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第五十九話 お茶会
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晴れた日のデイルームには、うららかな陽気には似つかわしくない緊張感が漂っていた。
サーブするため、最小限におさえられた茶器やカトラリーがささやくように触れ合う音。
かすかな衣ずれ。
呼吸すら遠慮がちに、使用人たちは部屋の端で待機していた。
部屋の中央のティーテーブルの端と端で向かい合ってるのは、伯爵家の跡取り、アウレリオとその婚約者のエミリア。
二人の間には冷たい緊張感が漂い、結婚を間近にひかえた婚約者らしいふれあいもない。
さらに、エミリアの背後には少し離れたところに立つリオ。
リオとアウレリオの間にある冷たさとはまた違う不自然さが、使用人たちをますます怯えさせていた。
リオはアウレリオの腹心の部下であり、エミリアを大切に思うアウレリオが、エミリアの助けになればと仕えさせた、と説明されていた。
それなのに、アウレリオとリオは、視線すら合わさない。
アウレリオはリオに目もくれないし、リオはずっとエミリアに気を配ってはいるが、うつむいたままだ。
誰かが何かを口に出せば、薄氷が割れて真っ逆さまに冷たい水の中に飲み込まれてしまうような。
アウレリオは無表情のまま。むりやり笑顔を貼り付けたエミリア。使用人たちは硬い表情のまま、一刻も早くこのお茶会が終わることを願った。
「リオを寄こしてくださいまして、ありがとうございます」
エミリアが薄氷の上に一歩足を進めた。ぴりりとした緊張が走る。
「大変助かっております」
「そうですか」アウレリオの口元がぴくりと動いた。
口元に持っていきかけていた紅茶のカップをソーサーに戻すと、がちゃんと大きな音が響いた。
マナーからしたらあり得ない。つまり、アウレリオはリオがエミリア付きにされたことに、納得していない・・・?
冷たい青い瞳が室内をぐるりと見回し、茶色の巻き毛の上に視線が止まった。
ずっとうつむいていたリオがおそるおそる視線を上げると、アウレリオの氷のように光る瞳とぶつかった。
その表情は固く、読めない。
リオの心臓は狂ったように大きな音を立て、次に涙が出そうになった。
(アウレリオ様、俺を、呼び戻して・・・)
声には、出せない。
アウレリオはつと視線をそらした。
「お役に立てたようで・・・それでは、執務がありますので。失礼する」
すっと立ち上がり、振り返りもせずにデイルームから出ていった。
リオの胸の奥はじんじん痛み、がまんのきかないなみだがこぼれそうになる。
あわてて、くしゃみをするふりをしてリネンを顔に押し当てた。
「どういうことですか?なぜ、アウレリオ様はあのようにお怒りに?」
「しっ」
新入りメイドが無邪気に尋ね、メイド長が目をいからせた。
「だって・・・」口を尖らせた新入りの足を別のメイドが勢いよく踏んだ。
「お嬢様、今日も仲睦まじいご様子でしたね」
メイド長が笑顔でエミリアに話しかける。
「・・・そう、そう!アウレリオ様は本当にお優しいですね」
「お忙しいのにお嬢様のためにお時間を作ってくださって・・・」
次々と繰り出される心にも無いお世辞に、エミリアはばれないようにため息をついた。
「・・・そうね」
これが私の運命なの?
