5月の雨の、その先に

藍音

文字の大きさ
17 / 152

第十五話 カナリヤの役目

しおりを挟む
「お前というやつは!自分が何をしているのか、わかっていないのか!?」
「え、あの・・・」
「ちゃんと手順を習っただろう!死にたいのか」
「ごめんなさ・・・」

さっきまでニコニコしていたリオがうつむき、一回り身体が小さくなったように見える。

(なんだコイツは。本当に・・・情がわいてしまうじゃないか)

まるで雨に濡れた子犬だ。大きいな目に涙を浮かべてしょんぼりしている。

「なんなんだ・・・もういい、座れ」

アウレリオは額を押さえながら、近くのスツールを指さした。


「お前はなぜ私よりも先にものを食べるんだ?」
「え!すみませんでした!そうしろと言われていたので!」
「違う!そうじゃない!お前が私よりも先に食べたり飲んだりする意味をわかっているのか、と聞いておる」
「・・・熱いから?」
リオはこくんと首をよこにかしげた。
「違う!」
「うーん・・・でも、村にいたとき、家畜小屋で赤ちゃんを育てていた奥さんはいつも・・・」
「ああ、もういい。黙れ」

このまぬけにどう説明したら?
仕方ない。多分こいつが死んだら、今までよりも胸が痛む気がするから。

「まず、だ。子どもたち全員の従僕見習いを雇ったこと、おかしいと思わなかったのか?」
リオは目を見開いて首を横に振った。
「普通なら、子どもを雇うときは城勤めの者の親族から選ぶ。だが、近隣の村にまで招集をかけた。なぜだと思う?」
わからない。リオはまた首をかしげた。
「もう、誰も城に子どもを出したくないと。出せる子どもはもう出した、と皆が言い張った。死んだ子どももいる。特に私付きは何人も死んだ。それがどういう意味かわかるか?」

リオはこわごわと目を見開いてアウレリオを見つめた。

「もっと言えば、なぜ8歳から10歳の子どもに限定したと思う?11歳や12歳ではだめな理由は何だ?」
「わかりません」
「私の年が、11だからだ。子どもは必ず私よりも年下で、また年下過ぎてはならん」
「・・・はい」
「年上では役に立たず、年下過ぎては簡単に死んでしまう。お前の役割は、”カナリヤ”だからだ」
「カナリヤ?」
「私に盛られた毒を微量でも素早く検知する役目だ。別の言葉では毒見係、とも言う」
「毒見係?」

「私は幼い頃から何度も毒を盛られてきた。死にかけたこともあるし、私の代わりに何人もの幼い子供が死んだ。私付きの子どもが、今、お前しかいないのは、そういう理由だ」

「カナ・・・リヤ・・・」リオの顔が恐怖でひきつった。
「そうだ。怖くなったか?」
「それは・・・怖いです・・・」
「よし。それでいい。今日みたいな食べ方をしてはだめだ。銀の皿に移すのは、毒が入っていると皿が黒く変色するからだ。変色しなければ、へんな臭いがしないか嗅いでみろ。次にはほんの少しだけ口に含む。舌先がピリッとしたら、まずだめだ。少しずつ食べて大丈夫そうなら、食べてもいい。わかったか?」
「はい」

「まあ、今日の菓子は大丈夫だろう。お前もなんともなさそうだしな」
「こんなに美味しいのに・・・」

リオは情けない顔できれいに飾り付けられた焼き菓子を眺めた。

「食べていいぞ。どうせ私ひとりでは食べきれん」

それに、お前はもう少し肉をつけたほうがいいからな。吹けば飛びそうなほどやせっぽっちではないか、と心のなかでつぶやく。

「本当ですか!?」

アウレリオが菓子を一つとると、リオは気にかかっていた飴がけのマドレーヌを手に取った。

「こんなに美味しそうな食べ物、おれ、はじめて・・・あ、ご褒美にいただいたバターケーキも美味しかったです。それに、正餐の後にいただく肉汁がたっぷり染み込んだパンも美味しいです。それとそれと・・・」
「落ち着け。お前はやせっぽっちなのに、ずいぶん食い意地が張っているんだな」
「だってこんなに美味しいもの・・・うわ!若様!大変です。これ、なかにいちごが入ってます!うわー、おいひいー・・・」
「わかったわかった」
「だって、口の中でとろけて、ほわっと甘さといい香りが広がって・・・いちごがまた・・・焼き菓子ってすごいんですねえ」

