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㊶Lumina
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「アリセア様、プリントの提出物、こちらに置いておきますね」
「ありがとうございます」
今日は先生方が研修で不在の日。
各々の苦手な分野を、教室で自学自習する事になった。
今日クラス係のアリセアの机には、クラスメイトのプリントが集まっている。
これを集めて、1階の職員室へ持っていくのも彼女の役目だ。
(今日は魔法演習ないから、助かっちゃった)
魔力を使えば使うほど、内に抱える不安定な力が揺らぐ気がしていた。
乱れが暴走のきっかけになるのかは分からない。
でも、少しでもその可能性があるなら――避けられる時に避けた方がいい。
ユーグストがいるならまだしも、授業中は無防備になるから……。
アリセアはそう思いながら、目の前に集まった提出物をかぞえる。
「27……28……29枚……あと1人」
が、誰かなんてもう分かってる。
「フォート……」
今日は彼と話す機会がなかったからだ。
ちらっと周りを見渡すと、彼は机に突っ伏していて……。
「え?寝ているの?」
アリセアは驚きに目を丸くする。
今は休み時間。
教室には雑談や椅子を引く音が響いているのに、まったく反応がない。
(寝不足なのかしら)
いつも、私の周りをウロウロしていた彼だったが、ここ最近は程よい距離感で話している。
それになぜか寂しさも感じたけれど、今までの距離感の方がおかしかったのかもしれない。
「ねぇ、フォート?」
彼を起こそうと、そっと、手を伸ばして、肩に触れようとしたところで、……。
「わ……真っ白」
アリセアは苦笑いをして手を引っ込めた。
彼の腕の下にある実習用のプリントは白紙で……これでは、集める意味も無さそうだ。
どうしようかしら。
それにしても、珍しい。
彼がここまで声掛けに気が付かず、無防備な寝顔を晒すなんて。
いつもは後ろに軽く流している艶やかな黒髪は乱れ、年相応の無防備な寝顔が覗く。
たくしあげた袖の下は、思いがけずしっかりとした腕が目に入った。
(……意外と、男らしいんだ)
いつもの軽い調子からは想像できない“男らしさ”がそこにあった。
ふふ、とアリセアは小さく笑う。
(寝顔は可愛いのに)
でも……。
この前のフォートは、なにか違った。
真剣な眼差しをしていた。
勝手にするって言ってたけど……。
もしかして、私のために何かしてくれてるから、
こんなに寝不足なのかしら。
なんて、冗談のような事を考えてみたのだけど。
「え……?まさか、そうだったりしないよね?」
でも口に出すと、妙にしっくり来る気がした。
アリセアは、困惑した表情で彼を見つめた。
でも、本当にそうだったら?
急に、彼を心配する気持ちがじわじわと湧き出てくる。
もしそうなら。
「……ねぇ、もし本当に私のことだったら。無理なんて、しないで。嬉しいけど、つらいから」
そう言いたいところだけど……。
さすがに確証がないのに、そんな、自意識過剰のような恥ずかしい発言は出来ない。
アリセアは少しだけ悩み、
小さく息を吐いた。
起こさないでおこう――そう決めた。
どちらにせよ、疲れてるんだったら、このままにしてあげたい。
今日は自習の日で、いつもより自由が効く日だ。
と、その時だった。
「……ル……ミナ」
掠れたような、甘さが残る声色。
その言葉が彼の、口から紡がれる……。
ハッとしてアリセアは彼に視線を戻した。
そしてーー。
フォートの目尻から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
それを見た瞬間。
アリセアは考えるより先に、そっと自分のハンカチを取り出すと、彼の頭を、覆い隠すようにかける。
全てが、無意識の行動だったーー。
他の生徒から見られないように、彼の顔を隠したつもりだった。
けれど。
それと同時に……何故か私も見てはいけない……そんな気がしたのだ。
「あ……いまのは……涙?だよね」
一拍置いて、自覚した瞬間——
急に、心臓がドキドキと早く鳴り出す。
「ルミナ……か」
確か、古語で"光”や"輝き”を表す。
でも、もしかしたら、人名ーー?
甘さの残るその響きに、
ざわざわとアリセアの心が、何故だか揺れ動かされた。
どうしてだか……泣きたくなるような切なさが胸に広がる。
(どうして……こんなに苦しくなるの?)
