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第八十三話 王の感傷
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「婚姻の申請を取り下げたそうだな。何があった」
王に呼び出され王宮に向かったアウレリオは、日当たりのよいサンルームに通され、即座に切り出された。
「不徳の至りでございます」
アウレリオが頭を下げると、王は両腕を組み、口元をゆがめた。
「不徳の至り・・・とな。ふむ」
第三王女の誕生パーティーの裏側で起きていた出来事を知らないはずがないのに、王は素知らぬ顔で探りを入れてくる。そんなアウレリオの視線を気にもかけず、王はティーカップを口に運んだ。
「そう、そうそう・・・お前の母親のことはよく覚えておる」
何かをかみしめるようにつぶやいた王の言葉に、アウレリオは虚をつかれた。母親?ジョゼフィーヌは、王は自分に気があるといつも自慢していたが、まさか、勘違いされておられるのか?そんなわけは、と思いつつも、アウレリオはやんわりと尋ねることにした。
「この度同行した女性ならば・・・」
「違う違う。私が言っているのは、お前の母親、ソフィア嬢、いやソフィア夫人のことだ。彼女は私の同窓生だ」
「同窓生?」
「・・・聞いておらぬのか」
心なしか、王はがっかりしたように見える。
母だって、王の同窓生ならば自慢してもいいだろうに、一度も聞いた覚えがない。
だが、考えてみれば、母と自分はそもそもそんな話をする関係でさえなかった。
「おそらく、私が失念したものと思われます」
「ああ、いい。そんなところだろう」
王は右手を振った。
「相変わらずだ。あの方は私には興味がなかったから。私とお前の母・・・ソフィア夫人は学園での同級生で・・・ただ、あのころからあの方は婚約者にしか興味がなかったからな。お前の父親、キャンベル伯だ」
「・・・そうですか」
「だが、私のことを記憶には残していたらしい。今回お前が王都をおとずれるにあたり、夫人から手紙が届いた。結婚の許可状にサインして以来、もう20年は経っておろう。相変わらず美しい字で、春の風のような人柄がしのばれる手紙だった」
王は懐かしむように、うなずき、お茶を飲んだ。
(春の風・・・)
言いたいことを飲み込むために、アウレリオもグイっとお茶を飲んだ。
「それでだ。その手紙の中で、お前を案じていた。早く結婚しないと、第二夫人の子に伯爵の後継者としての地位を奪われかねない、とな」
「・・・」
「昔から、お前の叔母の第二夫人は、まあ・・・有名な存在だったよ。対照的に、お前の母親はいつも冷静で、物静かな人だった。まるで月夜に咲く花のような楚々とした美しさで・・・たまに見せる笑顔が春の風のように柔らかくて、美しい・・・だが、あの方が一番美しかったのは、お前の叔母に嫉妬するときだ。目をきらきらさせて、にらみつけるんだ。その顔があまりに美しくて・・・」
王はアウレリオに茶を注いだ。
「まあ、もっと飲みなさい。東方から取り寄せた貴重なお茶だ。ちょっと昔話に付き合うぐらいいいだろう?」
「はい」
アウレリオは、また茶を口に運んだ。なぜ王はこんな昔話を・・・?
「お前の父親は、母上を刺激して、嫉妬に燃える姿を見るのが楽しかったんだろう。そして、ある日やりすぎてしまった。間違って一線を越えてしまったんだ。そして、姉妹を夫人として迎える羽目になった。どれほどあの方は傷ついただろう。だが、その時には後戻りできなかったんだろうな。跡取りを産んでも、すぐに産まれた弟との関係はいろいろ大変だっただろう?家柄も同じだし、お前の叔母は男に取り入るのがうまい。しかも、権力欲も強い」
王は首を横に振った。とてもジョゼフィーヌがいうように、ジョゼフィーヌに恋い焦がれているようには見えない。しかも、独身の王の後添いに立とうともくろんでいたことすら、お見通しだったらしい。
「私にも目がある。お前は、相当苦労しただろうと想像はつく。だが、それも運命だ。そして、私がお前を助けてやりたいと思うのも、また運命だ。まかり間違ったら・・・誤解するな、あの方は貞淑でそのようなことは一度もなかった。だが、タイミングさえ合えば、私の息子だった可能性はゼロではないからな」
王が卓上にあったベルを鳴らした。
「第三王女をここへ」
なぜ、急に、第三王女を?
