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第九十話 雪
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【ウィアード城にて】
しんしんと降る雪の中、遠くから蹄の音が聞こえてくる。
先ぶれに知らされたアウレリオの帰還を待つため、城の4階から外を眺めていたリオは、勢いよく階段を駆け下りた。
アウレリオとセラフィーナ姫の婚約が調ってから、一族は一度領地に戻り、アウレリオだけが王都に向かい、結婚式に関する打ち合わせや衣装の作成などの用事で出かけていた。
不在の時間を短くするため毎回騎馬ででかけ、数時間のみの滞在でとんぼ返りすることもあった。
それでも、今回の不在は一週間になる。
そうした強行軍で王都まで行くため、護衛騎士数人を伴うのみで、リオのような従者には出番がなかった。
今回も、アウレリオの不在から、帰宅を心待ちにしていたところだ。
玄関から何度も外に出て、到着を待つ。
乾いたリネンと、温かいお茶。そして足を洗うための湯。
準備は万端だ。
何度目かに顔を出したとき、蹄と馬をいなす声が聞こえ、城の中庭に騎士たちが入ってきた。
いななく馬の声と石畳を打つ蹄の音。
アウレリオが優しく手綱を引くと、馬はひひんとうれしそうにいなないて、玄関前に止まった。
「お帰りなさいませ!」
リオが大声で出迎えると、アウレリオは馬から降り、護衛騎士に手綱を預けた。
「お寒かったでしょう?足を洗う湯をご用意しております」
「おおいいな」後ろから騎士たちが声を上げる。「あ、皆様の分もご用意しておきましたので!」
リオが大声で答えると、騎士たちから歓声が上がった。
アウレリオはちらりとリオを見ると、無言で屋敷に入っていく。リオはその後をちょこちょことついていく。
玄関に入ると、アウレリオが無言で手袋を差し出した。
「はい」
リオが笑顔で受け取ろうとすると、アウレリオは手袋を手放さず、軽く引っ張った。
「アウレリオ様・・・?」
きょとんとしてリオが見上げると、アウレリオの目がいたずらっぽく光った。
「え?あの・・・」
他の相手だったら、からかわれているとすぐに分かったかもしれない。でも、好きな人が相手だと、そう冷静な判断はできないものだ。
「ただいま、リオ」
アウレリオがリオの額にこつんと自分の額を当てた。
「あの、お、かえりな、さい、アウレリオさま」
頬に朱が上がってくる。
「おー、リオ!足湯はどこだ」
ざわざわしながら、騎士たちの一団が入ってくる。
リオは慌てて身体を離した。
「あ、あの!み、皆様の分は、だ、台所に準備が・・・」
「おう、そうか!」
ぞろぞろと騎士たちがホールを通り抜けていく。
その足元には水滴がぽたぽたと落ちていた。
「あ、アウレリオ様!外套をお預かりいたします。すみません、気が利かなくて!」
「ん」
当のアウレリオといえば、濡れた外套のことなどすっかり忘れていたのだが、そういわれてみれば、外套についた雪が落ちて、足元に水たまりができ始めている。おとなしく外套を脱ぎ、手袋と一緒にリオに渡した。
「リオ」
「は、はいっ」
アウレリオがリオを見つめると、リオにはその意味が分かった。
「あ、あの・・・はい」
真っ赤になってうなずくと、その瞬間鋭い声が割って入った。
「アウレリオ!なぜすぐに報告に来ないの?」
ソフィア夫人が、イライラした様子で階段の上から声をかけた。
もしや、今までずっと見られていたんだろうか。
リオはヒヤッとしたが、アウレリオは何も気にしていない様子でさりげなく自分の後ろにリオを隠した。
「母上。今報告に行こうと思っていたところでした」
「足を洗ったらすぐにわたくしのところに来なさい」夫人のヒステリックな声が響く。
「かしこまりました」アウレリオが頭を下げると、ソフィアはリオをにらみつけ、そのまま部屋に入ってしまった。
リオはしゅんとなったが、まずは濡れたアウレリオの世話が先だ。
「あ、あのどうぞ。お隣の部屋にお湯と着替えもお持ちしておきましたので」
「うむ」アウレリオは、ともすると触れてしまいそうになるリオを見ないようにして、促されるまま部屋に入った。
***********
「それで?姫様はいつお輿入れになるのか、決まったの?」
ソフィアは、先ほど見てしまった光景を忘れようと首を振った。あの親密な空気は、間違いない。
(あの男娼とまだ続いていたなんて・・・離せばよかった。でも、アウレリオが頑として言うことを聞かないし・・・)
実はソフィアはリオを追い出そうと画策していたが、アウレリオが私費で雇用している使用人のため、手が出せない。エミリア付きにしたことを警戒してか、アウレリオはリオをソフィアの目に触れないように用心していたし、ソフィア自身も見ないようにしていた。だが、目の前で見た光景は、二人の仲は終わるどころか深まっているようにしか見えなかった。
(いまいましい)
「国王陛下は、春になってから輿入れしてはどうかと説得しておられましたが、姫君の、いやセラフィーナ様の意思は固く、新年の一連の行事が終わり次第当家にお越しになるとのことで話が付きました」
「そう」
(まあ、でもあの男娼がいくら美しいとはいえ、所詮男に過ぎない。セラフィーナ様との婚姻を自ら決めてきたアウレリオなら、すぐに正気に戻るでしょう)
ソフィアはそう自分を納得させると、晴れやかにほほ笑んだ。
「よかったわ。きっと姫君が当家に春を持ってきてくださるわよね」
「・・・」アウレリオは返事もせず、茶を飲んでいる。
「第三王女様と真実の恋に落ちた辺境の騎士の物語が歌になってるそうじゃない。吟遊詩人に歌われるなんて」
「ばかばかしいことですよね」
「なっ!口を開いたと思えば、そのようなことを」
「さて」
アウレリオはカップを置いて立ちあがった。
「疲れておりますので」
「ちょっ」
ばたんと扉が閉まり、結局今日も息子の腹は探れなかった。
「ほんとに、もう!あの子ときたら!」
ソフィアが手元にあったナプキンをドアに向かって投げつけた。
************
リオはアウレリオの自室の窓から外を眺めていた。
雪は降り積もり、
「リオ」
アウレリオが自室の窓際に立つリオの首筋を撫でた。
ぞくりとする親密なしぐさ。
「あ、あの。お湯をご用意しておりますので・・・」
アウレリオはリオの首筋に鼻を埋めた。
「風呂よりもまず・・・」
************
お読みいただきまして、ありがとうございました。
最近寒いですね。体に気を付けてくださいね。
♡と広告、そしてあたたかいコメントまで、ありがとうございます。
頑張らなくちゃ!
