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第八十四話 交渉
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第三王女はほほを赤く染めながら、期待に満ちた目でアウレリオを見守っている。
「私は・・・いえ、我が領地には魔物も多く、第三王女様のような尊い方には厳しい土地柄かと・・・」
「そんなこと!どうせ領地には管理人を置けばいいだけだろう。お前なら王家の縁者だし、身分も悪くない。しかも、謙虚なその態度も気に入った」
アウレリオの背を冷たい汗が落ちた。
まさか、こんな展開になろうとは。
何がなんでもエミリアを娶るべきだったか・・・いや、エミリアの選択は正しかった。
互いに友人にすらなれたのかわからない関係だった。
「私のような、礼儀知らずの田舎者には、少々荷が重いかと」
「そのようなこと、何の問題もない。王都にでて一年もたてば、お前を田舎者扱いするものなど一人もおらん。しかも、王室の縁続きだ。お前を見下せば、王家を見下すのと同じこと。そのような愚か者がいたら厳罰に処せばいいだけだ」
口の中が乾き、じっとりといやな汗がにじんだ。
「第三王女様は・・・いかがお考えになりますか?」
誰にも嫁ごうとしなかった第三王女なら、うまいこと断ってくれるだろう。
「わたくしは・・・」
第三王女の頬がばら色に染まった。
世の中のたいていの男ならば、その姿を見れば、歓喜するだろう。だが、アウレリオの胸の中によぎったのは、恐ろしいほどの失望だった。
「グラム様・・・いえ、アウレリオ様ならば、わたくしを守ってくださるのではないかと・・・」
両頬に手をそえ、恥ずかしそうにうつむく姿を王は好まし気に見つめ、アウレリオは呆然と目を見開いた。
「なぜだ」
「えっ?」
「なぜそのようなことを言う。私とあなたは一度言葉を交わしただけではないか」
「・・・」
第三王女は、思ってもみなかった反応が返ってきたため、困りはてて父王を見た。
「無礼な」
王の不機嫌な声に、アウレリオははっと息を飲んだ。
現在、ウィアードは独立した地域ではあるが、あくまでも領国の範囲内。
もともと、ウィアードは辺境に魔物が出るため、その抑えとして血の気の多い王弟が遣わされた土地。
その褒賞として現在に至るまでキャンベル伯ル・グラム一族が統治しているが、元をただせば預かっている土地に過ぎない。
結婚すら自由にはできないのだから。
「申し訳ありません。田舎者故のご無礼をお許しください」
アウレリオは頭を下げた。
産まれてからずっと、辺境の地を守ることこそが自分の定めと言い聞かされてきたアウレリオには、ほかの選択肢はなかった。
ウィアードは守るべき土地。
その義務は子々孫々まで続く。
だからこそ、エミリアを妻にして跡取りを設けようとしたのではないか。
心と体は別。
貴族では当たり前のことだ。
政略結婚は家柄で決めるもの。恋愛はある程度の配慮をすれば自由だ。
「きっと、急なお話で驚かれたんでしょう?お父様、グラム様を責めないで上げてくださいな」
第三王女はほほ笑んだ。
「わたくし、辺境に行ったことがありませんの。魔物を退治したのは100年以上前と聞いておりますのに、いまだのそんなに恐ろしいところなんですか?」
「・・・本当に恐ろしいものは、表には出てまいりません。王女様には厳しい土地柄かと。冬の寒さは厳しく、夏は短い」
「そうなんですのね。お父様、わたくしグラム様と少しお話してもよろしいかしら?もちろん侍女は同席させますし、戸口も開けておきます。わたくしの名誉のために」
「愛しい、セラフィン。無理をするな」
「まあ、無理だなんて。ただ、グラム様とお話ししたいだけですわ」
第三王女は体よく父を追い払うと、アウレリオに椅子をすすめた。
「グラム様は、結婚の許可を取りにいらしたのかと思ったんですが、違ったんですか?」
ほほ笑みながらお茶を入れる姿に、先ほどまでの甘い色はかけらもない。
「しかも、婚約者だった方は、あのような騒ぎを起こしてあなたに恥をかかせて・・・どうして、わたくしの申し出を断ろうとするのか、理解できませんわ。それとも、なにか理由があるんですの?いえ、どんな理由があろうと、あの方々と家督争いをなさってるんでしょう?」
