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第三十八話 ソワソワ
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その後は一日中ソワソワしていた。
(もうひとり寝はしないって・・・しないって・・・)
頭魔の中でアウレリオの声が何度も繰り返される。
どうしたらいいんだろう。
なにか準備とか・・・女性でもあるまいし。女性は薄物の寝間着を着るとか、レースやリボンで飾り立てるとか、香油でマッサージするとは聞いたことがあるけど、俺が?
男の俺が薄物の寝間着やレースで飾るなんて・・・ばかみたいだ。
絶対に、アウレリオ様は面白がるにちがいない。またからかわれてしまいそうで、そんなチャレンジをしてみる勇気はない。
でも、冷静に考えてみると、そんなものは一枚も持っていなかった。
リオが持っているのは、あたまからすっぽりかぶる綿の寝間着が二枚と、ウールの寝間着が一枚。それだって、城づとめゆえの贅沢品だ。お仕えしている主人の前で裸で寝るわけにはいかないから支給されているだけで、農民だったら一枚も持っていないのが当たり前だ。
寝巻のことをあれこれ考えるより、身体を洗った方がいいのかな。
香油なんて高価なもの、持っているわけもないし。
川に行って耳の後ろまで洗ってきたほうがいいのかも。そろそろ肌寒い季節ではあるけど。
それとも騎士のところでサウナに入らせてもらうとか・・・なんとなく、アウレリオ様が怒る気がする。
一日中ぐるぐると、そんなことばかりを考えていて、失敗を繰り返していた。
その日、ワゴンを下げに厨房に持っていくと、女たちが大騒ぎになった。
リオの輝く瞳や上気した頬は世界中に「恋に落ちました!」と宣言しているようなものだった。だが、その相手が誰なのかが分からない。
使用人の中ではずば抜けて美しいリオのこと、女中たちはソワソワし、男たちすら落ち着かない雰囲気になっていた。
まさか、アウレリオが相手とは、誰も思いもよらなかった。召使いが主人に恋をするなど、人が空に輝く星に恋をするようなものなのだから。
話しかけられても、とんちんかんな返事ばかりして、用事を言いつけられてもろくろく聞いていない。
だけど、アウレリオの名を聞くと、ビクリと肩をゆらす。
「もしかして、アウレリオ様の護衛騎士に恋をしているんじゃないかしら?」
「いや、多分、アウレリオ様の部屋の掃除担当のメイドだろう」
「あら、料理人が怪しいと思うのよ。いつも、料理人のところに行くときはうれしそうにしてるじゃない」
使用人たちの噂話を耳にした侍従長は、小さくため息をついた。
だが、さりげなさすぎて、そのため息の真意に気がついたものはひとりもいなかった。
外が暗くなり、リオはアウレリオの寝室の暖炉に薪を入れ、部屋を温めはじめた。ろうそくをつけ、夜具を確認していると、メイドのひとりが声をかけてきた。
「リオ、今日はお湯を運ぶ手伝いをしてちょうだい」
「はい」
いくら貴族とはいえ、毎日湯に入るわけではない。
厨房で湯を沸かし、それを部屋まで運び湯を張るのは重労働だからだ。大抵は湯で温めたリネンで身体をぬぐい、リオも毎日のようにその手伝いをしている。とはいえ、アウレリオは綺麗好きで、他の兄弟よりも頻繁に湯に入っているそうだ。
湯船に湯が張られ、ハーブを入れると、部屋中にいい香りが漂った。
今までなんども入浴の手伝いをしてきたのに、今日は今までとはちがう。
どぎまぎしながら待っていると、いつもと変わらない無表情のアウレリオが部屋に入ってきた。
ガウンを受け取るのはリオの役目なのに、ぼんやりとアウレリオを見つめてしまい、小声で誰かにたしなめられてしまった。
アウレリオはちらっとリオを見て、すぐに背中を向けて湯船に入ってしまう。
「お湯加減はいかがでしょうか」侍従の声に、アウレリオは「よい」とだけ答える。
湯船にアウレリオの金髪が流れるように浮かび、リオはそれをぼんやりと見つめていた。
なんてきれいなんだろう。
それに、筋肉質な身体は彫刻のように美しい。湯船の中で肩の筋肉だけが見えているが、何箇所か刀傷の跡がある。
辺境では、伯爵家の御曹司といえど、いつも守られてばかりいるわけではない。むしろ、有事のときは先陣を切って魔物と戦わなければならない。
筋張った腕、大きな手。
リオの細い腕とはぜんぜん違う、筋肉質な腕の線にぼうっと見惚れてしまう。
前からかっこいいと思ってたけど、こんなにかっこよかったんだっけ?