今まで菓子を食べるとき、こんなに美味しい美味しいと連呼されたことはあっただろうか。
勉強の合間に糖分を取るようにと半ば強制的に食べさせられていた菓子が「美味しい」とは。
考えたこともなかった。

そういえば、朝の水も「美味しい」
使用人用のマグで渡された安全な水。水ですら、いままでとは全然違う。

「好きなだけ食え。ただし、食べ物を口にいれるときは気をつけろよ。少しずつ、確認してからだ。わかったな」

リオは口中に菓子を頬張っていたが、ゴクンと飲み込むと、アウレリオの目を見た。

「あの、もしかして・・・俺、お役に立ててるってことですよね?」
「・・・そうだな。お前の役割を知って、家に帰りたくなったか?」
「いえ・・・俺には帰れる場所はありません。ここに置いていただけて、寝床も服もいただけて感謝しています。しかも美味しい食べ物まで・・・俺はいつだって邪魔者だったし、必要とされたことなんてないんです。なので、お役に立ててうれしいです」
「死ぬかもしれないのに?」

リオは両肩をすくめた。

「そんなの。どこにいたって同じですよ。かあちゃんに殴られたときだって死ぬかと思いましたもん。村にいたって、牛や馬に踏み殺されることもあります。お城では死ぬほど殴られたこともないし・・・おいしいものも食べさせていただいて、感謝しかないです」
「・・・そうか」

目の前にいる子どもは、思ったよりきもがすわっているらしい。
”かあちゃん”に死ぬほど殴られる、という子どももいるのか。
それはそれで知らない世界だった。

「まあ、気をつけろ」

ぽつりと言うと、リオは大きくうなずいた。



*********************

(お礼)

お読みいただきまして、ありがとうございました。
そして、ハートを送っていただいた方!ありがとうございました。
今日はいい天気でした!神通力かもしれません(偶然です)

明日は何にしようかな。
うーん。美味しいものを食べられますように!


(ちょこっと宣伝)

実は、SNSのやり方を忘れちゃって・・・まだ、一度もポストできてません(汗)
私の過去作を宣伝させてください。最近読む人もいなくなったので、このままなら一度取り下げようかなと思ってます。
私にはハードなエロは無理だし、ストーリー性のある話が好きなので、そういう作品が好きな人に楽しんでいただければうれしいです。

「兄さん、あんたの望みを教えてくれよ。」
 シリアス系。私の趣味に振り切った作品でしたが、一部の方にすごく好きと言ってもらえてうれしかったです。
 血が半分だけつながった公爵家の兄弟のお話。執着、禁断てんこもり。

「第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?」
 ライトコメディ。私の作品の中で一番読んでいただけた作品です。
 タイトルも、アルファさん用に長く(中身がわかるやつ)にしてみました。

「腐女子が異世界転生してモブチートで暴れまわる話」
 コメディ。アホらしいコメディを書いてみたくて書き始めました。
 実は全部話ができていて、落ちも決まってて、あと2~3話かけば終わりなんですけど、まだ書き終わってなくて・・・シリアスものを書いてるときは、テンションの持っていきかたが難しいんですよね・・・
 で、なんとか終わらせようとBLまつりにエントリーした次第です汗
 か、かならず終わらせますので・・・(と、ここであえて自分にプレッシャー)

「もう一度言ってほしいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?」
 ライトコメディ。実は、BLデビュー作。高校生の初恋物語です。
 美人さんの高校生と柔道やってる男の子のお話。
 
「あなたのためなら(仮)」
 幼馴染同士のライトコメディ。うっかりタイトルに(仮)とつけたままアップしてしまいましたが、そのままでいいかと今に至っています。

ついでにエッセイも。
「藍音のたわごと」
 長く小説をかくということができなかった私ですが、書き始めたら楽しくて楽しくて・・・
 そのせいで日常生活にあちこちで支障をきたし・・・
 というお馬鹿な日常をエッセイにしたものです。
 最近は心のなかで喋るばっかりで書いてませんが、実はまいにちべらべら喋ってます(笑)

あと、NLも書いてます。この作品が終わったら、NLを書く予定。
 
よろしくお願いします!!



しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...