「あの者たちと親族になることに抵抗はないんですか」
「ないと言えばうそになりますけど。でも、そこはあなたが守ってくださるでしょう?」
第三王女は朗らかに笑った。
「腹の底が見えやすい方々とはお付き合いするのは楽ですわ。必要以上にかかわる気もありませんし。それに、わたくし、本当は結婚して、この地から離れたい気持ちと離れたくない気持ちが半々あるんですの。いつまでも独身でいると、舞踏会でもわけありげに見つめられたり、ちょっとした言葉の端に勝手な意味をつけられたり、うんざりしておりますの。ですから、そろそろ。ちょうどいい時にあなたが現れて、この方なら、と思いました」
「私に興味があるわけではないんですか」
「まあ!」第三王女は朗らかに笑った。「見た目によらず!」王女がくすくす笑い続け、アウレリオは居心地が悪くなった。まるで、ただの自意識過剰のようだ。
「興味はありますわ。でも、今のところはそれ以上ではないんです。わたくしたちのような身分の者には、身分と年齢のつり合いと嫌いじゃない程度の好感があれば、結婚の協議に入れますわよね?」
「・・・そうですか」
アウレリオは考え込んだ。
ならば、悪い話ではないのかもしれない。
どうせ結婚はしなければならない。
婚約者には逃げられてしまった。そして、国で一番高貴な女性が自分に興味を示していて、しかも「政略結婚の相手」と割り切って考えてくれている。
「跡取りをひとり、もしくはふたり。あとはあなたは自由です」
「結構よ。王都に帰ってきたときには、王宮に滞在します。あなたもそうして」
「わかりました」
「ほかの女性に子を産ませるのは、わたくしの後にしてちょうだい」
「・・・おそらく、そうはならないかと」
「約束して」
「承りました」
第三王女は右手から白いレースの手袋を外し、アウレリオに差し出した。
「セラフィーナとお呼びくださいな」
「御意」
アウレリオはセラフィーナの白い指先にそっと口づけた。
ちくりと痛む胸。その正体が何なのか、まだアウレリオにはわかっていなかった。
***********
お読みいただきまして、ありがとうございました。
アウレリオの決断が、このあと吉となるか凶となるか、見守ってください!
♡と広告をありがとうございました。
みなさんの幸せをいつも願っています!
「私は・・・いえ、我が領地には魔物も多く、第三王女様のような尊い方には厳しい土地柄かと・・・」
「そんなこと!どうせ領地には管理人を置けばいいだけだろう。お前なら王家の縁者だし、身分も悪くない。しかも、謙虚なその態度も気に入った」
アウレリオの背を冷たい汗が落ちた。
まさか、こんな展開になろうとは。
何がなんでもエミリアを娶るべきだったか・・・いや、エミリアの選択は正しかった。
互いに友人にすらなれたのかわからない関係だった。
「私のような、礼儀知らずの田舎者には、少々荷が重いかと」
「そのようなこと、何の問題もない。王都にでて一年もたてば、お前を田舎者扱いするものなど一人もおらん。しかも、王室の縁続きだ。お前を見下せば、王家を見下すのと同じこと。そのような愚か者がいたら厳罰に処せばいいだけだ」
口の中が乾き、じっとりといやな汗がにじんだ。
「第三王女様は・・・いかがお考えになりますか?」
誰にも嫁ごうとしなかった第三王女なら、うまいこと断ってくれるだろう。
「わたくしは・・・」
第三王女の頬がばら色に染まった。
世の中のたいていの男ならば、その姿を見れば、歓喜するだろう。だが、アウレリオの胸の中によぎったのは、恐ろしいほどの失望だった。
「グラム様・・・いえ、アウレリオ様ならば、わたくしを守ってくださるのではないかと・・・」
両頬に手をそえ、恥ずかしそうにうつむく姿を王は好まし気に見つめ、アウレリオは呆然と目を見開いた。
「なぜだ」
「えっ?」
「なぜそのようなことを言う。私とあなたは一度言葉を交わしただけではないか」
「・・・」
第三王女は、思ってもみなかった反応が返ってきたため、困りはてて父王を見た。
「無礼な」
王の不機嫌な声に、アウレリオははっと息を飲んだ。
現在、ウィアードは独立した地域ではあるが、あくまでも領国の範囲内。