しんしんと降る雪の中、遠くから蹄の音が聞こえてくる。
先ぶれに知らされたアウレリオの帰還を待つため、城の4階から外を眺めていたリオは、勢いよく階段を駆け下りた。
アウレリオとセラフィーナ姫の婚約が調ってから、一族は一度領地に戻り、アウレリオだけが王都に向かい、結婚式に関する打ち合わせや衣装の作成などの用事で出かけていた。
不在の時間を短くするため毎回騎馬ででかけ、数時間のみの滞在でとんぼ返りすることもあった。
それでも、今回の不在は一週間になる。
そうした強行軍で王都まで行くため、護衛騎士数人を伴うのみで、リオのような従者には出番がなかった。
今回も、アウレリオの不在から、帰宅を心待ちにしていたところだ。
玄関から何度も外に出て、到着を待つ。
乾いたリネンと、温かいお茶。そして足を洗うための湯。
準備は万端だ。
何度目かに顔を出したとき、蹄と馬をいなす声が聞こえ、城の中庭に騎士たちが入ってきた。
いななく馬の声と石畳を打つ蹄の音。
アウレリオが優しく手綱を引くと、馬はひひんとうれしそうにいなないて、玄関前に止まった。
「お帰りなさいませ!」
リオが大声で出迎えると、アウレリオは馬から降り、護衛騎士に手綱を預けた。
「お寒かったでしょう?足を洗う湯をご用意しております」
「おおいいな」後ろから騎士たちが声を上げる。「あ、皆様の分もご用意しておきましたので!」
リオが大声で答えると、騎士たちから歓声が上がった。
アウレリオはちらりとリオを見ると、無言で屋敷に入っていく。リオはその後をちょこちょことついていく。
玄関に入ると、アウレリオが無言で手袋を差し出した。
「はい」
リオが笑顔で受け取ろうとすると、アウレリオは手袋を手放さず、軽く引っ張った。
「アウレリオ様・・・?」
きょとんとしてリオが見上げると、アウレリオの目がいたずらっぽく光った。
「え?あの・・・」
他の相手だったら、からかわれているとすぐに分かったかもしれない。でも、好きな人が相手だと、そう冷静な判断はできないものだ。
「ただいま、リオ」
アウレリオがリオの額にこつんと自分の額を当てた。
「あの、お、かえりな、さい、アウレリオさま」
頬に朱が上がってくる。
「おー、リオ!足湯はどこだ」
ざわざわしながら、騎士たちの一団が入ってくる。
リオは慌てて身体を離した。
「あ、あの!み、皆様の分は、だ、台所に準備が・・・」
「おう、そうか!」
ぞろぞろと騎士たちがホールを通り抜けていく。
その足元には水滴がぽたぽたと落ちていた。
「あ、アウレリオ様!外套をお預かりいたします。すみません、気が利かなくて!」
「ん」
当のアウレリオといえば、濡れた外套のことなどすっかり忘れていたのだが、そういわれてみれば、外套についた雪が落ちて、足元に水たまりができ始めている。おとなしく外套を脱ぎ、手袋と一緒にリオに渡した。
「リオ」
「は、はいっ」
アウレリオがリオを見つめると、リオにはその意味が分かった。
「あ、あの・・・はい」
真っ赤になってうなずくと、その瞬間鋭い声が割って入った。
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ソフィア夫人が、イライラした様子で階段の上から声をかけた。
もしや、今までずっと見られていたんだろうか。
リオはヒヤッとしたが、アウレリオは何も気にしていない様子でさりげなく自分の後ろにリオを隠した。
「母上。今報告に行こうと思っていたところでした」
「足を洗ったらすぐにわたくしのところに来なさい」夫人のヒステリックな声が響く。
「かしこまりました」アウレリオが頭を下げると、ソフィアはリオをにらみつけ、そのまま部屋に入ってしまった。
リオはしゅんとなったが、まずは濡れたアウレリオの世話が先だ。
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ソフィアはそう自分を納得させると、晴れやかにほほ笑んだ。
「よかったわ。きっと姫君が当家に春を持ってきてくださるわよね」
「・・・」アウレリオは返事もせず、茶を飲んでいる。
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「ばかばかしいことですよね」
「なっ!口を開いたと思えば、そのようなことを」
「さて」
アウレリオはカップを置いて立ちあがった。
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ばたんと扉が閉まり、結局今日も息子の腹は探れなかった。
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************
リオはアウレリオの自室の窓から外を眺めていた。
雪は降り積もり、
「リオ」
アウレリオが自室の窓際に立つリオの首筋を撫でた。
ぞくりとする親密なしぐさ。
「あ、あの。お湯をご用意しておりますので・・・」
アウレリオはリオの首筋に鼻を埋めた。
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お読みいただきまして、ありがとうございました。
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