昼間はあの腕に抱きしめられたんだ。
あの身体の上に乗せられて・・・俺の身体とは全然ちがう、筋肉質な引き締まった身体。
気を緩めたら、ぐずぐずにとろけてしまいそう・・・
侍従がぼうっとしているリオを肘で小突いた。
「はっ、すみません」
リオは慌ててアウレリオのそばに膝をついて、湯に浸したリネンで腕をぬぐいはじめた。
だけど、ドキドキしてしすぎて、頭が回らない。このあと何をしたらいいんだっけ?
途方にくれた顔でアウレリオを見ると、アウレリオと目が合った。
「今日はつかれた」
「は、はい」
「皆、外してくれ。リオだけ残るように」
「かしこまりました」
侍従は頭を下げ、メイドたちとともに静かに部屋を出ていった。
いままでも、こういうことはあった。
アウレリオは疲れた日は湯に入りたがり、湯が冷めすぎないようにひとりだけ残して、人払いをするのだ。
(しまった、俺は自分のことばかり考えて、アウレリオ様に見とれたりして。今日はお疲れなんだ)
リオが慌てて部屋の端に下がろうとすると、アウレリオが腕をつかんだ。
「どこに行く」
「お邪魔にならないように・・・」
「何を言ってるんだ。やっと邪魔者が消えたのに」
「え?」
「湯が冷めるぞ。早く湯に入れ」
どきん、と心臓が大きな音を立てた。
「はやくしろ」
だって、湯に入るって・・・服をきたままでは、無いですよね?
リオの頭にカッと血がのぼり、真っ赤になった。
「だ、だって、ふ、ふくが・・・」
「今すぐ引きずり込まれたいか、それとも自分で服を脱ぐのか、どっちがいい?」
*******************
(お礼)
本日もお読みいただきましてありがとうございました。
昨日は残業で書けなかったんですよ・・・すみませんでした。
年末だというのに(年末だから?)バタバタしていて、今週は危うい日が続きます。
昨日は帰ってきてから書いたんですけど、ねぼけてて、全然ちがうところをかいているというおまけ付きでした。
ハートも広告もありがとうございました。
忙しい日々が続きますが、みなさんも風邪を引かれないよう、暖かくしてお過ごしくださいね。
メリークリスマス!
楽しい時間を過ごせますように♡
(もうひとり寝はしないって・・・しないって・・・)
頭魔の中でアウレリオの声が何度も繰り返される。
どうしたらいいんだろう。
なにか準備とか・・・女性でもあるまいし。女性は薄物の寝間着を着るとか、レースやリボンで飾り立てるとか、香油でマッサージするとは聞いたことがあるけど、俺が?
男の俺が薄物の寝間着やレースで飾るなんて・・・ばかみたいだ。
絶対に、アウレリオ様は面白がるにちがいない。またからかわれてしまいそうで、そんなチャレンジをしてみる勇気はない。
でも、冷静に考えてみると、そんなものは一枚も持っていなかった。
リオが持っているのは、あたまからすっぽりかぶる綿の寝間着が二枚と、ウールの寝間着が一枚。それだって、城づとめゆえの贅沢品だ。お仕えしている主人の前で裸で寝るわけにはいかないから支給されているだけで、農民だったら一枚も持っていないのが当たり前だ。
寝巻のことをあれこれ考えるより、身体を洗った方がいいのかな。
香油なんて高価なもの、持っているわけもないし。
川に行って耳の後ろまで洗ってきたほうがいいのかも。そろそろ肌寒い季節ではあるけど。
それとも騎士のところでサウナに入らせてもらうとか・・・なんとなく、アウレリオ様が怒る気がする。
一日中ぐるぐると、そんなことばかりを考えていて、失敗を繰り返していた。
その日、ワゴンを下げに厨房に持っていくと、女たちが大騒ぎになった。
リオの輝く瞳や上気した頬は世界中に「恋に落ちました!」と宣言しているようなものだった。だが、その相手が誰なのかが分からない。
使用人の中ではずば抜けて美しいリオのこと、女中たちはソワソワし、男たちすら落ち着かない雰囲気になっていた。
まさか、アウレリオが相手とは、誰も思いもよらなかった。召使いが主人に恋をするなど、人が空に輝く星に恋をするようなものなのだから。
話しかけられても、とんちんかんな返事ばかりして、用事を言いつけられてもろくろく聞いていない。
だけど、アウレリオの名を聞くと、ビクリと肩をゆらす。
「もしかして、アウレリオ様の護衛騎士に恋をしているんじゃないかしら?」
「いや、多分、アウレリオ様の部屋の掃除担当のメイドだろう」
