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第336話「クローディーヌのお誘い」

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ワレバットへ戻り、自宅の引き払いと、各所へのあいさつを済ませると、
リオネルは、冒険者ギルド総本部の図書館で、フォルミーカ迷宮の資料を読み込み、
買い物にいそしんだ。

英雄の迷宮踏破を思い起こし、あらゆる事象を想定。
武器防具、魔道具、魔法ポーション、薬草、サバイバルグッズなどを、
金を惜しまず購入したのである。
当然、隣国アクィラ王国全体と周辺、迷宮都市フォルミーカの詳細な地図はとっくに購入し、読み込んでいた。

しかし、こういった買い物や、ジェロームの婚約祝いには金を惜しまないが、
基本的に無駄遣いをしないリオネル。

収納の腕輪と、所属登録証のプール金を合わせ、金貨2万枚2億円近くを
所持していた。

実家を追放された際、わずかな金しか持たせて貰えず、今日、明日の生活をあたふた心配していたのが、嘘のようである。

そんなこんなで、あと3日で、ワレバットから出発するという日の午後5時30分。
この日もリオネルは、冒険者ギルド総本部の図書館のテーブル席で
フォルミーカ迷宮の資料を読み込んでいた。

「そろそろ閉館ですよぉ」

「は、はい」

リオネルは違和感を覚えた。
若い女子の声ではある。
だが、いつもの司書さんとは別人の声なのである。

でも、リオネルには声の主がすぐ分かった。

「クローディーヌさん!」

閉館の時間だと声をかけて来たのは、
サブマスター、剣聖ブレーズ・シャリエの秘書で、
ストロベリーブロンドのスタイル抜群な長身美女、クローディーヌ・ボードレールであった。

仕事がバリバリ出来る女子という趣きで、
紺の「かちっ」としたスーツのような仕事着が似合っている。

「お、お疲れ様です」

驚いたリオネルだが、ここは図書館。
声を抑えて言葉を戻せば、クローディーヌは、嫣然と笑っていた。

「お疲れ様です、リオネル様……まもなくご出発ですね」

「は、はい。そうです」

最初に会った時は、少し緊張したが、最近では気安く話す仲となったクローディーヌ。
しかし、何故かリオネルはどぎまぎしてしまった。

「今日は、これからどうされるのですか?」

と、クローディーヌが尋ね、

「はい、これからどこかでテイクアウトの弁当買って、家へ帰って食べて寝ます」

と答えれば、何と何と何と!

「リオネル様、宜しければ、私と一緒にお食事を致しませんか?」

と、誘って来たのだ。

「え? お、俺とですか?」

聞き直すリオネルに対し、

「はい、ぜひ」

と、クローディーヌはまたも嫣然と笑ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ストロベリーブロンドのスタイル抜群な長身美女、
クローディーヌから食事のお誘い。

驚き戸惑いながら、リオネルはOKした。

本館1階のホールで待ち合わせとなり、リオネルが待っていれば、
クローディーヌは同じ濃紺でも、シックなブリオーに着替えて現れた。

仕事かっちり女子から、上品で垢抜けした女子という趣きに変わっている。

素敵……だなあ。
美人は何を着ても似合う。
……と思う。

そして、改めて自分は年上の素敵な女子がタイプなのだと実感してしまう。

クローディーヌは、柔らかく微笑む。

「さあ、行きましょう。私の知っているお店で構いませんか?」

「は、はい」

という事で、ふたりは移動。
ワレバットの街中にあるおしゃれなカフェレストランへ。

今までにリオネルが来た事のない店である。
客はリオネル達と同じ『カップル』が多い……

店のスタッフに案内され、席に座ったふたり。

「スペシャルディナーコースを私達へ、それと先にグラスワインをふたつ、お願い致します」

「かしこまりました」

という事で、まずはワインの入ったグラスが運ばれて来て、
ふたりは乾杯した。

「「乾杯」」

見つめ合うリオネルとクローディーヌ。

「今夜は、私が個人的にリオネル様の送別会をしようと思いまして」

「クローディーヌさんが? 個人的に? 俺の送別会ですか?」

「はい」

どうして、クローディーヌが個人的に?
と思ったが……すぐにその理由が判明する。

「業務上、知りえた事なので、絶対に口外はしませんが……リオネル様がサブマスターのお身内を救われた事、そしてモーリス様達、今回のジェローム様を支えられた事に気持ちが温かくなりました」

「………………」

「私もリオネル様と出会って変わったと、秘書室長のソランジュ・デグベルから言われました。……明るく、朗らかになったと」

「………………」

「確かに最近は以前より、仕事に張りが出て、毎日が楽しいです」

「………………」

「自分では陰キャだなんて、全く思っていませんでしたが、うふふふ♡」

黙って話を聞くリオネルに対し、クローディーヌは面白そうに笑った。

「そんなリオネル様に直接お礼を申し上げるとともに、旅のご無事を祈願し、お食事をともにしたいと考えたのです」

「そうだったんですか」

「はい。でも決心してから……なかなかお誘い出来ず、もしかしてと図書館に行ったら、リオネル様がいらして、勇気を出し、お誘いしたのです」

「……ありがとうございます。俺こそ、お誘い頂き感謝します。女子を自分から食事に誘うなんて出来ませんでしたし、クローディーヌさんみたいに素敵な方なら尚更ですよ」

残念ながら、年上の美人女子と恋愛の気配は皆無だったが……
リオネルは、クローディーヌの厚意で楽しいひと時を過ごしたのである。
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