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第六話 動き出した運命
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翌朝、目を覚ました騎士たちは、狐につままれたような顔をしたまま、大人しく村長の屋敷の中庭を去っていった。
エラ婆さんに酒をつがれた大男は、村長に「あの女にまた来るって伝えてくれ」と小声でささやいた。
(ま、金貨5枚でも安いもんだ)
横暴な騎士たちに誰一人殺されず、女は犯されなかった。
村長は満面に笑みを浮かべ、騎士たちを送り出した。
男たちは騎士たちのために用意したテーブルや椅子を片付け、呼び戻された女たちがジョッキや皿を下げ、おこぼれを狙う犬たちが盛んに尻尾を振っている。
祝祭日の翌日のような賑の中、庭の一角で会議が始まった。
「8歳から10歳までの男の子ども・・・まずは一人息子と跡取りを抜いて・・・目が見えないバルは抜くとしたら全部で20人ぐらいいるのか?」
村長が口火を切ると、背の低い男が立ち上がった。
「待ってくれ!お城に奉公に出すなんて、うちの息子は無理だ!なんたって、頭が悪いからな!」
「そうそう!うちの息子は顔が悪い!気に入らないって殺されちまったらどうしてくれるんだ!」
「だから俺が言ったじゃないか!年ひとつぐらい誤魔化したってわからないって」
「リオはもう少ししたら奉公に出す予定だろう?予定が少し早まっただけだろ」
「そりゃ、当然村長の息子が行くべきだろうさ!」
「そうだ、そうだ!」
だれひとり、大切な自分の子どもを「おもちゃ」として差し出したい者はいない。
だが、リオならば悲しむ家族もいない。
しかもうってつけに、村長の息子で、見栄えも悪くなかった。
「リオなら小綺麗にすれば整った顔立ちだし・・・伯爵家の従者だって立派に勤まるさ」
「そうだよな」
「・・・」
村長は腕組みをして考え込んだ。
自分の息子たちを城に出したくない一心で言っているのは分かるが、一理ないわけではない。
どのみちあと半年もしたら街に奉公に出さなけれなならない約束だ。妻との間には7人も子がおり、跡取りは決まっている。ここにはリオの居場所はない。
妻のパストラがいなければ、この家や村の仕事さえ回すことはできない。
しかも、リオは未だに「村長様」と呼び、よそよそしい関係のままで、お互いに心が通うようなことはなかった。
リオにしてみれば、追い出されないよう、機嫌を損ねぬようへりくだっていただけだったのだが。
「リオか」
どこかの家の息子を出して、城で殺されたら、親は村長を恨むだろう。
年など誤魔化してしまえばいい。
もしかしたら、リオに明るい未来が開けることだって、ないとは言えない。
あの騎士が言っていたことも、すべてが嘘ではない。農村から出世すると村にも恩恵があるかもしれない。
しょせん親子の情などない関係だった。村長は、あっさり、目先の欲に負けた。
「わかった。リオを呼べ」
嫌な予感は当たるものだ。
何を言われるのか、リオにはわかっていた。
「お前を城に奉公に出すことに決めた。運が良ければ騎士様や未来の伯爵様のおそばで出世することだってできる。こんな田舎では考えもつかないほどの幸運だ。分かるな」
「・・・はい」
リオは一瞬目を見開き、うつむいた。
どうせここには一生いられないと知っていた。だが、本当はずっとここにいたかったのに。
干し草のベットも、夜になれば寝言を言う牛や馬たちともすっかり気心がしれていた。
家畜番の夫婦も最近では笑いかけてくれるようになっていた。
・・・胸が痛むのは気のせいだ。
最初からわかってたじゃないか。俺の人生で自分で決められることなんて、何ひとつないって。
*********************
話が決まればあっという間だった。
刻限は1週間後。
城下町までは、荷馬車を乗り継いで3日はかかる。
事故や天候のせいでたどり着けなければ、村が罰せられる。
