5月の雨の、その先に

藍音

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第十七話 きれいとはなんだ???

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リオがあちこちで言い寄られているらしい。
使用人の間で噂になっていると、侍従がしかめつらで報告してきた。

「ただの子どもなのに、一体何を求めているんだ」

アウレリオは首をかしげた。
まぬけで憎めないところはある。だが、なぜそこまで?

「だって、きれいな子なんだもの!」

押しかけてきたカリナが叫んだ。
ここのところ毎日のようにリオを譲ってくれといわれ、辟易としている。
いままでのだったらとっくに譲り渡していたのかもしれないが、どうも気が乗らず、そのままで今に至っている。

あれほど良く働く子どもはいない。
大きな目でくるくるとあたりを見回し、アウレリオのためになにか仕事はないかと探している。
しかも、よく食べる。美味しい美味しいと連呼され、そうなのかなと思うことが多くなってきた。
持ってくる水もうまい。

だが、きれい?

「きれいとは何だ」
「何をおっしゃってるの。きれいはきれいでしょ」
「・・・?」

よくわからない。わからないとは言えず、憮然としていると、カリナが身悶えした。

「全部よ!全部!見た目がきれいじゃない」
「はぁ・・・もういい、行け」
「お兄様ったら!興味がないならいいじゃない。私にお譲りくださいな」

うるさいな。

魔力を持っているかもしれない子どもをを毒蛇の娘に引き渡す?
どんな企みがあるかわからないのに、目を離すことなどできるはずもない。

考えてみれば符合することだらけだ。
はじめて会ったときには、金色に目が光った。それだけじゃない。呪詛のかかったグラスを壊した。
自分と相性の悪い魔力だったのかもしれない。
それだけじゃない。私の魔力の暴走を一瞬で止めた。
敵ではない、ということなのか・・・?

「ん・・・まあ、そのうち・・・」わかるだろう。最近はあのまぬけ面がそばにあることににすっかり慣れてしまった。

「ありがとう!お兄様!!機会を待てということですわね!!」

(・・・しまった)

わがままな人間の常で、カリナは聞きたいように物事を受け止めるクセがある。
うれしそうな笑みを浮かべ、アウレリオに抱きついた。

「やめろ」
「お兄様、大好きですわ!」
「心にもないことを」

アウレリオはカリナを両手で押し返した。子供のくせに香水くさい。しかも、なまあたたかい体温の感触がなんとなくいやだった。

「譲るなどとは言っていない。いいな」

アウレリオがしかめつらのまま言い放った言葉も、カリナの耳には全く入らなかった。

(早く、お姉様に自慢しなきゃ!!)



********************

「だいぶ寒くなってきたなぁ」

リオは両手に息を吹きかけた。
ここに来たとはまだ暖かかったのに、最近は朝晩がめっきり寒くなった。
去年は牛や馬の寝言を聞きながら眠っていたのに。

アウレリオの戸口を守るように眠る藁布団の生活は快適だった。
アウレリオは夜中に無理を言うこともなく、大抵は朝までぐっすりと眠らせてもらえる。

そういえば、一度だけ寝ているとき、腹を蹴られたことがあった。
目をのぞきこまれ、「なんでもない」とすぐに視線を反らしてしまわれたが・・・そういえば、あのときの若様の目は金色に光っていたような気がしたけど。気のせいかな。
寝ぼけていたのかもしれない。

考え事をしていると、城のはずれにあるラファエルの部屋の前についた。

「おお、悪いな」

ラファエルの部屋から顔を出したのは、以前リオと同時に城に雇われた少年のひとりだった。
あの、カリナに「こんな子はいらない」と追い払われた子どもだ。名前はドン。カリナ付きにするのは忍びないと、いちばんおとなしいラファエル付きに変更になっていた。カリナがいやがったのはこの少年が大柄で手足が太く、眉毛が太く、唇も厚ぼったい、到底”お人形さん”には不向きな外見をしていたからだ。
だが、使用人の少ないラファエルの下働きとしては、なんの問題もない。むしろ、ドンは力仕事を嫌な顔ひとつ見せずにやるので重宝がられていた。

「これを」

リオは侍従から預けられた包みを渡した。

「たしかに」

ドンは包みを確認すると、肩で扉を押した。

「お湯でも飲んでいけよ。ぼっちゃまはしばらくお帰りにならないからさ。そういえば朝の牛乳の残りがあるかも」
「ん」

ラファエルの住む場所には、湯を沸かせる程度の厨房がある。
ドンは手慣れた仕草で薪を寄せると、棒の先で種火をかき混ぜ、近くにあった紙をすっと裂いて灰の中にゆっくりと差し入れた。

その紙にはなにかが書きつけてある。

「おい、なにか書いてあるけど、いいのか?」
「ああ、いいんだ。たくさんあるから」

そう言うと、また紙を裂く。

「何度も使ってるから、やわらかくなってるんだよ」
「え・・・おい!ちょっと見せてくれ!」
「何だよ」

ドンの手から焚き付け用の紙をひったくるように取ると、くしゃくしゃのシワを丁寧に伸ばした。

「これ!なんだ!?すごいな!まるで本物みたいじゃないか!!」
「は?いきなり何いってんだよ」

半分にまで千切られた紙には、いくつもの花がスケッチされていた。
丁寧に描かれた花は、陽の光を浴びて、今を盛りと咲き誇っている。
木炭の濃淡だけなのに、黄色や紫の花の色すら目に浮かぶ。
香りすら漂ってくるかのような精巧さ・・・

「・・・すごいな、これ。こんなうまい絵何で捨てるんだよ。しかも破って焚付になんてしていいのか?」
「御主人様が次から次に描いてらっしゃるんだよ。一応、秘密にしてるみたいだけどな」
「何でこんなに上手なのに・・・」

「ありがとう」

後ろから、小さな声が聞こえてきた。振り返ると茶色の巻き毛の少年が画板を肩から下げ、ぽつんと立っていた。
この部屋のあるじ、ラファエルだ。
いつも、正餐のときにうつむいている姿しか見たことがなかったが、今は桃色に頬をそめ、目がキラキラと輝いていた。

「坊ちゃま!お帰りに気づかなくて・・・」
「す、すみません!」

リオとドンは同時に立ち上がり、ドンの座っていた木の椅子がガンと音を立てて床に倒れた。

「あ、あの・・・俺、すみません。勝手にお邪魔を・・・」

小さな厨房に入っただけだが、怒られるかもしれない。
癇癪持ちの主人だと、簡単に手が出ることもある。

「す、すみません、俺が案内したんです」ドンが頭を下げると、ラファエルは「べつにいいよ」と答え、リオを見つめた。

「あの、絵を褒めてくれて、ありがとう。あの・・・ぼく、褒められたのはじめてで・・・その絵、本物みたいって・・・ほんとう?」



******************


(お礼)
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
月曜日から寒くなってテンション下がりますね・・・
でも、別世界を楽しんでいただければうれしいです。

今日も♡をおくっていただきまして、ありがとうございました。
どれだけ励まされているか、想像もできないくらい感謝しています!
明日はとても美味しい昼ご飯が食べられるように、願いを送っておきますねー♡
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