不安に、どきりと胸が鳴った。
まさか・・・
「お前に力を与えてやろう。強大な後ろ盾だ」
「いえ、私は・・・」
「まさか、私の心づくしを無下にするほど、愚かではあるまい?そんなに愚かなら、とても弟を出し抜くことなどできんぞ。お前の叔母や妹は、盛んにもう一人の男子を売り込みに来ておる。我が秘宝のセラフィーナをお迎えできるのなら、すでにいる妻は追い出すと!本当に品のない奴らだ。どうだ、アウレリオ。あいつらを出し抜いてやれ」
「ですが」
「失礼いたします」
鈴の音のように美しい声とともに、第三王女セラフィーナが部屋に入ってきた。
アウレリオは立ちあがり、頭を下げる。
「こんにちは。アウレリオ様。いかがお過ごしですか」
「わが太陽の姫君の末永い幸福をお祈り申し上げます。おかげさまで、平穏に過ごしております」
「そう?」
セラフィーナはくすっと笑うと、王の隣にふんわりと腰を下ろした。
「ちょうど呼んでいただいてよかったですわ。あの兄妹、今日もおいでになっていたんですの。アウレリオ様のご兄弟を悪くは言いたくありませんけど」
そういいながらアウレリオをちらりと見る。
「アウレリオ様はご存じでしたか?わたくし、あなたの義理の妹になるかもしれませんのよ。しかも、今いる奥様を追い出すって」
「家人が大変失礼をいたしまして」
アウレリオはジョゼフィーヌやその子供たちの厚顔さに、顔から火が出そうだった。
そこまでして権力にすり寄りたいのか。
「カリナ嬢は、結婚相手を探してほしいみたい。ジョゼフィーヌ様は、お父様と取り持ってほしいそうよ。そして、あの、イサークとやら・・・」
セラフィーナは首を横に振った。
「お話になりませんわ」
「それというのも、お前がいつまでも結婚しないから、無駄な虫まで引き寄せてしまうのだ」
「だってお父様」
「だってではない。私がこの上ない良縁を思いついた。ここにいる、アウレリオはどうだ」
「まあ!」
セラフィーナの頬は、瞬く間に朱色に染まった。
「そ、そんなことをおっしゃるなんて・・・心の準備が・・・」
真っ赤に火照ったほほを両手で押さえ、目を潤ませる姿はとても愛らしい。
「さあ、どうだ。長年の忠誠への褒美として、わが至宝を与えよう。どれだけ願ってもそう簡単に手に入るものではない。娘を望むものは数えきれないほどいたが、誰一人私の目にかなう者はいなかった。お前を助けてやろう。王女の手を、取りなさい」
************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
皆さま、よい週末を♡
そして、♡と広告もありがとうございました。
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アウレリオが頭を下げると、王は両腕を組み、口元をゆがめた。
「不徳の至り・・・とな。ふむ」
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「そう、そうそう・・・お前の母親のことはよく覚えておる」
何かをかみしめるようにつぶやいた王の言葉に、アウレリオは虚をつかれた。母親?ジョゼフィーヌは、王は自分に気があるといつも自慢していたが、まさか、勘違いされておられるのか?そんなわけは、と思いつつも、アウレリオはやんわりと尋ねることにした。
「この度同行した女性ならば・・・」
「違う違う。私が言っているのは、お前の母親、ソフィア嬢、いやソフィア夫人のことだ。彼女は私の同窓生だ」
「同窓生?」
「・・・聞いておらぬのか」
心なしか、王はがっかりしたように見える。
母だって、王の同窓生ならば自慢してもいいだろうに、一度も聞いた覚えがない。
だが、考えてみれば、母と自分はそもそもそんな話をする関係でさえなかった。
「おそらく、私が失念したものと思われます」
「ああ、いい。そんなところだろう」
王は右手を振った。
「相変わらずだ。あの方は私には興味がなかったから。私とお前の母・・・ソフィア夫人は学園での同級生で・・・ただ、あのころからあの方は婚約者にしか興味がなかったからな。お前の父親、キャンベル伯だ」
「・・・そうですか」
「だが、私のことを記憶には残していたらしい。今回お前が王都をおとずれるにあたり、夫人から手紙が届いた。結婚の許可状にサインして以来、もう20年は経っておろう。相変わらず美しい字で、春の風のような人柄がしのばれる手紙だった」
王は懐かしむように、うなずき、お茶を飲んだ。
(春の風・・・)
言いたいことを飲み込むために、アウレリオもグイっとお茶を飲んだ。
「それでだ。その手紙の中で、お前を案じていた。早く結婚しないと、第二夫人の子に伯爵の後継者としての地位を奪われかねない、とな」
「・・・」
「昔から、お前の叔母の第二夫人は、まあ・・・有名な存在だったよ。対照的に、お前の母親はいつも冷静で、物静かな人だった。まるで月夜に咲く花のような楚々とした美しさで・・・たまに見せる笑顔が春の風のように柔らかくて、美しい・・・だが、あの方が一番美しかったのは、お前の叔母に嫉妬するときだ。目をきらきらさせて、にらみつけるんだ。その顔があまりに美しくて・・・」
王はアウレリオに茶を注いだ。
「まあ、もっと飲みなさい。東方から取り寄せた貴重なお茶だ。ちょっと昔話に付き合うぐらいいいだろう?」
「はい」
アウレリオは、また茶を口に運んだ。なぜ王はこんな昔話を・・・?
