処刑回避のために現代の経営学を導入した悪役令嬢、気づけば王国の経済を完全に支配してしまい冷酷な王子から、なぜか溺愛されています

余白に蒼

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暴力という卑劣な手段に出た愚か者たち

「奥様、こちらの高保湿ハーブバームは、薬草石鹸とセットでお使いいただくとさらに効果的ですよ!」
「傭兵の旦那、今日は携帯用ブイヨンを多めに持ってきたわよ。まとめ買いなら安くしておくわ!」

 隣町の商業都市・レティスの広場。
 私たちローゼンヴァルド商会がゲリラ的に開いた露店は、凄まじい熱気と人だかりに包まれていた。
 美肌を求める貴族の夫人たちには薬草石鹸とハーブバームが飛ぶように売れ、過酷な旅をする傭兵や行商人たちには携帯用ブイヨンが奪い合いになった。
 さらに、私たちが制服として着ているセルドール織りの丈夫で美しい布地にも注文が殺到し、用意した商品は文字通り、飛ぶように金貨と銀貨に変わっていった。

「社長様! 今日も持ってきた分、全部すっからかんでごぜぇます!」

 夕暮れ時。
 空になった木箱の代わりに、ずっしりと重い硬貨の袋を荷台に積み込みながら、村長がホクホク顔で報告してくる。

「当然よ。私たちの商品は、この街の既存の需要を完全に満たしているもの。……これで資金もさらに潤ったわ。村に戻ったら、生産設備の大規模な拡張に投資するわよ」

 私は充実感に満ちた笑みを浮かべ、帰路の馬車へと乗り込んだ。
 しかし、光が強ければ強いほど、その足元には濃い闇が生まれるのがビジネスの常だ。

 私たちが歓喜に沸きながら広場を後にするのを、路地裏の暗がりから、血走った目で睨みつけている男がいた。
 かつて私を鼻で笑い、圧力を盾に石鹸の買取を拒否した、商人ギルドの支部長だ。

「おのれ、あの忌々しい小娘め……! ギルドを無償の運び屋としてアゴで使いやがって!」

 彼はギリッと歯軋りをして、自分の爪を噛みちぎった。

「 だが、護衛もつけずに辺境へ戻る今夜が千載一遇の好機だ。雇った掃除屋にあの女を殺させ、俺の首を絞めている裏帳簿を奪い返してやる!ついでに、あのバカ売れしている新商品の製法も俺のギルドのものにしてやる……! 」
 
 彼が放ったどす黒い怨念と刺客たちが、夜の街道で私たちを待ち受けていることなど、馬車に揺られる私たちはまだ知る由もなかった。

 ***

「みんな、今日もご苦労様。この調子なら、冬を越す頃には村の生活水準も王都並みに引き上げられるわね」

 夜の街道を辺境へと向かって進む馬車の中で、私は若者たちに労いの言葉をかけていた。
 私が今後の展望に思いを馳せていた、その時だった。

 ――ヒュンッ! ガンッ!!

「うわぁっ!?」

 鋭い風切り音と共に、馬車の車輪に何かが激しく突き刺さり、馬車が大きく傾いて急停止した。
 木箱が崩れ、私たちは馬車の中で折り重なるように倒れ込んだ。

「な、なんだ!? どうしただ!」
「社長様、危ねぇ!」

 村の若者が慌てて外の様子をうかがおうと幌を開けた瞬間、太い丸太のような腕が伸びてきて、若者の胸ぐらを掴んで外へと引きずり出した。

「ぎゃあっ!」
「へへっ! 調子に乗って俺たちのシマを荒らしてくれたなぁ、辺境のお姫様よぉ!」

 下品な怒声と、金属がこすれ合う鈍い音。
 私は青ざめながら馬車の外へと視線を向けた。
 月明かりに照らされた夜の街道。
 そこには、粗末な剣や棍棒で武装した、十人以上の柄の悪いならず者たちが、私たちの馬車を完全に包囲していた。

「な、ならず者だ……! ひぃっ、お、お金なら全部置いていくから、命だけは……っ」
 村長が震え上がりながら懇願するが、ならず者のリーダー格の男は、黄色い歯を剥き出して醜く嗤った。

「金ももらうが、命ももらうぜ。俺たちの雇い主であるギルド長は、お前らが目障りで夜も眠れねぇらしくてな。特にお前……てめぇの首と、その商品の作り方を持ち帰れば、特別ボーナスが出る手はずになってるんだよ!」

 男の血走った目が、私を正確に捉えた。
 商人ギルドの支部長。
 自らの商才のなさを棚に上げ、市場の競争に敗れた腹いせに、暴力という手段に出たのだ。

「逃げて、みんな! 馬車を捨てて森へ走って!!」

 私は叫んだが、非戦闘員である村人たちは恐怖で足がすくみ、動くことすらできない。
 ならず者たちが、下劣な笑い声を上げながらジリジリと私に歩み寄ってくる。

「さあ、まずはその綺麗な顔を台無しにしてやるよ。その後にゆっくりと製法を吐いてもらおうか」

 振り上げられた鈍く光る刃。
 その圧倒的な死の暴力を前にした瞬間。
 私の脳裏に、前世での最期の記憶がフラッシュバックした。

(いや……っ、死にたく、ない……っ)

 深夜の静まり返ったオフィス。
 胸を締め付けるような激痛。
 誰に助けを求めても声は届かず、徐々に暗くなっていく視界の中で死の恐怖に怯えていたあの感覚。
 どれだけ頭が良くても、素晴らしい商品を開発しても、圧倒的な理不尽の前では、人間の存在などあまりにも無力だ。
 足に力が入らず、私は冷たい地面にへたり込んでしまった。

「大人しくしな、令嬢様!!」

 男が刃を振り下ろしてきた。私は恐怖に凍りつき、強く両目を閉じた。

 ――もうダメだ、と死を覚悟した、その直前。

 ドスゥンッ!!!
 という、鈍く重い肉の潰れる音と。

「ぐぎゃあっ!?」
 という、ならず者の耳をつんざくような断末魔の悲鳴が、夜の静寂を切り裂いたのだった。

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