不機嫌な夫に、涙ぐむ夫の恋人。
間に挟まれて苦しい未来しか見えない。
でも・・・アウレリオ様だってこの未来からは逃れられない・・・誰もが自由に生きているわけではないのだ。
エミリアは、口の端を上げ、笑顔を作って見せた。
「ありがたいことですわ。みなさんもお疲れさま。今日のお茶は特別おいしかったし、しつらえもとてもセンスが良かったわね」
優しい言葉に、使用人たちは嬉しそうに頭を下げた。
「では私は自室に戻ります」
エミリアが立ち上がり、ドアに向かう。いつものようにエミリアの後を歩こうとすると、リオはついて来なくていいと手で示された。いくら使用人にやさしいエミリアとはいえ、我慢にも限度がある。いまはリオの顔を見たくはなかった。
家のために売られたも同然の身の上とはいえ・・・エミリアは小さくかぶりを振った。賭け事をするとか、女癖や酒癖が悪い、という噂もない。でも以前はここまでひどくはなかった。感心はないし、冷淡だけど、最低限の礼儀はお持ちだったはず。
お気に入りの召使を私に取られたって思ってらっしゃるのかしら。
リオだって、今の主人は私なのに・・・
「部屋に戻って、刺繍を仕上げてしまいましょう。今日中にアウレリオ様に刺繍入りのハンカチを届けて差し上げましょう」
婚約者が騎士に刺繍入りのハンカチを贈るのは当然の習わしだ。
今まで何枚も刺繍入りのハンカチを贈り、そのたびに丁寧な御礼状と花束やお菓子などが返礼された。
どう思っているのかはわからない。でも、その小さなしきたりだけが、いまのエミリアのプライドを守っていた。
***********************
リオが茶器をワゴンに乗せ、厨房に向かう渡り廊下を歩いていると、誰かがぐいと手を引き、ワゴンが揺れた。
「あ、あぶない」
高価な茶碗を割ったら、どれほど怒られるかわからない。
リオが体でワゴンを抑えようと手を伸ばすと、誰かが後ろからリオの腰を引き寄せた。
強い力。
抵抗もできないほど圧倒的な体術。
そして、覚えのある大きなてのひら。
背中には温かな胸。
なつかしいてのひら。
針葉樹の爽やかな香り。
リオの体から力が抜けると同時に近くにあった小部屋に押し込まれた。
「アウレリオ様」その名がこぼれ、大粒の涙があふれだした。
「静かに」低い警告と共に、リオの唇が塞がれた。
************
こんばんは。本日もお読みいただきまして、ありがとうございました。
昨日はうっかりしていましたが、定休日でした。
しっかり休みをいただきましたが、なぜか休むとアイディアがわくんですよ。
というわけで、この後難題だった場所がきれいに練れました♡
頑張れれば、BL祭りの期間中は毎日連載と行きたいところですが、あまりにも今日のひらめきが気に入ったので、詰まりそうになったら休むことにしました。
そういえば、BL祭りにも今年も参戦します。
うっかりしてるとびりになってしまいそうなのでそうならないように、連載頑張らないと。
でも、ここからですので、よろしくお願いします!
今日も♡と広告をありがとうございました。いつも感謝しています。
読者様に健康を~
サーブするため、最小限におさえられた茶器やカトラリーがささやくように触れ合う音。
かすかな衣ずれ。
呼吸すら遠慮がちに、使用人たちは部屋の端で待機していた。
部屋の中央のティーテーブルの端と端で向かい合ってるのは、伯爵家の跡取り、アウレリオとその婚約者のエミリア。
二人の間には冷たい緊張感が漂い、結婚を間近にひかえた婚約者らしいふれあいもない。
さらに、エミリアの背後には少し離れたところに立つリオ。
リオとアウレリオの間にある冷たさとはまた違う不自然さが、使用人たちをますます怯えさせていた。
リオはアウレリオの腹心の部下であり、エミリアを大切に思うアウレリオが、エミリアの助けになればと仕えさせた、と説明されていた。
それなのに、アウレリオとリオは、視線すら合わさない。
アウレリオはリオに目もくれないし、リオはずっとエミリアに気を配ってはいるが、うつむいたままだ。
誰かが何かを口に出せば、薄氷が割れて真っ逆さまに冷たい水の中に飲み込まれてしまうような。
アウレリオは無表情のまま。むりやり笑顔を貼り付けたエミリア。使用人たちは硬い表情のまま、一刻も早くこのお茶会が終わることを願った。
「リオを寄こしてくださいまして、ありがとうございます」
エミリアが薄氷の上に一歩足を進めた。ぴりりとした緊張が走る。
「大変助かっております」
「そうですか」アウレリオの口元がぴくりと動いた。
口元に持っていきかけていた紅茶のカップをソーサーに戻すと、がちゃんと大きな音が響いた。
マナーからしたらあり得ない。つまり、アウレリオはリオがエミリア付きにされたことに、納得していない・・・?
