5月の雨の、その先に

藍音

文字の大きさ
65 / 152

第六十話 再会

しおりを挟む
探るように優しく、アウレリオの舌がリオの口の中で動いた。
柔らかな体温に包まれ、ぶわっと身体中から感情があふれだす。

どれほど、恋しかったか。

ぎゅっとしがみつき、いま、この瞬間が永遠に続くように祈る。
どうか、すこしでも長く。
何も考えられないほどの心地よさのなか、ただただ近づきたい。
それはアウレリオも同じようで、リオの身体の上で手のひらを広げ、指先一つひとつの感触を楽しむように、ぎゅっとリオを引き寄せた。

「リオ」
耳元でアウレリオがささやいた。
「今は時間がない。後で会おう」
(後?後があるの?俺はもうアウレリオ様に捨てられたんじゃないのか?)

リオが驚いてアウレリオを見上げると、やさしい微笑みがリオの心を綿のようにつつみこんだ。さっきまで氷のように冷たかったのに。

「泣くな」

アウレリオの低い声で、リオは自分の頬が濡れていることに気がついた。

「お前が泣くと、離れられなくなってしまう」

リオの目の下をアウレリオが親指でぬぐい、次に舌先でそっと頬をなめた。

「!!!」

カッと血が昇り、顔が赤くなる。
アウレリオはまた笑い、リオを抱きしめた。

「また後で。深夜に大けやきの下に来い。私の部屋は見張られているから、近づくな」

大けやきは魔の森の丘にある木だ。知らない者はないが、怖がって誰も近づかない。でも、アウレリオ様と一緒なら、何も怖くない。
リオがこくんとうなずくと、アウレリオもうなずき返し、リオの肩を軽くたたいた。突然、肩が暖かくなったように感じる。見上げると、アウレリオは満足げな笑みを浮かべ、猫のようにするりと部屋を出ていった。

リオはその姿をじっと見つめた。
ある日突然、アウレリオ付きからエミリアに仕えるようにと命じられた。
もしかしたら、アウレリオ様が俺を嫌って手元から離したのかも、と思ったことがないわけではない。
アウレリオ様に恐れ多くも恋心をいだいていることが知られてしまったのかも、とも。

でも、さっきの口づけは、まるで恋人にするくちづけみたいで・・・
リオはそっと自分のくちびるに指先でふれた。
強くくちづけられて、すこしはれている。
しびれたような快感の名残に心がうずく。

恋人にくちづけられて、唇がはれてしまったって、皆にバレてしまうかも・・・むしろ自慢したい。

リオはぽっぽと熱の上がるほほを、両手でピシャリと叩いた。

「馬鹿」

自分に言い聞かせる。
そんな身分じゃない。

でも、アウレリオ様が深夜に大けやきの下に来いって・・・そうおっしゃったんだ。
弾けそうに高鳴る胸を両手で抑えた。
大けやきの下に来いって・・・このまま、心臓が飛び出してしまうかもしれない。
今夜、会える。

(アウレリオ様・・・愛しています)


***********************

城の隣に広がる広大な森は「魔の森」と呼ばれ、日中でも薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。
屈強な男ですら、日が暮れてからは近づかない森。
かつて、辺境に魔を閉じ込めた、まさにその場所だと言われている。

もちろん、迷信に決まってる。
アウレリオ様には魔力があるけれど、その力は人を傷つけるものではないし・・・ちょっと人を楽しませてくださるような、そう、一種のまじないみたいなものだし。

本当は、アウレリオが自分を保護するまじないをかけているため、恐ろしい獣が近づいてこられないのだが、リオはそれを知らない。足元をキキっと小さな悲鳴を上げながら黒い何かが逃げていく。それもまじないの効果の一つではあるのだが、気にならない。ただ、肩の上にいつまでも残るあたたかさが単純にうれしかった。

見回りの兵を避けながら、城の庭からつながる木戸を開けると、眼の前には細いリボンのように白く光る道がリオを案内するように、月に照らされている。
恐ろしい獣がいるのか、それとも魔力に囚われてしまうのか・・・でも、今日のリオには少しも怖くなかった。
むしろ誰にも会わず、好都合だ。

(アウレリオ様に会える)

リオの心ははずみ、他の考えはかけらも頭に浮かばなかった。何もこわくない。大けやきまでの道の両側に咲く花たちは淡く光を放ち、リオに進む道を教えている。
一歩足を踏み出すと、リオを歓迎するように花たちがシャラシャラとかすかな歌をかなでた。
見上げれば丘の上にぼうっと明るい光を放つ大けやき。

(アウレリオ様、アウレリオ様・・・)

心のなかで名を呼びながら、道を駆け抜けた。道の両側で穏やかに光りながら歌う花も、ふくろうの鳴き声も、星空も、皆リオを歓迎しているように思える。

銀灰色の両腕を空に広げている大けやきは、淡い光を放ちながらリオを歓迎するように枝を揺らした。
さやさやとささやく葉の下には誰の姿も見えない。

「良かった。アウレリオ様をお待たせせずにすんだ」

ほっと一息つくと、リオはけやきの根元に座り込んだ。
大けやきは高台の上に一本だけ立つ大きな木で、城からも見ることができる。
そこから見上げる星空は、星が掴み取れそうなほど、美しく、大きく見えた。

(あの星を取ってアウレリオ様にプレゼントしたいな)

星を眺めながらアウレリオが道を登ってくる姿も見られるに違いない。
リオがワクワクしながら空を眺めていると、ふと横に人の気配を感じた。

「リオ」
「あ、アウレリオ様?」

アウレリオは小さく笑うと、リオのほほにキスを落とした。

「ど、どうして?俺、お待たせしないように走ってきたのに」
「はは」
「どこから来たんですか?俺、星を見ながらちゃんと道も見ていたのに」
「そうか」

アウレリオはうれしそうに笑い、リオのやわらかな巻き毛にそっと唇を寄せた。

「アウレリオ様・・・アウレリオ様」

リオが噛みしめるようにアウレリオの名をつぶやくと、アウレリオはそっとリオの唇に花びらのような口づけを落とした。もう、ほかのことはどうでもいい。ただ目の前にいるアウレリオだけが、世界そのものだった。

「さみしかったか?」

リオが涙を含んだ大きな瞳で見上げると、アウレリオの口元がゆるんだ。

「そうか。私もだ」

リオの両目から大粒の涙が転がるように流れ出した。



***********

お読みいただきまして、ありがとうございました。広告もハートもありがとうございます!(´▽`)

🤗

今日は出先から更新作業をしておりますので、不具合がありましたらすみません。

また明日、よろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...