リオは、騎士が来てから2日後には村長の荷馬車に乗せられ、ガタゴトと車輪の振動を感じていた。
城に行くことが決まってから、女たちが総出でリオを磨き上げ、生まれて初めて大きな洗濯桶で湯を使わせてもらった。石鹸と湯をふんだんに使い、絡まった髪をとかしつけ、顔にかからないように髪を切ると、皆が驚くほど美しい少年が現れた。
(こりゃ・・・お城に奉公に行く運命だったのかもしれんな)
自分の欲と利益であっさりとリオを売り渡した村長は、そんなふうに自分の罪悪感を正当化していた。
途中の西の村に寄り、別の荷馬車に乗り換える。
村長はここまでだった。
「いいな、リオ。この馬車に乗って街で一番大きな噴水がある広場に向かうんだ。広場の周りで一番大きな建物がお役所だ。『赤獅子の騎士様たちに言われて東の村から来た』って伝えるんだ」
「大きな噴水のある広場で一番大きな建物」
「そうだ。もう一回だ」
ふたりとも字が読めず書けないため、覚え込むしかない。
「大きな噴水のある広場で一番大きな建物」
「よし」
村長はそう言うと、懐から小さな財布を取り出した。
「街についたら宿に泊まれ。身綺麗にして、きれいな服を着ろ。少し余分に入れてあるから、甘いものでも食べたらいい。全部使うんじゃないぞ。給金がもらえるまでは何かと物入りだろうから」
「はい、ありがとうございます。村長様」
リオが頭を下げると、村長はやはり気まずそうに視線を反らした。
「元気でな」
「はい、ありがとうございます」
村長はリオを街に行く農夫に預け、いくらかの金を支払うと、来た道を帰っていった。
「さあ、乗りな」
街に干し草を売りに行くという赤ら顔の農夫は、気のいい男で、リオを隣に座らせると、なにかと話しかけてきた。
「家の雌牛が急に産気づいちまって。それがいい牛だから、今朝俺が出かける前にさらっとかわいい赤ん坊を産んだんだ。そういや、俺のかみさんも三人目の子どもがもうすぐ生まれるんだ。そのために街に言って金を稼ぐんだよ」
風に吹かれ、男の他愛もない雑談をきいているうちに、男はリオに興味を示した。
「そういや、なんでお前みたいな子どもが1人で街に行くんだ?奉公先が決まったのか?小さく見えるが、もう7つになるのか」
「・・・そうです」あと少しすれば。
「小さいけど大人っぽいな」褒めたつもりなんだろう。男はウインクしてみせた。
「で、どこに奉公に決まったんだい?」
「お城だそうです」
「えっ?お前みたいな農民の子が?そりゃ大出世だな」
「出世なんですか」
「そりゃそうさ!お城なんてすごいな。領主様や奥方様やご家族の方たちを見ることができるかもしれないぞ。俺は、この間の戦勝パレードのときに領主様を見たぞ。髪の毛が黄色いんだ。陽の光にあたるとキラキラと光るんだよ。俺達平民とは違って高貴な方の中にはそういう方もいるんだ」
「へえ」
「きれいだし、身体にまで黄金があるんだからすごいよな」
そう言って大きな声で笑った。
「で、お前さんは何をするんだい?」
「俺は、おもちゃになるみたいです」
「・・・え?」
「うちに来た騎士様がそう言っていました。ほんとうはおもちゃを探しに来たって」
「・・・」
「おもちゃってなんでしょうか」
「・・・そ、そりゃ・・・」
農夫は咳払いを一つすると、急に真剣な顔をして前を見つめた。
「そ、そういえばここからは道がでこぼこしてるんだ。集中しないと・・・お前も舌をかみたくなかったら静かにな」
リオが大きな目で頷くと、農夫は視線を反らし、バレないようにため息を一つ噛み殺した。
************************
(お礼)
お読みいただきありがとうございました。
今日は移動してただけですけど、明日は少し話が動きます。
♡をくださった方ありがとうございます。
なんと、広告を回してくださった方までいらっしゃって、ほんとにありがとうございます。
そのお気持ちが嬉しいです。
あすもあなたにいいことがありますように!
