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第483話「ヒュドラへ、とどめを刺したのと同じだ」

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リオネルの探索は順調である。

本日の目標は123階層を抜け、124階層、もしくは125階までを目指す。

地形の見極め、実戦経験による魔物の把握などがほぼ完了し、
この日からリオネルは、探索のペースを上げる事にしたのだ。

フォルミーカ地下街の片隅ににある古い造りの地味な魔道具店 クピディタース。
その店の店長で、元冒険者の魔法使いボトヴィッド・エウレニウス。

そのボトヴィッドの旧友、現在もフォルミーカ迷宮の深層に棲む、
アールヴ族の魔法使いイェレミアスへ、手紙を届ける依頼を引き受けた事も大きい。

昨日の探索中、妖精ピクシーのジャンが、
数日前に残したと思われるイェレミアスの魔力残滓まりょくざんしを発見。

イェレミアス生存の可能性が高まった事も、探索のペースを上げる理由である。

122階層とメンバーチェンジし、小さな竜に擬態した凍れる竜フロストドレイク、
妖精ピクシーのジャンが空中から探索。
地上はコブラ蛇のような魔獣アスプ入れ替え部隊の20体がカバーする。

リオネルはの探索スタイルは、全く変わらず。
シーフ職スキルを駆使し、
『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。

当然、索敵も発動……
魔力感知を最大範囲で張り巡らせ、外敵への警戒も怠らない。

そんなこんなで、15分ほど歩いただろうか、

リオネルの索敵……魔導光球、魔力感知ともに反応があった。

『おお! アンノウン1体か? それってもしや!』

ここまでで、出現する魔物は大方倒した。

アンノウンとは、不明の、未知の、知られていない、例のないという意味。

つまりリオネルにとって初見の相手だ。

『両頭のレッドドラゴン、もしもアンフィスバエナだったら、149階層までの魔物、コンプリートか! やったぜ!』

思わず念話で叫ぶリオネル。

ほぼ同時に、フロストドレイク、ジャンも敵の出現を告げて来る。

『!!!!!!!!』

『リオネル様あ! 出たよお! おいら、見てるよお! 両頭のレッドドラゴン! アンフィスバエナ1体だぞお!』

フロストドレイクは思念で、ジャンは言葉で、
念話を使い、それぞれ知らせて来た。

続いてアスプ達も、思念で、アンフィスバエナの出現を告げて来る。

『!!!!!!!!』

どうやらビンゴ!のようだ。

対してリオネルは、

『よし! 全員待機だ! 絶対近づくな! 遠距離で牽制だけして手を出すなよ!』

波動によりアンノウン……アンフィスバエナの位置は確定した。

リオネルは瞬時に転移魔法を発動。

制御は完璧。

計算通り、アンフィスバエナから10mの距離へ。

目の前に居るのは、両頭のレッドドラゴン。
間違いなくアンフィスバエナだ。

いきなり、目に前に、
人間族のリオネルが現れた事を、アンフィスバエナは驚き、戸惑う。

反撃すべく、猛毒を吐く事も忘れている。
まあ、どちらにしろ、リオネルに毒は全く効かないが。

『お前、確か、寒さに強いんだよな?』

リオネルはそう言い、敢えて、水属性の究極魔法『絶対零度』を発動したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リオネルの魔法はほとんどが、無詠唱且つ神速発動だ。

びし!びし!びし!びし!びし! びし!びし!びし!びし!びし!

あっという間に、アンフィスバエナの周囲、大気が冷え、凍って行く。

最初アンフィスバエナは慌てた様子はない。

これまでに数多の水属性魔法使いが、冷気の攻撃を行い、耐え慣れているのだろう。

しかし!

びし!びし!びし!びし!びし! びし!びし!びし!びし!びし!

びし!びし!びし!びし!びし! びし!びし!びし!びし!びし!

大気は冷え、更に凍り……気温はどんどん下がって行く……

やがて!

かっち~~~いいいんんんん!!!

アンフィスバエナは完全に凍りついた。
仮死状態になり、加えて凍りつき、身動き出来ない。

寒さに強いとは言っても、全てを凍らせる、水属性の極大魔法には敵わないのだ。

そして、底知れぬリオネルの凄さが、実力が、この『絶対零度』の発動にも表れていた。

ピンポイントの範囲内で発動させ、周囲の草木にほとんど影響を及ぼしていないのだ。

よし、凍らせた。
仮死状態って事は『破魂貫通撃』で砕けるかな?

もしダメだったら、風弾で砕いてみよう!

……さあ!
とどめだ!

おもむろに手を挙げたリオネルは、
破邪聖煌拳はじゃせいこうけん奥義、破魂拳はこんけんに、

スキル『貫通撃!!』の魔力を込める『破魂貫通撃』を、

思い切り『極大レベル』で放った。

ヒュドラへ、とどめを刺したのと同じだ。

ばっき~~んん!!! ぼっしゅううう!!!

どうやら、上手く行ったようだ。

凍りついた仮死状態のアンフィスバエナは、数多の破片となり、
粉々に砕け散ったのである。
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