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第十六話 城の人々
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ゆるくウエーブのかかった金色の髪を風になびかせながら、背筋をぴんと伸ばし、まっすぐに歩くアウレリオ。
その口元は固く引き結ばれ、無表情のまま。
すぐ後ろは、茶色の巻き毛とヘイゼルの大きな瞳を持つリオ。
大抵は、アウレリオのためのなにか、例えば、家庭教師の講義内容を書きつけるための紙束、剣術の練習用の剣や汗拭き用のリネンなどを両手いっぱいに抱え、早足で歩くアウレリオを小走りで追いかける。
ふたりの歩調は違うはずなのに、つかず離れず、数歩以上離れることはない。
前方しか見ていないはずのアウレリオは、飼い主のように目の端でちょこちょこと動き回る子犬の動きを把握している。
どうやら、アウレリオはリオを気に入っているらしい。
これまで、何人もの子どもが仕えたが、このようなことははじめてだった。
伯爵家で働き始めてしばらくすると、リオの頬はふっくらと子どもらしくふくらみはじめた。
以前から顔立ちのいい子だと言われていたが、日を追うごとに、頬は桃色に、ヘイゼルの瞳は緑と茶色のがときに混ざり合い、人目を惹きつける。
痩せこけた身体につくべき肉がつき、少しずつ背も伸び始めた。
すらりとした手足に、美しい顔。笑うと、花が咲くと評判になった。
あの氷のようなアウレリオ様でさえ、リオを見る目が優しいのではないか?と使用人たちの間で噂になるほどだ。
*********************
「お兄様はいつになったらあの子を追い出すのよ!」
マリアの部屋に押しかけてきたカリナが、爪を噛みながら、イライラとつぶやいた。
「今までだったら、とっくに追い出している頃じゃないの!」
実は今までの従者見習いたちは、一度に毒にあたると家に返されていただけなのだが、カリナはそんな事情を知るよしもなかった。リオはアウレリオに指導されてからものを口に含むときは気をつけるようになったし、本当に娘の顔に傷つけられたら困ると、第二夫人ジョセフィーヌが心底おびえ、しばらく毒を盛るのは控えているという事情もあった。
「この間なんて、リオを私付きにいただきたいってお願いしたのに、何も言わずに追い返されたのよ」
カリナはハンカチをぐちゃぐちゃにまるめ、ぐいっと紅茶を飲み干した。
「あなたはきれいなお人形さんがほしいだけでしょ。あきらめたら?」
マリアが呆れた口調でカリナのカップに新しいお茶を注ぐ。
「そもそも、本当は私付きだったのよ・・・」それだけは納得いかない。お人形さん遊びの趣味はないけれど、あんなに美しい少年が従者にいたら、お茶会で自慢できるではないか。
「お姉様にはもったいないわよ」カリナが生意気な口をきき、マリアは軽くにらみつけた。
「いい加減にしなさい」
ふと窓の外を見ると、ちょうどアウレリオがリオを連れて通りかかったところだった。
丸めた紙束を抱えたリオが笑いながらアウレリオに話しかけ、アウレリオはそれをとがめもせず、チラリとリオを見た。こころなしか、その視線が優しくみえる気が・・・
「私の従者なのに・・・」
盗まれた。
胸の奥に巣食っていたイライラが浮かび上がってくる。
(なによ。オロ兄様なんて・・・私のほうがいいに決まってる)
部屋の中では、今度はカリナが「お人形さん」について不平不満をたらたらとこぼしていた。
やれ動作が鈍い、顔が悪い。気が利かない・・・
だが、もうマリアの耳にはカリナの言葉は入らなかった。
********************
「いやあ、いいかな?」
リオが従僕のお使いで届け物の途中、突然、突然大柄な騎士に進路をふさがれた。
陽射しをさえぎり、目元が暗くなるほどの大きな騎士だった。
見かけたことはあるが、名は知らない。
「なんですか?」
リオは無礼にならない程度の口調でこたえた。すぐに戻って、アウレリオのそばに控えていたいのに。
「こ、これを・・・!」
目の前に、ヒナギクの小さな花束が突き出された。
小さなピンク色のリボンがぐるぐると不格好に根本に巻かれている。自分で結んだんだろうか。
まさか、アウレリオ様に届けろってわけじゃないよな。こんなの・・・
「だれかに渡してほしいってことですか?」リオが怪訝な顔をすると、騎士は慌てたようだ。
「ち、違うよ!お前にもらってほしくて・・・」
「はあ?何で俺?」
リオはするりと騎士の横を通り抜けた。相手にしている時間がもったいない。
「おれ、女じゃないですよ?花も興味ないんで」
「じゃ、じゃあ、なんなら興味があるんだ?」
リオはちらりと騎士をみて、そのまま無言で立ち去った。
(御主人様のお役に立つことに決まってるだろ)
心のなかでだけ答えてやる。
しかし、なぜ俺に花を?