冷たい青い瞳が室内をぐるりと見回し、茶色の巻き毛の上に視線が止まった。
ずっとうつむいていたリオがおそるおそる視線を上げると、アウレリオの氷のように光る瞳とぶつかった。
その表情は固く、読めない。
リオの心臓は狂ったように大きな音を立て、次に涙が出そうになった。
(アウレリオ様、俺を、呼び戻して・・・)
声には、出せない。
アウレリオはつと視線をそらした。
「お役に立てたようで・・・それでは、執務がありますので。失礼する」
すっと立ち上がり、振り返りもせずにデイルームから出ていった。
リオの胸の奥はじんじん痛み、がまんのきかないなみだがこぼれそうになる。
あわてて、くしゃみをするふりをしてリネンを顔に押し当てた。
「どういうことですか?なぜ、アウレリオ様はあのようにお怒りに?」
「しっ」
新入りメイドが無邪気に尋ね、メイド長が目をいからせた。
「だって・・・」口を尖らせた新入りの足を別のメイドが勢いよく踏んだ。
「お嬢様、今日も仲睦まじいご様子でしたね」
メイド長が笑顔でエミリアに話しかける。
「・・・そう、そう!アウレリオ様は本当にお優しいですね」
「お忙しいのにお嬢様のためにお時間を作ってくださって・・・」
次々と繰り出される心にも無いお世辞に、エミリアはばれないようにため息をついた。
「・・・そうね」
これが私の運命なの?
不機嫌な夫に、涙ぐむ夫の恋人。
間に挟まれて苦しい未来しか見えない。
でも・・・アウレリオ様だってこの未来からは逃れられない・・・誰もが自由に生きているわけではないのだ。
エミリアは、口の端を上げ、笑顔を作って見せた。
「ありがたいことですわ。みなさんもお疲れさま。今日のお茶は特別おいしかったし、しつらえもとてもセンスが良かったわね」
優しい言葉に、使用人たちは嬉しそうに頭を下げた。
「では私は自室に戻ります」
エミリアが立ち上がり、ドアに向かう。いつものようにエミリアの後を歩こうとすると、リオはついて来なくていいと手で示された。いくら使用人にやさしいエミリアとはいえ、我慢にも限度がある。いまはリオの顔を見たくはなかった。
家のために売られたも同然の身の上とはいえ・・・エミリアは小さくかぶりを振った。賭け事をするとか、女癖や酒癖が悪い、という噂もない。でも以前はここまでひどくはなかった。感心はないし、冷淡だけど、最低限の礼儀はお持ちだったはず。
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リオだって、今の主人は私なのに・・・
「部屋に戻って、刺繍を仕上げてしまいましょう。今日中にアウレリオ様に刺繍入りのハンカチを届けて差し上げましょう」
婚約者が騎士に刺繍入りのハンカチを贈るのは当然の習わしだ。
今まで何枚も刺繍入りのハンカチを贈り、そのたびに丁寧な御礼状と花束やお菓子などが返礼された。
どう思っているのかはわからない。でも、その小さなしきたりだけが、いまのエミリアのプライドを守っていた。
***********************
リオが茶器をワゴンに乗せ、厨房に向かう渡り廊下を歩いていると、誰かがぐいと手を引き、ワゴンが揺れた。
「あ、あぶない」
高価な茶碗を割ったら、どれほど怒られるかわからない。
リオが体でワゴンを抑えようと手を伸ばすと、誰かが後ろからリオの腰を引き寄せた。
強い力。
抵抗もできないほど圧倒的な体術。
そして、覚えのある大きなてのひら。
背中には温かな胸。
なつかしいてのひら。
針葉樹の爽やかな香り。
リオの体から力が抜けると同時に近くにあった小部屋に押し込まれた。
「アウレリオ様」その名がこぼれ、大粒の涙があふれだした。
「静かに」低い警告と共に、リオの唇が塞がれた。
************
こんばんは。本日もお読みいただきまして、ありがとうございました。
昨日はうっかりしていましたが、定休日でした。
しっかり休みをいただきましたが、なぜか休むとアイディアがわくんですよ。
というわけで、この後難題だった場所がきれいに練れました♡
頑張れれば、BL祭りの期間中は毎日連載と行きたいところですが、あまりにも今日のひらめきが気に入ったので、詰まりそうになったら休むことにしました。
そういえば、BL祭りにも今年も参戦します。
うっかりしてるとびりになってしまいそうなのでそうならないように、連載頑張らないと。
でも、ここからですので、よろしくお願いします!
今日も♡と広告をありがとうございました。いつも感謝しています。
読者様に健康を~
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