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第六十一話 母の思惑(おもわく)
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リオはひっくひっくと嗚咽をこらえながら、アウレリオの愛しい名を呼び続けた。アウレリオはそっと背中に手を回し、リオを引き寄せた。
(守らなければ)
強く、思う。だが、事情を知らないリオにどう説明したらいいのか。
「どうした?そんなに泣くほど辛かったのか」
「う・・・うえ・・・」
リオの声は涙にかき消され、言葉にならない。
「急なことで、すまなかったな」
アウレリオ様が謝るなんて!リオは目を見開き、首を横に振った。
「仕方がなかったんだ。母上がしびれを切らしてしまって」
アウレリオが大きくため息をつくと、さらさらと記憶のカーテンを開けたようにあの日の出来事がよみがえってきた。
***********
これまでも、母は気が向くとアウレリオを呼び出し、早く結婚しろとせっついていた。
その日もいつもの小言だろうと覚悟していたのだが。
何度も繰り返される説教。
早く身を固めて、後継者を作れ。
お前には伯爵家の跡取りとしての責任があるのだ。
聞き飽きた。
金色の瞳は薄気味が悪いと、幼い頃は見向きもしなかったくせに。母が自分を気味悪そうに見るたび、心をえぐられたことは忘れてはいない。
ソフィアにしてみれば、令嬢として教養も作法も完璧だと褒められて育ったのに、結婚後、婚約時代から夫と妹が恋人同士だったと知らされた日の屈辱は忘れられない。
意地でも自分が先に息子を産んでやると決意し、男の子が生まれたまではよかったが、生まれた子供は魔とつながっているといわれている薄気味悪い金色の瞳を持っていた。
かわいいとは思えなかったが、伯爵家で確固たる地位を築くためには、金色の瞳を持つ優秀な息子を授かったことは、役に立った。いつしか、金色の瞳を持っていても許してやろうと心が和らいだが、その時には不愛想で全くなつかない子供になっていた。
だが、かわいげがあろうとなかろうと、アウレリオは最大の手駒だった。
頭がよく控えめなエミリアと結婚して早く確固たる地位を築いてほしいのに。
そう思っても、肝心のアウレリオは思い通りにはならなかった。
「一体いつになったら、エミリアと結婚する決意が固まるのですか」
ソフィアがアウレリオをいらただしげに見つめた。ご機嫌伺いの名目で息子を呼びつけ、今日こそ結婚話を進めようとしているのに、息子はのらりくらりとかわしてばかり。
ソフィアはポットを指でコツコツと叩いてしまい、はっと気がついてその手をクロスの下に隠した。
「あれはまだ幼いではありませんか」アウレリオはそしらぬ顔でティーカップを口元に運んでいる。「ほう、これは新しい茶葉ですね?なかなか香りがいい。選んだ女主人の人柄が浮かび上がるような、品のいい・・」
「まあ・・・そんなことがわかるようになったのね?私もこのお茶ならお茶会に出してもあの口うるさい男爵夫人に何も言われなくてすむわ。この間なんて、一口飲んで顔をしかめたのよ。失礼ったらないわ」
「顔に出すなど、身分が低い証ですよ」
「そうよ。そうでしょう?お前もだんだん話がわかるようになってきたじゃない」
「ははは、母上のご薫陶の賜物ですね。それでは私はそろそろ・・・」
アウレリオが椅子から腰を浮かせると、ソフィアははっと気がついた。
「ちょっと!話をそらさないで!お前はいつもいつも・・・」
「このあとも、執務が立てこんでおりまして」
「いいえ、だめよ。座りなさい」
アウレリオは母の剣幕に浮かせかけた腰をまた椅子の上に戻した。今日は短く済むかと思ったのは甘かった。
「お前、いつまでとぼけているの。お茶の味がわかるほどの大人になったんじゃない。ならば、早く結婚して私に孫の顔を見せて頂戴」
アウレリオの右眉が上がったが、聞こえないふりをしてお茶を飲んでいる。