*********************
また別の日には、突然、金を差しだされた。
「どうか、受け取ってくれ」
なにかおかしな伝染病でも流行っているんだろうか。
最近、やたらとものをもらう。串刺し肉をもらったこともあった。
用心するクセがついてしまい、食べるのを躊躇したけれど、「一緒に食べよう」と誘われ、ついやっぱり肉汁の滴る熱い肉の誘惑に負けてしまった。
そういえば、あの騎士からは「食べきれない」とか「腕が痛い」とか言われて、何度も串刺し肉を奢ってもらっているな。
しかし金は・・・
アウレリオ様の情報を取ろうと企んでるのかもしれない。
「いりません」
リオは後ずさった。
給金ならいただいているし、そもそも使い道がない。
なによりも、アウレリオ様をうらぎるなんて、あり得ない。
「なあ、頼むよ」
騎士がリオに大きな手を伸ばした瞬間、するりと身を屈め、走り出した。
「足りなければ、もっと、持ってくるから・・・!!」
「いらないよ!」
リオが大声を上げ、周りにいた使用人たちが驚いて振り返った。
「うわ、あいつ、また悪い癖が・・・」
「早く行け!リオ!」
囃し立てる声に、リオはもっとスピードを上げた。
(お城の中にも変な人がいるんだ。気をつけないと)
************************
(お礼)
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
すこしずつお話が進んでいます。
この後も楽しんでいただけたらうれしいです。
本日もハートを投げていただきまして、ありがとうございました。
明日から月曜日ですね。
よい一日となるように願ってます。
その口元は固く引き結ばれ、無表情のまま。
すぐ後ろは、茶色の巻き毛とヘイゼルの大きな瞳を持つリオ。
大抵は、アウレリオのためのなにか、例えば、家庭教師の講義内容を書きつけるための紙束、剣術の練習用の剣や汗拭き用のリネンなどを両手いっぱいに抱え、早足で歩くアウレリオを小走りで追いかける。
ふたりの歩調は違うはずなのに、つかず離れず、数歩以上離れることはない。
前方しか見ていないはずのアウレリオは、飼い主のように目の端でちょこちょこと動き回る子犬の動きを把握している。
どうやら、アウレリオはリオを気に入っているらしい。
これまで、何人もの子どもが仕えたが、このようなことははじめてだった。
伯爵家で働き始めてしばらくすると、リオの頬はふっくらと子どもらしくふくらみはじめた。
以前から顔立ちのいい子だと言われていたが、日を追うごとに、頬は桃色に、ヘイゼルの瞳は緑と茶色のがときに混ざり合い、人目を惹きつける。
痩せこけた身体につくべき肉がつき、少しずつ背も伸び始めた。
すらりとした手足に、美しい顔。笑うと、花が咲くと評判になった。
あの氷のようなアウレリオ様でさえ、リオを見る目が優しいのではないか?と使用人たちの間で噂になるほどだ。
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「お兄様はいつになったらあの子を追い出すのよ!」
マリアの部屋に押しかけてきたカリナが、爪を噛みながら、イライラとつぶやいた。
「今までだったら、とっくに追い出している頃じゃないの!」
実は今までの従者見習いたちは、一度に毒にあたると家に返されていただけなのだが、カリナはそんな事情を知るよしもなかった。リオはアウレリオに指導されてからものを口に含むときは気をつけるようになったし、本当に娘の顔に傷つけられたら困ると、第二夫人ジョセフィーヌが心底おびえ、しばらく毒を盛るのは控えているという事情もあった。
「この間なんて、リオを私付きにいただきたいってお願いしたのに、何も言わずに追い返されたのよ」
カリナはハンカチをぐちゃぐちゃにまるめ、ぐいっと紅茶を飲み干した。
「あなたはきれいなお人形さんがほしいだけでしょ。あきらめたら?」
マリアが呆れた口調でカリナのカップに新しいお茶を注ぐ。
