5月の雨の、その先に

藍音

文字の大きさ
55 / 152

第五十話 金色の瞳の秘密

しおりを挟む
「こんなにひんぱんにするものなんですか?」
「さあ、わからないな」

アウレリオがリオを腕に抱いたまま呟いた。
情事の後、気だるい空気の中、ふたりでシーツにくるまっていると、心地の良い眠気が襲ってくる。

「だって、アウレリオ様には恋人がいたんじゃないんですか?」

その瞬間、眠気が吹き飛んだ。

「恋人?」
「経験があるって・・・」

リオは、悔しさと嫉妬を隠して、素知らぬふりをして探りをいれる。
アウレリオに恋人がいたなんて全然気がつかなかった。あんなにそばにいたのに、巧妙に隠されていたのが悔しい。

「ああ、それは」

アウレリオが困ったように顔をしかめた。リオをはじめて抱いた時、緊張のあまり、うっかり口走ってしまったような・・・

「それはだな。教育の一環で」
「教育ぅ?」

リオが身体を起こしてアウレリオの目をのぞき込んだ。

「悪い女や男に騙されないよう、一連のことを学ぶんだ」
「一連の?」

アウレリオは気まずそうに咳払いをした。

「その、金や権力目当てに近寄ってくる女、家門の乗っ取りを企む親族・・・他にも跡取りを狙って仕掛けられる様々なリスクが有る。だから年頃になると、閨教育として、女や男との・・・性交の仕方を習う。男を使ったハニートラップもあるからな。そして、若くて判断力の未熟な男には・・・その・・・経験させるんだ。なんの意味もないぞ。ただの、経験・・・いや、実習なんだ」
「へえ・・・?」

覚めたリオの声に、アウレリオつばを飲んだ。
教育係の未亡人のところに通っていたことを、リオには知られたくない。
自分でも理由はわからないが、その当時も、未亡人の邸宅を訪れるときは、細心の注意を払ってリオに知られないようにしていた。

「でも、俺・・・本当は・・・」嫌かも。リオは言葉を飲み込んだ。こんなに親密な行為を、自分以外の人としていたなんて、すごく悲しい。「俺は、全部アウレリオ様だけなのに」
言ってはいけないと思いつつ、泣いてしまいそうだ。

しょんぼりとしたリオの姿に、アウレリオは頭を抱えた。
その当時、お前は男同士など気持ち悪がっていると思っていたし、それに何よりもお前は教えることが出来ないだろう?だが、それは言えない。

「全然、へいきです!」リオは無理やり笑顔を作ってみせた。「そんなの、おれ、全然気にしません!」

いや、めちゃくちゃ気にしてる。そう思ったが、無言でリオの頭を撫でた。

「私は、お前の初めてをもらえてうれしいよ。それに、私が望んでこういうことをしたのはお前がはじめてだ。さっきも言った通り、あれは実習だったんだから」
「・・・はい」

リオの目に浮かんでいた涙をそっと拭いてやる。

「仕方がなかったんだ」

本当は好奇心があったことは、絶対に知られないようにしよう。
ただ、あの未亡人は言っていた。
「坊ちゃまが本当に好きな人ができたときに、お教えした事が役に立つといいですね」と。
「好き」とは未だによくわからない。だが、間違いなく役には立った。

リオはこつんとアウレリオの胸に頭を寄せた。

「大丈夫です。ちょっと、感傷的になっただけです。自分の立場はわきまえてますから」
「わきまえている?」
「・・・」リオが無言のままうなずいた。

「おい、お前。自分がただの召使いだと思っているのか?」
「もちろんです!」
「いや、違う。では、お前は私が戯れに召使いに手をつけたと思っているのか?」
「いえ、そんなことは・・・」
「私は、いままでそのようなことをしたことはない。15を過ぎた頃から、何度も誘いはあった。一夜限りでいいからとねだられたこともあった。私の種を孕めば、それなりの得があると思っていたんだろう」

(そればかりじゃないと思いますけど。アウレリオ様はご自分の容姿をご存じないんだろうか)
リオの視線をアウレリオは別の意味にとらえた。

「お前とは違う。お前は、私にとって特別な存在だから」
「特別な・・・俺が?」
「そうだ」

アウレリオがリオを腕の中に封じ込めるように抱きしめた。

「はじめて会ったときのことを覚えているか?」
「もちろんです。目の前に金色の天使が舞い降りたかと思ったんですから」
「はは、そんなことを言うのはお前だけだよ。あの時、私はお前の瞳が金色に光るのを見た。お前も魔力を持つ者なのかと、近くに置いて監視していたんだ」
「監視?俺を?」
「ああ・・・それには理由があるんだ。私を殺そうと、魔力を持つ子どもが私のもとに送り込まれたことがあった。その子どもは・・・」

アウレリオが言葉を飲み込み、リオは先を促すようにアウレリオの頬を撫でた。
じっとリオを見つめる瞳が、金色に変わった。

「気味が悪いか?この瞳に産まれて良いことばかりだったわけではない。私の母は、気味が悪いと私を遠ざけ・・・父は私にアウレリオ、つまり黄金と名付けた。父なりの皮肉なのか・・・それとも開き直りか。この金色の瞳は、私の一族の中で、特に魔力が強い者に現れる。聞いたことがあるか?私の先祖のことを」

むかし、村を訪れた騎士たちが笑いながら話していた。たしか、伯爵家の先祖の狂気の話だったような。
伯爵家の狂気は、使用人たちの間でも、公然の秘密だった。

「良くは知りません。ちょっと聞いたことがあるような気もしますけど」

アウレリオは大きく息をついた。

「私は、日頃魔力で瞳の色を変えている。金色の瞳は、恐ろしい魔力を持っていると宣伝して歩いているようなものだからな。かつて、私の先祖は王の血筋だった。凶暴で手が付けられない王子だったらしい。父王はそんな息子を嫌って、死んでもいいと最も危険な辺境に追いやった。それが、ここだ」

リオはこくんとうなずいた。

「凶暴な王子は、辺境では役に立った。どれほど魔物を殺しても、むしろ感謝される場所だから。だが、父王が死に、兄に代替わりすると、様子が変わってきた。兄王は凶暴な弟から軍隊を取り上げ、子飼いの部下だけを残して引き上げさせてしまった。先祖はどうしたら良かったと思う?すでに魔物をたくさん殺し、恨みを買っている。感謝している民は力を持たない。わずかに残った部下たちも、魔物に報復され傷ついている。仕方なく、悪魔と契約したんだよ」





*********************



(お礼)

本日も、お読みいただきましてありがとうございました。
お忙しいのにハートも広告も・・・重ねて、ありがとうございます。

少しずつ話しが進んでいますので、お楽しみいただけると幸いです。
あ!今日は五十話でした!きりが良い♡

今日はめちゃくちゃ寒かったですね!
今週から本格的な冬の寒さになるみたいです。
皆さん、防寒をしっかりして、冬を乗り切ってくださいね!
ちなみに私は寒いの超苦手です・・・

それでは、また明日お会いしましょう!
風邪菌が皆さんを避けて歩きますように。


しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...