もともと、ウィアードは辺境に魔物が出るため、その抑えとして血の気の多い王弟が遣わされた土地。
その褒賞として現在に至るまでキャンベル伯ル・グラム一族が統治しているが、元をただせば預かっている土地に過ぎない。
結婚すら自由にはできないのだから。
「申し訳ありません。田舎者故のご無礼をお許しください」
アウレリオは頭を下げた。
産まれてからずっと、辺境の地を守ることこそが自分の定めと言い聞かされてきたアウレリオには、ほかの選択肢はなかった。
ウィアードは守るべき土地。
その義務は子々孫々まで続く。
だからこそ、エミリアを妻にして跡取りを設けようとしたのではないか。
心と体は別。
貴族では当たり前のことだ。
政略結婚は家柄で決めるもの。恋愛はある程度の配慮をすれば自由だ。
「きっと、急なお話で驚かれたんでしょう?お父様、グラム様を責めないで上げてくださいな」
第三王女はほほ笑んだ。
「わたくし、辺境に行ったことがありませんの。魔物を退治したのは100年以上前と聞いておりますのに、いまだのそんなに恐ろしいところなんですか?」
「・・・本当に恐ろしいものは、表には出てまいりません。王女様には厳しい土地柄かと。冬の寒さは厳しく、夏は短い」
「そうなんですのね。お父様、わたくしグラム様と少しお話してもよろしいかしら?もちろん侍女は同席させますし、戸口も開けておきます。わたくしの名誉のために」
「愛しい、セラフィン。無理をするな」
「まあ、無理だなんて。ただ、グラム様とお話ししたいだけですわ」
第三王女は体よく父を追い払うと、アウレリオに椅子をすすめた。
「グラム様は、結婚の許可を取りにいらしたのかと思ったんですが、違ったんですか?」
ほほ笑みながらお茶を入れる姿に、先ほどまでの甘い色はかけらもない。
「しかも、婚約者だった方は、あのような騒ぎを起こしてあなたに恥をかかせて・・・どうして、わたくしの申し出を断ろうとするのか、理解できませんわ。それとも、なにか理由があるんですの?いえ、どんな理由があろうと、あの方々と家督争いをなさってるんでしょう?」
「あの者たちと親族になることに抵抗はないんですか」
「ないと言えばうそになりますけど。でも、そこはあなたが守ってくださるでしょう?」
第三王女は朗らかに笑った。
「腹の底が見えやすい方々とはお付き合いするのは楽ですわ。必要以上にかかわる気もありませんし。それに、わたくし、本当は結婚して、この地から離れたい気持ちと離れたくない気持ちが半々あるんですの。いつまでも独身でいると、舞踏会でもわけありげに見つめられたり、ちょっとした言葉の端に勝手な意味をつけられたり、うんざりしておりますの。ですから、そろそろ。ちょうどいい時にあなたが現れて、この方なら、と思いました」
「私に興味があるわけではないんですか」
「まあ!」第三王女は朗らかに笑った。「見た目によらず!」王女がくすくす笑い続け、アウレリオは居心地が悪くなった。まるで、ただの自意識過剰のようだ。
「興味はありますわ。でも、今のところはそれ以上ではないんです。わたくしたちのような身分の者には、身分と年齢のつり合いと嫌いじゃない程度の好感があれば、結婚の協議に入れますわよね?」
「・・・そうですか」
アウレリオは考え込んだ。
ならば、悪い話ではないのかもしれない。
どうせ結婚はしなければならない。
婚約者には逃げられてしまった。そして、国で一番高貴な女性が自分に興味を示していて、しかも「政略結婚の相手」と割り切って考えてくれている。
「跡取りをひとり、もしくはふたり。あとはあなたは自由です」
「結構よ。王都に帰ってきたときには、王宮に滞在します。あなたもそうして」
「わかりました」
「ほかの女性に子を産ませるのは、わたくしの後にしてちょうだい」
「・・・おそらく、そうはならないかと」
「約束して」
「承りました」
第三王女は右手から白いレースの手袋を外し、アウレリオに差し出した。
「セラフィーナとお呼びくださいな」
「御意」
アウレリオはセラフィーナの白い指先にそっと口づけた。
ちくりと痛む胸。その正体が何なのか、まだアウレリオにはわかっていなかった。
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