しかし、我に返る。
「あ、……もうこんな時間。とにかく、プリントを持っていかないと」
アリセアは提出物を手に取り、教室を後にした。
後ろを振り返ると、フォートはまだ眠っている。
その背中を一瞬見つめ、気持ちを振り切るように、歩き出す。
***
「よろしくお願いします」
アリセアは職員室で、在室していた教師にプリントの束を丁寧に手渡した。
「はい、二限もよろしくお願いしますね」
教師は軽く頷き、優しい声で返す。
「はい、失礼いたしました」
職員室の入り口で一礼し、アリセアは白く長い回廊を静かに歩き出す。
澄んだ空気の中、彼女の足音だけが響いて、心地よい静けさが広がる。
「ありがとうございます」
今日は先生方が研修で不在の日。
各々の苦手な分野を、教室で自学自習する事になった。
今日クラス係のアリセアの机には、クラスメイトのプリントが集まっている。
これを集めて、1階の職員室へ持っていくのも彼女の役目だ。
(今日は魔法演習ないから、助かっちゃった)
魔力を使えば使うほど、内に抱える不安定な力が揺らぐ気がしていた。
乱れが暴走のきっかけになるのかは分からない。
でも、少しでもその可能性があるなら――避けられる時に避けた方がいい。
ユーグストがいるならまだしも、授業中は無防備になるから……。
アリセアはそう思いながら、目の前に集まった提出物をかぞえる。
「27……28……29枚……あと1人」
が、誰かなんてもう分かってる。
「フォート……」
今日は彼と話す機会がなかったからだ。
ちらっと周りを見渡すと、彼は机に突っ伏していて……。
「え?寝ているの?」
アリセアは驚きに目を丸くする。
今は休み時間。
教室には雑談や椅子を引く音が響いているのに、まったく反応がない。
(寝不足なのかしら)
いつも、私の周りをウロウロしていた彼だったが、ここ最近は程よい距離感で話している。
それになぜか寂しさも感じたけれど、今までの距離感の方がおかしかったのかもしれない。
「ねぇ、フォート?」
彼を起こそうと、そっと、手を伸ばして、肩に触れようとしたところで、……。
「わ……真っ白」
アリセアは苦笑いをして手を引っ込めた。
彼の腕の下にある実習用のプリントは白紙で……これでは、集める意味も無さそうだ。
どうしようかしら。
それにしても、珍しい。
彼がここまで声掛けに気が付かず、無防備な寝顔を晒すなんて。
いつもは後ろに軽く流している艶やかな黒髪は乱れ、年相応の無防備な寝顔が覗く。
たくしあげた袖の下は、思いがけずしっかりとした腕が目に入った。
(……意外と、男らしいんだ)
いつもの軽い調子からは想像できない“男らしさ”がそこにあった。
ふふ、とアリセアは小さく笑う。
(寝顔は可愛いのに)
でも……。
この前のフォートは、なにか違った。
真剣な眼差しをしていた。
勝手にするって言ってたけど……。
もしかして、私のために何かしてくれてるから、
こんなに寝不足なのかしら。
なんて、冗談のような事を考えてみたのだけど。
「え……?まさか、そうだったりしないよね?」
でも口に出すと、妙にしっくり来る気がした。
アリセアは、困惑した表情で彼を見つめた。
でも、本当にそうだったら?
急に、彼を心配する気持ちがじわじわと湧き出てくる。
もしそうなら。
「……ねぇ、もし本当に私のことだったら。無理なんて、しないで。嬉しいけど、つらいから」
そう言いたいところだけど……。
さすがに確証がないのに、そんな、自意識過剰のような恥ずかしい発言は出来ない。
アリセアは少しだけ悩み、
小さく息を吐いた。
起こさないでおこう――そう決めた。
どちらにせよ、疲れてるんだったら、このままにしてあげたい。
今日は自習の日で、いつもより自由が効く日だ。
と、その時だった。
「……ル……ミナ」
掠れたような、甘さが残る声色。
その言葉が彼の、口から紡がれる……。
ハッとしてアリセアは彼に視線を戻した。
そしてーー。
フォートの目尻から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
それを見た瞬間。
アリセアは考えるより先に、そっと自分のハンカチを取り出すと、彼の頭を、覆い隠すようにかける。
全てが、無意識の行動だったーー。
他の生徒から見られないように、彼の顔を隠したつもりだった。
けれど。
それと同時に……何故か私も見てはいけない……そんな気がしたのだ。
「あ……いまのは……涙?だよね」
一拍置いて、自覚した瞬間——
急に、心臓がドキドキと早く鳴り出す。
「ルミナ……か」
確か、古語で"光”や"輝き”を表す。
でも、もしかしたら、人名ーー?
甘さの残るその響きに、
ざわざわとアリセアの心が、何故だか揺れ動かされた。
どうしてだか……泣きたくなるような切なさが胸に広がる。
(どうして……こんなに苦しくなるの?)
しかし、我に返る。
「あ、……もうこんな時間。とにかく、プリントを持っていかないと」
アリセアは提出物を手に取り、教室を後にした。
後ろを振り返ると、フォートはまだ眠っている。
その背中を一瞬見つめ、気持ちを振り切るように、歩き出す。
***
「よろしくお願いします」
アリセアは職員室で、在室していた教師にプリントの束を丁寧に手渡した。
「はい、二限もよろしくお願いしますね」
教師は軽く頷き、優しい声で返す。
「はい、失礼いたしました」
職員室の入り口で一礼し、アリセアは白く長い回廊を静かに歩き出す。
澄んだ空気の中、彼女の足音だけが響いて、心地よい静けさが広がる。
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