「そもそも、本当は私付きだったのよ・・・」それだけは納得いかない。お人形さん遊びの趣味はないけれど、あんなに美しい少年が従者にいたら、お茶会で自慢できるではないか。
「お姉様にはもったいないわよ」カリナが生意気な口をきき、マリアは軽くにらみつけた。
「いい加減にしなさい」
ふと窓の外を見ると、ちょうどアウレリオがリオを連れて通りかかったところだった。
丸めた紙束を抱えたリオが笑いながらアウレリオに話しかけ、アウレリオはそれをとがめもせず、チラリとリオを見た。こころなしか、その視線が優しくみえる気が・・・
「私の従者なのに・・・」
盗まれた。
胸の奥に巣食っていたイライラが浮かび上がってくる。
(なによ。オロ兄様なんて・・・私のほうがいいに決まってる)
部屋の中では、今度はカリナが「お人形さん」について不平不満をたらたらとこぼしていた。
やれ動作が鈍い、顔が悪い。気が利かない・・・
だが、もうマリアの耳にはカリナの言葉は入らなかった。
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「いやあ、いいかな?」
リオが従僕のお使いで届け物の途中、突然、突然大柄な騎士に進路をふさがれた。
陽射しをさえぎり、目元が暗くなるほどの大きな騎士だった。
見かけたことはあるが、名は知らない。
「なんですか?」
リオは無礼にならない程度の口調でこたえた。すぐに戻って、アウレリオのそばに控えていたいのに。
「こ、これを・・・!」
目の前に、ヒナギクの小さな花束が突き出された。
小さなピンク色のリボンがぐるぐると不格好に根本に巻かれている。自分で結んだんだろうか。
まさか、アウレリオ様に届けろってわけじゃないよな。こんなの・・・
「だれかに渡してほしいってことですか?」リオが怪訝な顔をすると、騎士は慌てたようだ。
「ち、違うよ!お前にもらってほしくて・・・」
「はあ?何で俺?」
リオはするりと騎士の横を通り抜けた。相手にしている時間がもったいない。
「おれ、女じゃないですよ?花も興味ないんで」
「じゃ、じゃあ、なんなら興味があるんだ?」
リオはちらりと騎士をみて、そのまま無言で立ち去った。
(御主人様のお役に立つことに決まってるだろ)
心のなかでだけ答えてやる。
しかし、なぜ俺に花を?
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また別の日には、突然、金を差しだされた。
「どうか、受け取ってくれ」
なにかおかしな伝染病でも流行っているんだろうか。
最近、やたらとものをもらう。串刺し肉をもらったこともあった。
用心するクセがついてしまい、食べるのを躊躇したけれど、「一緒に食べよう」と誘われ、ついやっぱり肉汁の滴る熱い肉の誘惑に負けてしまった。
そういえば、あの騎士からは「食べきれない」とか「腕が痛い」とか言われて、何度も串刺し肉を奢ってもらっているな。
しかし金は・・・
アウレリオ様の情報を取ろうと企んでるのかもしれない。
「いりません」
リオは後ずさった。
給金ならいただいているし、そもそも使い道がない。
なによりも、アウレリオ様をうらぎるなんて、あり得ない。
「なあ、頼むよ」
騎士がリオに大きな手を伸ばした瞬間、するりと身を屈め、走り出した。
「足りなければ、もっと、持ってくるから・・・!!」
「いらないよ!」
リオが大声を上げ、周りにいた使用人たちが驚いて振り返った。
「うわ、あいつ、また悪い癖が・・・」
「早く行け!リオ!」
囃し立てる声に、リオはもっとスピードを上げた。
(お城の中にも変な人がいるんだ。気をつけないと)
************************
(お礼)
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
すこしずつお話が進んでいます。
この後も楽しんでいただけたらうれしいです。
本日もハートを投げていただきまして、ありがとうございました。
明日から月曜日ですね。
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