何もしていない。ただ目が覚めたら家主らしき者は不在で生活水準の高すぎる室内に一人。物凄い場違い感に謎の罪悪感を覚え、居ても良いのか不安になり出て行くべきかと小一時間うろうろとしてたのだ。
 しかしその明らかな挙動不審ぶりを見られ、何をどう言えば弁明の余地があるのかと、おどおどと不審っぷりを増している。
 というのが、彼の現在。

「そんな事より、僕柊桃矢って言うんだけど。知ってた?」

 知っているも何も名前を聞く余地や、尋ねるタイミングも無かったのだから知る訳がない。
 昨日偶然出会い身元も何も分らない吸血鬼が挙動不審にうろうろしていたのは『そんな事』と一蹴し、困惑の表情もガン無視して桃矢は名乗った。

 そしておもむろに完全に面食らってフリーズする殆ど会話もしていない男の手首を握る。

 掴まれた方は、咄嗟の反射で飛び退ろうとするが桃矢は逃さないとばかりに握った手首を離さない。

「幼馴染が言うには僕の名前って全部魔除けらしい。そこのとこどうなの?」

 金色の目が反応に困った風に見返した居たが、その言葉を理解すると同時にすぅーっと瞳孔が開く。
 相手の事を考慮せずに引っ掴んで、握りしめた手首で感じる脈拍数が上がる。ああ、そう言えば体温が平熱だな、と少しずれた事も考えながらも、脈が早まり呼吸が浅くなっていく様を観察してから、ぱっと手を離す。

「僕自身はただの個体識別の記号だと思ってるんだけどね」

「……っそういうの本当に止めろ!? ……ください!」

 今度こそう一歩後退し掴まれていた手首を擦りながら抗議の声を上げる。弄ばれてる感は否めないが、一応の恩義を感じているのか、取ってつけたような敬語がおまけされた。

「元気そうだね」

「それは……おかげさまで……」

 それは良かった、と嬉しそうにする訳でもなく頷いて当然の様に靴を脱いで上がる。当然の様にというか、桃矢の家なのだが。

「ねえ。そこ立ってるの邪魔なんだけど? ほら、早く進んで」

 未だに自身の手首を押さえ、壁に擦り寄って、まるで騙されて予防接種に連れて来られた犬のようになっている吸血鬼を家の奥へ追い立てる。

 当の不憫な犬染みた、情けない顔してる彼は、いつまでも居ても良いのかと不安に成って挙動不審を起していたmのだから、部屋へ戻れと示されて、少し安堵した表情をした。

 またこの寒空の下、住所不明身元不明で追い出されては、またきっと直ぐDEADなENDがやって来るのをしっているのだろう。
 大分雑にだが、家主不在だろうが暖かさが保たれていた広いリビングを示せば、吸血鬼は大人しく向かって行く。

「えっと……手、大丈夫か?」

 気に成った事を確かめ終わり、勢いがなくなりのんびりと背後を歩く桃矢を振り返り、気まずそうに尋ねてくる。

「正直掌よりもっと筋肉の動きの少ない場所にすれば良かった、と思う程度には痛い」

「ご、ごめんなさい……!」

 別段桃矢は怒っては居ない。声音も表情も昨日からの通りに平坦に変化がない。なのに、若干痩せてはいるが平均よりも大きな背丈の吸血鬼は『叱らないで』と訴える大型犬のように縮こまった。

 なんとも弱々しい生物だ。まだ問答無用で吸血していく蚊の方が逞しいのではないかとさえ思う。

「別に謝らなくてよくない? 僕が自分で選んで切ったんだし。でももし、あんたの言う通りに直で噛みつかれて痛かったらてめぇこの野郎ってキレるけど」

 少々荒っぽい言葉さえ、何の覇気もなく平坦で違和感が酷い。キレる、と言うが全く想像できない。

「またそんな所で立ち止まってないで、座って。僕聞きたい事いっぱいあるから」

 部屋の入口付近で、またしても自身の場違い感におろおろとする、成人男性型の残念な生き物を手招いて、座らせる。

 明らかに値の張りそうな、きゅっと皮の音のするソファに座らせられて場違い感が加速して、更に居た堪れなく成って居る吸血鬼の方を見もせずに、そうだ、と桃矢が思い出したように言う。

「あんたの名前ユキでいい? さっき言ってた幼馴染が拾ったのなら名前を付けろって言うんだ」

 個を有したモノの名付をしようとしているのに、コートを脱ぎながら気負った風もなく言う。本当に、何か付けろと言われたから、適当に考え付いた言葉を感慨も無く付けた程度の名前。
 実際由来は昨日雪降ってたな、程度。思い入れも何もあったものじゃない。保護猫の仮名の方が愛情持って付けられている位だ。

 それでも勝手かつ一方的に命名された方は、異議も示さずに大人しくこくりと頷く。

「俺はどう呼ばれても問題ない」

 その呼び名を肯定した瞬間に、静電気でも発生したかのようにびくりと肩を跳ねさせた。

「なに?」

 たった今生き物に名付けた癖に、自身の帰宅後の片付けにのみ意識を向けていた桃矢が不思議そうに視線を向ける。

「いや……? なんだろ。なんか、ぎゅってした」

 ユキと言う名前になったばかりの吸血鬼も、よく分かって居ない様に首を傾げるので、すぐに興味が失せて、ふーんとだけ返して、命名の件は終わってしまった。
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