「エミリアがこの家に来て半年もたったのよ。結婚の準備も進んでいるわ。お前が首を縦に振れば一月後には結婚できるのよ」
「・・・それはいくら何でも急ぎすぎでは?」
「まさか!お前のペースに合わせていたら、私が生きているうちに孫の顔を見ることなんてできそうにないじゃない。騙されないわよ。」
「だますだなんて人聞きの悪い。ただ、タイミングを見計らっているだけで」
「もう結構。言い訳は聞きたくないわ。早く結婚して子を作るのが、後継者としてのお前の役割でしょう。まさかそれがわからないほど子供でもあるまいし」
(母上はずいぶん焦っているらしい。さて・・・)
「私が知らないと思っているの?」
アウレリオの口元がぴくりと揺れた。
「この屋敷の中で起こっていることで、私が知らないことなんて何ひとつないのよ?」
「さて?」
「お前がいつまでもそんな態度ならば、事故が起きるかもしれないわね」
アウレリオが視線を上げ、ティーカップをソーサーに戻した。
「結婚しなさい、アウレリオ。早く結婚して足場を固めるのです。伯爵様にお前を確実に後継者としていただくためには、早く結婚して子をもうけなさい。それがお前のためなのよ」
アウレリオは小さく舌打ちすると立ち上がった。
「なんのことやら」
「おだまり!座りなさい!態度を改めないのなら、あの男を棒で百回叩いて城から追い出してやってもいいのよ?」
心臓がどきんと大きな音を立てた。
母に、知られていた。
慎重に隠していたはずなのに。だが、甘かった。侍従長はそもそも母方の家系の出身だというのに。
「・・・あの男?」アウレリオの声が一段低くなった。
「わかっているでしょう?」ソフィアが鼻白んだ。「側にいることが問題ならば、追い出すしかない。眼の前から消えればお前の考えも変わるでしょう。たかが召使の一人ばかり、どこかで野垂れ死んだとしてもかまわない」
「母上」他人ならばアウレリオの動揺を見抜くことはできなかっただろう。だが、ソフィアはやはりアウレリオの母親だった。
「ほう。ようやく自分の立場がわかってきたようね?」
*************
本日もお読みいただきましてありがとうございました。
今日も出先のため、なかなかとりかかれず、遅くなってすみません。
♡も広告もありがとうございます。
また明日、よろしくお願いします♡♡♡♡♡
(守らなければ)
強く、思う。だが、事情を知らないリオにどう説明したらいいのか。
「どうした?そんなに泣くほど辛かったのか」
「う・・・うえ・・・」
リオの声は涙にかき消され、言葉にならない。
「急なことで、すまなかったな」
アウレリオ様が謝るなんて!リオは目を見開き、首を横に振った。
「仕方がなかったんだ。母上がしびれを切らしてしまって」
アウレリオが大きくため息をつくと、さらさらと記憶のカーテンを開けたようにあの日の出来事がよみがえってきた。
***********
これまでも、母は気が向くとアウレリオを呼び出し、早く結婚しろとせっついていた。
その日もいつもの小言だろうと覚悟していたのだが。
何度も繰り返される説教。
早く身を固めて、後継者を作れ。
お前には伯爵家の跡取りとしての責任があるのだ。
聞き飽きた。
金色の瞳は薄気味が悪いと、幼い頃は見向きもしなかったくせに。母が自分を気味悪そうに見るたび、心をえぐられたことは忘れてはいない。
ソフィアにしてみれば、令嬢として教養も作法も完璧だと褒められて育ったのに、結婚後、婚約時代から夫と妹が恋人同士だったと知らされた日の屈辱は忘れられない。
意地でも自分が先に息子を産んでやると決意し、男の子が生まれたまではよかったが、生まれた子供は魔とつながっているといわれている薄気味悪い金色の瞳を持っていた。
かわいいとは思えなかったが、伯爵家で確固たる地位を築くためには、金色の瞳を持つ優秀な息子を授かったことは、役に立った。いつしか、金色の瞳を持っていても許してやろうと心が和らいだが、その時には不愛想で全くなつかない子供になっていた。
だが、かわいげがあろうとなかろうと、アウレリオは最大の手駒だった。