「お前の父親は、母上を刺激して、嫉妬に燃える姿を見るのが楽しかったんだろう。そして、ある日やりすぎてしまった。間違って一線を越えてしまったんだ。そして、姉妹を夫人として迎える羽目になった。どれほどあの方は傷ついただろう。だが、その時には後戻りできなかったんだろうな。跡取りを産んでも、すぐに産まれた弟との関係はいろいろ大変だっただろう?家柄も同じだし、お前の叔母は男に取り入るのがうまい。しかも、権力欲も強い」
王は首を横に振った。とてもジョゼフィーヌがいうように、ジョゼフィーヌに恋い焦がれているようには見えない。しかも、独身の王の後添いに立とうともくろんでいたことすら、お見通しだったらしい。
「私にも目がある。お前は、相当苦労しただろうと想像はつく。だが、それも運命だ。そして、私がお前を助けてやりたいと思うのも、また運命だ。まかり間違ったら・・・誤解するな、あの方は貞淑でそのようなことは一度もなかった。だが、タイミングさえ合えば、私の息子だった可能性はゼロではないからな」
王が卓上にあったベルを鳴らした。
「第三王女をここへ」
なぜ、急に、第三王女を?
不安に、どきりと胸が鳴った。
まさか・・・
「お前に力を与えてやろう。強大な後ろ盾だ」
「いえ、私は・・・」
「まさか、私の心づくしを無下にするほど、愚かではあるまい?そんなに愚かなら、とても弟を出し抜くことなどできんぞ。お前の叔母や妹は、盛んにもう一人の男子を売り込みに来ておる。我が秘宝のセラフィーナをお迎えできるのなら、すでにいる妻は追い出すと!本当に品のない奴らだ。どうだ、アウレリオ。あいつらを出し抜いてやれ」
「ですが」
「失礼いたします」
鈴の音のように美しい声とともに、第三王女セラフィーナが部屋に入ってきた。
アウレリオは立ちあがり、頭を下げる。
「こんにちは。アウレリオ様。いかがお過ごしですか」
「わが太陽の姫君の末永い幸福をお祈り申し上げます。おかげさまで、平穏に過ごしております」
「そう?」
セラフィーナはくすっと笑うと、王の隣にふんわりと腰を下ろした。
「ちょうど呼んでいただいてよかったですわ。あの兄妹、今日もおいでになっていたんですの。アウレリオ様のご兄弟を悪くは言いたくありませんけど」
そういいながらアウレリオをちらりと見る。
「アウレリオ様はご存じでしたか?わたくし、あなたの義理の妹になるかもしれませんのよ。しかも、今いる奥様を追い出すって」
「家人が大変失礼をいたしまして」
アウレリオはジョゼフィーヌやその子供たちの厚顔さに、顔から火が出そうだった。
そこまでして権力にすり寄りたいのか。
「カリナ嬢は、結婚相手を探してほしいみたい。ジョゼフィーヌ様は、お父様と取り持ってほしいそうよ。そして、あの、イサークとやら・・・」
セラフィーナは首を横に振った。
「お話になりませんわ」
「それというのも、お前がいつまでも結婚しないから、無駄な虫まで引き寄せてしまうのだ」
「だってお父様」
「だってではない。私がこの上ない良縁を思いついた。ここにいる、アウレリオはどうだ」
「まあ!」
セラフィーナの頬は、瞬く間に朱色に染まった。
「そ、そんなことをおっしゃるなんて・・・心の準備が・・・」
真っ赤に火照ったほほを両手で押さえ、目を潤ませる姿はとても愛らしい。
「さあ、どうだ。長年の忠誠への褒美として、わが至宝を与えよう。どれだけ願ってもそう簡単に手に入るものではない。娘を望むものは数えきれないほどいたが、誰一人私の目にかなう者はいなかった。お前を助けてやろう。王女の手を、取りなさい」
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