~記憶喪失の私と魔法学園の君~甘やかしてくるのはあの方です

Hikarinosakie

文字の大きさ
64 / 66

64:差し伸べられた手は

しおりを挟む
どれくらい、夢の奥に沈んでいたのだろう。

急に、心の奥に何かが飛び込んできた。

(……強くなりたい)


誰の声なのか。

そう考えていたら、気がつけば目の前に女性がいた。

自分より、ちょっと上のお姉さん。

そのお姉さんは、初め、私がここにいることに驚いた様子だった。

わたしが閉じこめられていることを伝えると。

閉じこめたあの人はどこ?って聞いてくれた。


でも、私にも分からなかった。

そうしてお姉ちゃんは去った。


あのお姉ちゃんは、夢……だったのかな。


あやふやな世界に、分からなくなる。


ただ、いつもの様に時間だけが過ぎていく。

そうして、ふたたび、この空間に、静けさが戻った。

かにおもえたのだけれど。


視界の隅から、ふいに青い蝶が飛んできた。


思わず、蝶々を目で追う。

ふわりと飛んで行った蝶の先。

フィリーネは眉を寄せた。


「あなた……だぁれ?」


広くて白い空間に。

小さな、可愛らしい少年が、現れた。

蝶は、男の子の前に行くと、ふっと消えた。


「……僕は……分かるでしょ?」


一見、にっこり笑って……無邪気で可愛らしい。


けれど、フィリーネには、その子の背後に陽炎のような禍々しい空気の揺れを感じ取っていた。

背筋が凍るような、見ていると悲しいような、様々な負の感情と想いが凝縮されているように感じた。

手が震え、唇も、きゅっと力が入る。

その少年が1歩、近づくだけでフィリーネは、後ろに下がった。

そうしてしばらくして、その小さな少年が眉を寄せる。

「僕の存在を認めてよ、だって……フィル、君から生まれたんだよ」

「わ、私から?」

フィル……それは……大切なあの人から呼ばれていた愛称。

どうしてこの子が知っているの?

「あのね……外に出てみたら楽しかったんだ。可愛いお姉ちゃんもいたの」

「お姉ちゃん?」

時間の感覚が分からない。


けれど、もしかして?

夢だとおもっていたけれど。


確か……名前は……。


「アリセア……?」

「そうだよ……アリセアお姉ちゃん。可愛くて、優しくて……それだけじゃない、とても稀な魂を持ってた。不思議だよね?」

首を傾げながら、ふふふ、と楽しそうに目を細めて笑う。

「稀な……魂……?」

フィリーネにとって、この少年が、何故か酷く恐ろしかった。

(怖い……私から生まれたって、ほんとうなの?)

手が震え、足がすくむ。

その間に彼は、一瞬で目の前に来て……。

「っ……!!」

悲鳴さえあげられない。

どうして?
身体も固まったように動かなかった。

「フィル……僕と外に出ようよ。外は楽しいよ?……ほんとうは分かってるよね?……あの人に嫌われたから閉じ込められたってこと。」

「あっ……わ、わたし」
ボロボロと涙が溢れ出てくる。

どんなに深く微睡んでも、いつもどんな時もあの人の声や、表情や、仕草が思い出されて、会いたくて。

会いたくてたまらなくて。

ーー彼の温もりが、恋しい。

でも、ここから出れない。

私が悪いことをしたから、仕方ないことだと分かっている。


けれど……もう一度……会えたなら……。

「アリセアお姉ちゃん、すごく優しいから、フィリーネがどんなに悪いことをしたのか知ったら……やっつけられちゃうかも。お姉ちゃんには強い仲間もいるみたいだし。ほら、……その前に外に出よう、フィル。」

弱った心をほじくるように、ゆっくり、穏やかに、フィリーネの思考を奪っていく。

優しい言葉をかけているようで、どんどんフィリーネを追い詰めていくことに、気がつけない。

「僕の手を取って」

「あ……ぁっ、……私……」

「僕は君から生まれた……たった一人の仲間だよ」


迷いながらも、フィリーネは、震える手で、彼の手にかさねる。

「ゆっくり、どうしたら外に行けるか……僕と考えようね」

そう言われ、フィリーネはゆっくりと、うなづいた。


フィリーネは、その日から、徐々に彼に、思考を奪われていく。



(外に出たい……でも、出れない)

相反する気持ちがぐちゃぐちゃになって、頭の中が塗りつぶされていく。

不安と希望と、恐怖と、理性と。



また、……あの人に会えたなら、……でも。


外に出たら、あの人には……もう、会えない?



(分かってる……きっと、とっくに……)


けれど、ここにいれば、あの人の声が聞こえる気がして。

ここにいれば、まだ、想い出の中で、一緒にいられる気がして。


あの人が用意してくれたこの場所……離れたく……ない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

秘密の館の主に囚われて 〜彼は姉の婚約者〜

七転び八起き
恋愛
伯爵令嬢のユミリアと、姉の婚約者の公爵令息カリウスの禁断のラブロマンス。 主人公のユミリアは、友人のソフィアと行った秘密の夜会で、姉の婚約者のカウリスと再会する。 カウリスの秘密を知ったユミリアは、だんだんと彼に日常を侵食され始める。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...