お嬢様は新婚につき誘惑はご遠慮します

縁 遊

文字の大きさ
26 / 32

26. 消えていた記憶

しおりを挟む


「棚澤…さん?」

 そうだ思い出しました。会社に入社する前に会っていた医大生の男性です。

 久しぶりにお会いしたのでお顔を忘れていましたが…道端でお会いするならまだ分かりますが、なぜここに?

「あの…なぜここに?」

 棚澤さんは何も答えず私に近寄ってきます。私はなぜだか分かりませんが全身が金縛りにでもかかったかのように動かなくなってしまいました。

 なんでしょうかこの気持ち悪さわ…。

「記憶が一部失われているって看護師から聞いたけど…どうやら本当なんだね。」

 え?記憶が一部失われている…ですか。そんなことは聞いていませんが。

「やはり運命で結ばれた者は神様が手を貸してくださるんだね。」

 運命で結ばれた者?なんの事でしょうか?

 ゆっくりと私に歩み寄る棚澤さんは私の記憶していた爽やかな男性とは別人の様子です。こういう男性を私は沢山見てきました…。

 私は身の危険を感じてナースコールを押そうと手を伸ばしました。

「駄目だよ。僕達の邪魔をする人を呼ぶなんて…意地悪だな。」

 その手は素早く棚澤さんに押さえられてしまいました。

「痛いです、手を離してください。」

 私の手首を掴んでいた棚澤さんはすぐには離そうとせず、手を掴んだまま私の事を見つめています。

「どうして僕の気持ちは君に届かない?ねぇ…あの男より僕の方が先に君と出会ったよね。それなのに僕が君を少しかまってあげることが出来なかったから居なくなったのかな?でもあの時は医者になるための実習で仕方がなかったんだ。将来を考えたら少し我慢してくれても良かったんじゃないかと思うんだけど。…どうして君は待っていてくれなかったの?ねぇ…どうして?」

 棚澤さんの瞳に狂気を感じます。

 掴まれている手に更に強い力を感じます。

「…手を離してください。」

 棚澤さんの言っていることには何も言わないほうが良いと判断して再度同じことを言いました。

「僕の言ったことを無視するつもりかな?」

 更に強く力を加えその掴んだ手を棚澤さんの方に引っ張られました。

「きゃっ!」

 私は驚いて思わず声をあげてしまいます。

「君は…本当に分かってない。」

 棚澤さんは手首を掴んでいない方の手を私の頬に当ててきました。その瞬間、私の全身を寒気が襲います。

「フッ…見事な時麻疹だね。」

 鼻で嘲笑うかのように言うと頬だけではなく袖をまくり腕まで触っています。

 気持ち悪さで吐き気まで出てきました。

 …なんでしょう。この感じは前にも感じた事があるような気がします。

 いつだったかしら?これは…。

 自慢ではありませんが、何度もストーカーや誘拐をされてきた経験がありますからね。昔のそれと似ているのかしら?

 何だか違う気がします。

 これは…。

 思い出そうとすると頭の中が霧がかかったみたいになります。モザイクのかかった不鮮明な映像を見せられている様な感じです。

 これは…。


 ストーカー?

 賢人さんを守ろうとして…。

 棚澤医師?

 …!!!

 モザイクが一つずつ鮮明になりすべての画像が鮮やかに見えます。

 そうだわ!思い出しました!!

 私は棚澤医師に監禁されていたんでした!

 そこに賢人さんが助けに来てくれて…。

 そこからが思い出せません…。

「急に大人しくなってどうしたのかな?」

 棚澤医師の声を聞いて我に返りました。

「離してください!!!」

 私は思い切り大きな声を出しました。誰かに気がついてもらえないかと思ったからです。今の私の体力ではここから逃げ出せそうにありませんからね。

「しっ!静かにしないと駄目だよ。」

 棚澤医師が私の口を塞ぎながら言って来ました。

「大人しくしていないとまた睡眠薬を飲んでもらうことになるよ。」

 睡眠薬?またって言葉を使うということは前に使った事があるということですよね。

 …いつ?

 急に頭の中に色々な映像が流れ込んできた。

 そうだわ…。

 完全に記憶が繋がりました!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...