「あら、料理人が怪しいと思うのよ。いつも、料理人のところに行くときはうれしそうにしてるじゃない」
使用人たちの噂話を耳にした侍従長は、小さくため息をついた。
だが、さりげなさすぎて、そのため息の真意に気がついたものはひとりもいなかった。
外が暗くなり、リオはアウレリオの寝室の暖炉に薪を入れ、部屋を温めはじめた。ろうそくをつけ、夜具を確認していると、メイドのひとりが声をかけてきた。
「リオ、今日はお湯を運ぶ手伝いをしてちょうだい」
「はい」
いくら貴族とはいえ、毎日湯に入るわけではない。
厨房で湯を沸かし、それを部屋まで運び湯を張るのは重労働だからだ。大抵は湯で温めたリネンで身体をぬぐい、リオも毎日のようにその手伝いをしている。とはいえ、アウレリオは綺麗好きで、他の兄弟よりも頻繁に湯に入っているそうだ。
湯船に湯が張られ、ハーブを入れると、部屋中にいい香りが漂った。
今までなんども入浴の手伝いをしてきたのに、今日は今までとはちがう。
どぎまぎしながら待っていると、いつもと変わらない無表情のアウレリオが部屋に入ってきた。
ガウンを受け取るのはリオの役目なのに、ぼんやりとアウレリオを見つめてしまい、小声で誰かにたしなめられてしまった。
アウレリオはちらっとリオを見て、すぐに背中を向けて湯船に入ってしまう。
「お湯加減はいかがでしょうか」侍従の声に、アウレリオは「よい」とだけ答える。
湯船にアウレリオの金髪が流れるように浮かび、リオはそれをぼんやりと見つめていた。
なんてきれいなんだろう。
それに、筋肉質な身体は彫刻のように美しい。湯船の中で肩の筋肉だけが見えているが、何箇所か刀傷の跡がある。
辺境では、伯爵家の御曹司といえど、いつも守られてばかりいるわけではない。むしろ、有事のときは先陣を切って魔物と戦わなければならない。
筋張った腕、大きな手。
リオの細い腕とはぜんぜん違う、筋肉質な腕の線にぼうっと見惚れてしまう。
前からかっこいいと思ってたけど、こんなにかっこよかったんだっけ?
昼間はあの腕に抱きしめられたんだ。
あの身体の上に乗せられて・・・俺の身体とは全然ちがう、筋肉質な引き締まった身体。
気を緩めたら、ぐずぐずにとろけてしまいそう・・・
侍従がぼうっとしているリオを肘で小突いた。
「はっ、すみません」
リオは慌ててアウレリオのそばに膝をついて、湯に浸したリネンで腕をぬぐいはじめた。
だけど、ドキドキしてしすぎて、頭が回らない。このあと何をしたらいいんだっけ?
途方にくれた顔でアウレリオを見ると、アウレリオと目が合った。
「今日はつかれた」
「は、はい」
「皆、外してくれ。リオだけ残るように」
「かしこまりました」
侍従は頭を下げ、メイドたちとともに静かに部屋を出ていった。
いままでも、こういうことはあった。
アウレリオは疲れた日は湯に入りたがり、湯が冷めすぎないようにひとりだけ残して、人払いをするのだ。
(しまった、俺は自分のことばかり考えて、アウレリオ様に見とれたりして。今日はお疲れなんだ)
リオが慌てて部屋の端に下がろうとすると、アウレリオが腕をつかんだ。
「どこに行く」
「お邪魔にならないように・・・」
「何を言ってるんだ。やっと邪魔者が消えたのに」
「え?」
「湯が冷めるぞ。早く湯に入れ」
どきん、と心臓が大きな音を立てた。
「はやくしろ」
だって、湯に入るって・・・服をきたままでは、無いですよね?
リオの頭にカッと血がのぼり、真っ赤になった。
「だ、だって、ふ、ふくが・・・」
「今すぐ引きずり込まれたいか、それとも自分で服を脱ぐのか、どっちがいい?」
*******************
(お礼)
本日もお読みいただきましてありがとうございました。
昨日は残業で書けなかったんですよ・・・すみませんでした。
年末だというのに(年末だから?)バタバタしていて、今週は危うい日が続きます。
昨日は帰ってきてから書いたんですけど、ねぼけてて、全然ちがうところをかいているというおまけ付きでした。
ハートも広告もありがとうございました。
忙しい日々が続きますが、みなさんも風邪を引かれないよう、暖かくしてお過ごしくださいね。
メリークリスマス!
楽しい時間を過ごせますように♡
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