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第227話「主があっさりと壊れたら、……つまらぬ」

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上位不死者アンデッドマミーを倒して、忽然と現れた謎めいた豪奢な宝箱。

カミーユが、シーフ職の本能で、というか冒険者なら当たり前の感情で、
宝箱に近づいた、その瞬間。

とんでもなくヤバイ気配を感じたリオネルが、間に入ったところで罠が発動。

宝箱に仕掛けられた転移魔法を仕込んだ特異な罠『テレポーター』により、
いずこへと飛ばされたリオネル。

その行方、安否を懸念しながら、再び探索に出発したブレーズ達……

……ここで、場面は切り替わる。

一方、飛ばされ、全員から心配されているリオネルはといえば、
死んではおらず、異次元にも飛ばされていなかった。

主人公が死んだら、そこでこの物語は終わり!
という声がした気がしたが、申し訳ない、スルーさせて頂こう。

そう、リオネルは……
完全に意識を失い、真っ暗な空間の中であおむけに横たわっていた。

どこからともなく、リオネルの心へ、『呼びかける声』が聞こえて来る。

む?
……この声は?

完全に聞き覚えがあるぞ。

大が付く『ありあり』何度も、嫌と言うほど聞いた声だ……

念の為、呼びかけるのは、リオネルを導く内なる声ではない。
まあ、同じく導く声ではあるのだが……

と、意識を回復しつつあるリオネルは考える。

『……おい、主《あるじ》よ、生きているか? まあ生命反応は全く消えていないから、大丈夫とは思っていたがな』

『……ああ、ケル。生きてるよ。けがもダメージもない、少し「くらくら」するだけだ』

リオネルの心へ、呼びかけていたのは……従士、魔獣ケルベロスであった。

『くくく、どうやら、テレポーターの罠で、この迷宮の石壁の中には放り込まれなかったらしいな』

リオネルの生命反応を確認した上で、ケルベロスはわざと皮肉を言う。
思わず、リオネルは苦笑する。

『ふっ、ケルは、それがお望みか?』

『とんでもない……これからも、嫌と言えなくなるほど我の声を聞かせてやろう』

俺の心が読まれていたのか、とリオネルは苦笑した。

そんなリオネルに対し、ケルベロスは更に強烈な皮肉を放つ。

『主と共に遊んでいて、我は最高に楽しい』

『最高に楽しい? そ、そうか? 俺と遊んでいるのか、お前』

『ああ、人間たる主の限られた生と死の狭間で遊ぶ、最高に楽しい遊びだ。そんなパートナーの主があっさりと壊れたら、……つまらぬ』

『ははは、一緒に遊んでいて最高に楽しい俺が壊れたらつまらないって、……俺は、お前の玩具おもちゃかよ』

『くくくく、まあ、似たようなものだ。我慢しろ、人間風に言うのなら、言葉のあやという奴だな』

『……まあ良いや。ケル、お前が意識を失い、無防備になった俺を守っていてくれたのか? 俺の周囲は……敵の気配でいっぱいだからな』

そう、リオネルの周囲は、おびただしい敵の気配で満ちていた。
リオネルの存在を認識し、凄まじい殺気を放っている。

それゆえ、意識を回復しながら……
リオネルはいつものように魔力感知による『索敵』を行っていた。
すぐ戦えるよう、体内魔力も上げている。

そして、リオネルの指摘通りであった。
ケルベロスは、リオネル守護の『対応』を肯定した。

『うむ! 強き思念で我の「幻影」を送り、そのフロアに出現する魔物を威嚇いかく、もしくは牽制けんせいしておいたぞ』

『おお! だから俺は敵に襲われず、ノーダメージで無傷だったのか?』

『そういう事だ』

『ありがとう、ケル。……って、おいおい、お前は遠隔の思念、魔力で、幻影を送り、俺を守護するとか、そんな事も出来るのか?』

『うむ、この迷宮は、思念や魔力伝達をさえぎるレベルがそう高くはないからな、楽勝だ』

『そ、そうか……思念や魔力伝達をさえぎるレベルがそう高くはないから、楽勝なのね』

簡単に言うケルベロス。
魔法学校を始め、いろいろと学んで来た。
だから、論理は理解出来る。
しかし、リオネルにとって言うはやすく行うはがたしである。

しかしケルベロスは、嬉しい事も告げてくれる。

『うむ、主はもう少し心を鍛えれば……』

『俺が、もう少し心を鍛えれば?』

『うむ! 我のように、いずれ遠距離の思念、魔力の伝達が行使可能となる』

『そうか! 俺もいずれ、遠距離の思念、魔力の伝達が行使可能なのか……ああ、地道にこつこつ頑張るよ』

『うむ、たゆまぬ努力と忍耐を、そして己を信じ、常に前向きで行け。さすれば主は我の力を遥かに超える』

『ありがとう、ケル。励みになるよ、そう言われると……でも』

『……でも?』

『改めて、気になるんだ、あの宝箱……俺がこの場所へ飛ばされた転移魔法の罠を仕掛けたのは、一体、何者なんだ?』

リオネルが疑問を持つのはもっともだ。

しかし、ケルベロスの答えは素っ気なかった。

『さあな。あの宝箱を用意し、テレポーターの罠を仕掛けたのが、人間なのか、魔族なのか、今の時点であまり考えても仕方がない』

『仕方がないのか?』

『うむ、これから突発的に何か起こる可能性だけ考え、備えておけば良い』

『これから、突発的に何か起こる可能性だけ考え、備えておけば良いのか?』

『ああ、備えあればうれいなし、主がこの場で必死に考えても時間の無駄だ。それより他の事を考え、実行した方が賢明だ』

『他の事を考え、実行した方が賢明?』

『そうさ、せっかく久しぶりの「ぼっち」となったのだ。やるべき事、試せる事はごまんとある』

『成る程』

『うむ、主よ。魔力感知――索敵を発動させているのなら、現在居る場所がどこなのか……分かるだろう?』

ここでリオネルは目を開けた。

ただ革兜に装着した魔導灯の明かりで、そして魔力感知から、
自分が居るのは英雄の迷宮内だと分かる。

『ああ、……既に俺達一行が戦った奴ら……オーガやゴーレムの気配を感じるから、ここはさっきまで探索していた英雄の迷宮、地下8階層のどこか……いや、通路の形状がほんの少し違うから、1層下の地下9階層へ飛ばされたな』

『ふむ、魔力感知の精度が増しておるな。大当たりだ、良くやったぞ、主』

相変わらずケルベロスは、リオネルに対し、教師然としてふるまった。

そして、ほめるだけじゃなく、締める事も忘れない。

『いつまでも寝そべっていないで、そろそろ起きろ。さっさと必要な用事を済ませ、我の居る8階へ戻って来るが良い。魔力探知を使えば、上層への階段発見はたやすかろう。「ひよこ」達が、主を心配して泣いておるぞ』

びしばしと指示を与えるケルベロス。

『りょ、了解!』

リオネルは、返事をし、慌てて起き上がった。

ケルベロスの言う通り、ミリアンとカミーユは心配しているだろう。
特にカミーユは、責任を感じ、ひどく落ち込んでいるに違いない。

やる事をやって、早く戻って、皆を安心させてやろう!

リオネルは、『最終目的』の地下10階層へは行かず、一旦、8階層へ戻り、
クランメンバー、従士達と、合流すると決めたのである。
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