エラ婆さんに酒をつがれた大男は、村長に「あの女にまた来るって伝えてくれ」と小声でささやいた。
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横暴な騎士たちに誰一人殺されず、女は犯されなかった。
村長は満面に笑みを浮かべ、騎士たちを送り出した。
男たちは騎士たちのために用意したテーブルや椅子を片付け、呼び戻された女たちがジョッキや皿を下げ、おこぼれを狙う犬たちが盛んに尻尾を振っている。
祝祭日の翌日のような賑の中、庭の一角で会議が始まった。
「8歳から10歳までの男の子ども・・・まずは一人息子と跡取りを抜いて・・・目が見えないバルは抜くとしたら全部で20人ぐらいいるのか?」
村長が口火を切ると、背の低い男が立ち上がった。
「待ってくれ!お城に奉公に出すなんて、うちの息子は無理だ!なんたって、頭が悪いからな!」
「そうそう!うちの息子は顔が悪い!気に入らないって殺されちまったらどうしてくれるんだ!」
「だから俺が言ったじゃないか!年ひとつぐらい誤魔化したってわからないって」
「リオはもう少ししたら奉公に出す予定だろう?予定が少し早まっただけだろ」
「そりゃ、当然村長の息子が行くべきだろうさ!」
「そうだ、そうだ!」
だれひとり、大切な自分の子どもを「おもちゃ」として差し出したい者はいない。
だが、リオならば悲しむ家族もいない。
しかもうってつけに、村長の息子で、見栄えも悪くなかった。
「リオなら小綺麗にすれば整った顔立ちだし・・・伯爵家の従者だって立派に勤まるさ」
「そうだよな」
「・・・」
村長は腕組みをして考え込んだ。
自分の息子たちを城に出したくない一心で言っているのは分かるが、一理ないわけではない。
どのみちあと半年もしたら街に奉公に出さなけれなならない約束だ。妻との間には7人も子がおり、跡取りは決まっている。ここにはリオの居場所はない。
妻のパストラがいなければ、この家や村の仕事さえ回すことはできない。
しかも、リオは未だに「村長様」と呼び、よそよそしい関係のままで、お互いに心が通うようなことはなかった。
リオにしてみれば、追い出されないよう、機嫌を損ねぬようへりくだっていただけだったのだが。
「リオか」
どこかの家の息子を出して、城で殺されたら、親は村長を恨むだろう。
年など誤魔化してしまえばいい。
もしかしたら、リオに明るい未来が開けることだって、ないとは言えない。
あの騎士が言っていたことも、すべてが嘘ではない。農村から出世すると村にも恩恵があるかもしれない。
しょせん親子の情などない関係だった。村長は、あっさり、目先の欲に負けた。
「わかった。リオを呼べ」
嫌な予感は当たるものだ。
何を言われるのか、リオにはわかっていた。
「お前を城に奉公に出すことに決めた。運が良ければ騎士様や未来の伯爵様のおそばで出世することだってできる。こんな田舎では考えもつかないほどの幸運だ。分かるな」
「・・・はい」
リオは一瞬目を見開き、うつむいた。
どうせここには一生いられないと知っていた。だが、本当はずっとここにいたかったのに。
干し草のベットも、夜になれば寝言を言う牛や馬たちともすっかり気心がしれていた。
家畜番の夫婦も最近では笑いかけてくれるようになっていた。
・・・胸が痛むのは気のせいだ。
最初からわかってたじゃないか。俺の人生で自分で決められることなんて、何ひとつないって。
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話が決まればあっという間だった。
刻限は1週間後。
城下町までは、荷馬車を乗り継いで3日はかかる。
事故や天候のせいでたどり着けなければ、村が罰せられる。
リオは、騎士が来てから2日後には村長の荷馬車に乗せられ、ガタゴトと車輪の振動を感じていた。
城に行くことが決まってから、女たちが総出でリオを磨き上げ、生まれて初めて大きな洗濯桶で湯を使わせてもらった。石鹸と湯をふんだんに使い、絡まった髪をとかしつけ、顔にかからないように髪を切ると、皆が驚くほど美しい少年が現れた。
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途中の西の村に寄り、別の荷馬車に乗り換える。
村長はここまでだった。
「いいな、リオ。この馬車に乗って街で一番大きな噴水がある広場に向かうんだ。広場の周りで一番大きな建物がお役所だ。『赤獅子の騎士様たちに言われて東の村から来た』って伝えるんだ」
「大きな噴水のある広場で一番大きな建物」
「そうだ。もう一回だ」
ふたりとも字が読めず書けないため、覚え込むしかない。
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「よし」
村長はそう言うと、懐から小さな財布を取り出した。
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「はい、ありがとうございます。村長様」
リオが頭を下げると、村長はやはり気まずそうに視線を反らした。
「元気でな」
「はい、ありがとうございます」
村長はリオを街に行く農夫に預け、いくらかの金を支払うと、来た道を帰っていった。
「さあ、乗りな」
街に干し草を売りに行くという赤ら顔の農夫は、気のいい男で、リオを隣に座らせると、なにかと話しかけてきた。
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風に吹かれ、男の他愛もない雑談をきいているうちに、男はリオに興味を示した。
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「・・・そうです」あと少しすれば。
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「で、どこに奉公に決まったんだい?」
「お城だそうです」
「えっ?お前みたいな農民の子が?そりゃ大出世だな」
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「へえ」
「きれいだし、身体にまで黄金があるんだからすごいよな」
そう言って大きな声で笑った。
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「・・・え?」
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「・・・」
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「・・・そ、そりゃ・・・」
農夫は咳払いを一つすると、急に真剣な顔をして前を見つめた。
「そ、そういえばここからは道がでこぼこしてるんだ。集中しないと・・・お前も舌をかみたくなかったら静かにな」
リオが大きな目で頷くと、農夫は視線を反らし、バレないようにため息を一つ噛み殺した。
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あすもあなたにいいことがありますように!
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