頭がよく控えめなエミリアと結婚して早く確固たる地位を築いてほしいのに。
そう思っても、肝心のアウレリオは思い通りにはならなかった。
「一体いつになったら、エミリアと結婚する決意が固まるのですか」
ソフィアがアウレリオをいらただしげに見つめた。ご機嫌伺いの名目で息子を呼びつけ、今日こそ結婚話を進めようとしているのに、息子はのらりくらりとかわしてばかり。
ソフィアはポットを指でコツコツと叩いてしまい、はっと気がついてその手をクロスの下に隠した。
「あれはまだ幼いではありませんか」アウレリオはそしらぬ顔でティーカップを口元に運んでいる。「ほう、これは新しい茶葉ですね?なかなか香りがいい。選んだ女主人の人柄が浮かび上がるような、品のいい・・」
「まあ・・・そんなことがわかるようになったのね?私もこのお茶ならお茶会に出してもあの口うるさい男爵夫人に何も言われなくてすむわ。この間なんて、一口飲んで顔をしかめたのよ。失礼ったらないわ」
「顔に出すなど、身分が低い証ですよ」
「そうよ。そうでしょう?お前もだんだん話がわかるようになってきたじゃない」
「ははは、母上のご薫陶の賜物ですね。それでは私はそろそろ・・・」
アウレリオが椅子から腰を浮かせると、ソフィアははっと気がついた。
「ちょっと!話をそらさないで!お前はいつもいつも・・・」
「このあとも、執務が立てこんでおりまして」
「いいえ、だめよ。座りなさい」
アウレリオは母の剣幕に浮かせかけた腰をまた椅子の上に戻した。今日は短く済むかと思ったのは甘かった。
「お前、いつまでとぼけているの。お茶の味がわかるほどの大人になったんじゃない。ならば、早く結婚して私に孫の顔を見せて頂戴」
アウレリオの右眉が上がったが、聞こえないふりをしてお茶を飲んでいる。
「エミリアがこの家に来て半年もたったのよ。結婚の準備も進んでいるわ。お前が首を縦に振れば一月後には結婚できるのよ」
「・・・それはいくら何でも急ぎすぎでは?」
「まさか!お前のペースに合わせていたら、私が生きているうちに孫の顔を見ることなんてできそうにないじゃない。騙されないわよ。」
「だますだなんて人聞きの悪い。ただ、タイミングを見計らっているだけで」
「もう結構。言い訳は聞きたくないわ。早く結婚して子を作るのが、後継者としてのお前の役割でしょう。まさかそれがわからないほど子供でもあるまいし」
(母上はずいぶん焦っているらしい。さて・・・)
「私が知らないと思っているの?」
アウレリオの口元がぴくりと揺れた。
「この屋敷の中で起こっていることで、私が知らないことなんて何ひとつないのよ?」
「さて?」
「お前がいつまでもそんな態度ならば、事故が起きるかもしれないわね」
アウレリオが視線を上げ、ティーカップをソーサーに戻した。
「結婚しなさい、アウレリオ。早く結婚して足場を固めるのです。伯爵様にお前を確実に後継者としていただくためには、早く結婚して子をもうけなさい。それがお前のためなのよ」
アウレリオは小さく舌打ちすると立ち上がった。
「なんのことやら」
「おだまり!座りなさい!態度を改めないのなら、あの男を棒で百回叩いて城から追い出してやってもいいのよ?」
心臓がどきんと大きな音を立てた。
母に、知られていた。
慎重に隠していたはずなのに。だが、甘かった。侍従長はそもそも母方の家系の出身だというのに。
「・・・あの男?」アウレリオの声が一段低くなった。
「わかっているでしょう?」ソフィアが鼻白んだ。「側にいることが問題ならば、追い出すしかない。眼の前から消えればお前の考えも変わるでしょう。たかが召使の一人ばかり、どこかで野垂れ死んだとしてもかまわない」
「母上」他人ならばアウレリオの動揺を見抜くことはできなかっただろう。だが、ソフィアはやはりアウレリオの母親だった。
「ほう。ようやく自分の立場がわかってきたようね?」
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