5月の雨の、その先に

藍音

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第八十五話 待つ時間

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なぜか非公開になっていたのですが・・・????
自分でもわかりませんが、再公開しておきます。


***********


リオの体調は日を追うごとによくなっていった。
ただし、細かな傷はともかく、骨折と刺し傷に加えて、殴られたことによる内臓の損傷が疑われるため、まだ安静が必要とのこと。もうしばらくベッドの上で静養するようにと、医師から厳命されていた。

何もすることのない時間は退屈だ。
子供のころからずっと働き続けてきたリオにとって、何もすることがない時間は贅沢すぎて持て余してしまう。

そんな時考えてしまうのはアウレリオのこと。
顔が見たくてたまらないけど、忙しい主人が負傷した従僕に会いに来てくれるはずもない。
しかも、今日は急用ができて出かけたそうだ。
だとしたら、帰ってきたときに一目でも見られるかもしれない。


がらがら

外で車輪の音がすると、胸が跳ねる。

ざっざっ

蹄の音がすると、足をひきずって窓から眺める。

その繰り返しだった。
会いたくてたまらない。

「アウレリオ様はいつごろお帰りかな」

自分の世話をしてくれる侍女に尋ねたら、「私が知ってるわけないでしょ」とふてくされたように返された。

屋敷に戻ってくるほんのわずかな瞬間を逃したら、今日はもう姿を見ることはできないだろう。とにかく、落ち着かない。足を引きずりながらベッドに戻り、身を横たえる。

(アウレリオ様、アウレリオ様・・・)

心の中で名を呼び、会える時間を待つ。
くすぐったくて幸せな時間に、溶けてしまいそうだ。

(早く、会いたいな)

目をつぶると、二人だけの時間を思い出す。

(いつも、やさしくしてくださって・・・冷たく見えるけど、本当は優しいんだ。今回だって、俺みたいなものをこんなに手厚く看病してくださって・・・)

恐れ多いとは思うけど、やっぱりうれしい。


今療養している部屋は、アウレリオの隣室だ。
屋敷の中で一番広くて日当たりがよく、過ごしやすい部屋だ。
使用人用の部屋は日も差さずかび臭い。
こんないい環境においていただいているおかげで、ずいぶんと傷の治りも早い気がした。

(もう少ししたら、元居た部屋に戻るのか、許されればアウレリオ様の従者に戻るのかわからないけど)

ただ、間違いなく、破格の扱いであることは分かった。
リオが命がけで守ったエミリアはすでに屋敷を出てしまい、未来の伯爵夫人を守ったわけでもない。

ただの従僕、ただのリオ。

(でも、そんな俺のことをアウレリオ様があ、あい・・・してくださってるって)

頬に血が上る。

(エミリア様のおっしゃったことは、本当かな。期待しすぎかな。勘違いかな。でも・・・)

考えただけで脳の芯が溶けて、何も考えられなくなる。

(早く、会いたい)

心に思ったのは、それだけだった。



*********


かさっ

何かが動いた。
真っ暗な部屋の中、小さな音で目を覚ます。

いつの間に眠ってしまっていたんだろう。
ベッドにごろっと横になったはずが、リオは布団と毛布でしっかりとくるまれていた。

暗闇の中、浮かび上がる金色の髪。

途端に胸が跳ねる。
この家で、少し癖のある金髪の持ち主は、アウレリオしかいない。

「アウレリオ様・・・」

リオは無理に体を起こそうとして左腕に激痛が走り、顔をしかめた。

「動くな」アウレリオが優しい声で言う。「まだ、傷はふさがっていないんだ。医者の話では、足に刺さったナイフがあと数センチずれていたら、お前は死んでいただろうと」

自分は思ったよりも重傷だったらしい。アウレリオの顔はろうそくの陰となり、よく見えなかったが、げっそりとやつれて見えた。


「ごめんなさい。俺、エミリア様をもっとうまくお守りできなくて。アウレリオ様にご迷惑を・・・」
「ばか者」
「す、すみません。エミリア様に聞きました。領地に帰られるって・・・」

言い終わらないうちに、アウレリオがリオにやさしく口づけた。

「ばか」

アウレリオが小さく、でも甘くささやいた。

「ご、ごめんなさい」

リオの言葉を遮るように、アウレリオの唇がリオの口をふさぐ。
柔らかな舌が甘やかすように侵入し、リオは体の力を抜いてアウレリオを受け入れた。

アウレリオはベッドの上に身を横たえ、壊れ物を扱うようにリオのほほや髪に触れた。

「一時は」その甘い声に、リオの体の奥底が震える。「本当に危なかった。少し力を使ったが、私には『癒しの力』はほとんどないんだ」
「・・・?」
リオがもの問いたげに見上げると、アウレリオはため息をついてリオを抱きしめた。
「何でもない。分からなければいい。だが、お前はもっと自分のことを大切にしないと。もし死んでしまったらどうするんだ。今回だって本当に危なかったんだ」
「でも・・・俺の命でアウレリオ様のお役立てるんなら、俺はいつだって自分の命なんて捨てられます」
「だめだ」
アウレリオはリオの唇に人差し指を当てた。
「許さない。次に同じようなことがあったら、すぐに誰かを呼ぶんだ。いいな」

リオは黙ったままアウレリオの顔をじっと見つめた。アウレリオの目の中でなにかが揺らいだ。

「お前が苦しむと、私も苦しい。主を苦しませるなど、従者失格だろう?」

リオはこくりと首を縦に振った。

「そうだ、それでいい。お前はずっと私の側にいるんだ」

じっとアウレリオを見つめていると、愛しさがあふれてくる。
少しだけ、よくばってもいいんだろうか。
リオがアウレリオのほほにそっと手を添えると、アウレリオはその手を大きな手のひらで包んだ。

愛しい人。

リオは引き寄せられるように、アウレリオの唇に自分の唇を寄せた。



***********


ありがとうございました。
今日はしっとりしているので、♡と広告のお礼だけ。いつも、ありがとうございます(小声)

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