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第578話「ヒルデガルドは、菫色の瞳を輝かせ、少女のようにはしゃいだ」

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どっごおおおおおおおおおおおんんんん!!!!!!!!!!

リオネルの拳を腹に深々と受けたオークキングは、あっさりと吹っ飛び、
ごろごろごろと転がった後、がは!と血を吐き、ぴくりとも動かなかった。

大混乱に陥っていたオークどもではあったが……これで精神的にとどめを刺された。
リーダーというか、ボスの最後を目の当たりにして、
ショックは相当大きかったようだ。

一見、華奢な人間の少年が素手の、
それもたった一撃で倒した事で、完全に戦意喪失。

ただただ我先にという感じで、逃げ惑うばかりである。

そんなオークどもに対し、一方的に勝利する従士たち。

ケルベロスはオークどもを次々と噛み殺し、
アスプたちは眠らせ、行動不能としている。

そんな戦場の様相を見て、後は任せても大丈夫だろうと頷いたリオネル。

待機組の従士たちの事も考え、「交代する」事にした。

リオネルは、報告用に、倒したオークキング、そしてオーク数十体の死骸を回収。

そして、瞬時に転移魔法を発動。

ヒルデガルドが守られる陣の中へ戻った。

ず~っと、リオネルの戦いぶりを見守っていたヒルデガルドだが……

目の前にいきなり、ぱっと現れたリオネルを見て、驚く。

「リ、リオネル様!!!」

対して、リオネルは笑顔。

「お待たせしました、ヒルデガルドさん、オークどもとの戦い、大勢が決したので、ただ今、戻りました」

リオネルの言葉を聞き、戦況を見守っていたヒルデガルドにはピン!と来る。

「た、大勢が決した!?」

「はい!」

戦いが始まってから、まだ30分も経っていない。
しかし、論より証拠。
リオネルを見守っていた、ヒルデガルドには分かる。

「ですねっ!! わ、私!! 見ていました!! す、凄いです!! 上位種を!! 奴らのボス、オークキングを倒したからでしょうか!?」

長年にわたり、苦しめられて来た魔境のオークどもが、遂に討伐される!!

嬉しさと喜びに気持ちがたかぶるヒルデガルドへ、リオネルは言う。

「はい! そうです! 倒した後、死骸は空間魔法で確保してありますから、後程、確認して貰います。帰還したらイェレミアスさんたちにも見て貰いましょう」

しれっと答えるリオネルは、護衛役にしていた従士たちへ指示を出す。

当然、ヒルデガルドにも伝わるよう、念話と肉声同時で発する。

「オルトロス! ケルベロスたちに加勢しろ! お前にゴーレム10体を付ける! 倒したオークどもは、お前たち魔獣兄弟が吐く、冥界の蒼き炎で葬送、塵にしてくれ!」

うおおんん!!

待ってました!と言わんばかりに、オルトロスは吠える。

兄はガンガン戦っているのに、じっと待機という状況に、
相当ストレスがたまっていたに違いない

微笑むリオネルは、ゴーレムへ、オークを破砕するように命じ、送り出した。

金属の塊であるゴーレムは素早いとはいえない。
鈍重である。

少しでも早く、戦場へ赴きたい!
もどかしい!という波動を発しながら、オルトロスは後につき、
ゴーレムを追い立てるように、歩いて行ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

……やがてゴーレムとオルトロスが戦場に到着。
ケルベロスたちへ加わり、戦い始めたのを見たリオネル。

しばらく任せ、様子を見る事にした。
問題がなければ、オークどもは全て倒され、魔獣兄弟の蒼き炎により、
死骸は塵にされるはずだ。

後のケアはあるが、それでこの仕事は一応の完了となる。

リオネルはヒルデガルドへ話しかける。

「ヒルデガルドさん」

「はい!」

「オルトロスと交代し、戦いが終わるまで、俺がヒルデガルドさんを守りますね」

リオネルから自分を守ると言われ、嬉しそうに微笑むヒルデガルド。
みるみるうちに、頬が赤くなって行く。
リオネルが『自分の白馬の王子』だと改めて認識したらしい。

「あ、ありがとうございます! ……あ、あの!」

「はい!」

「リオネル様は、竜、ケルベロス、オルトロスたちを従えていましたから、とても強いのだなあと漠然と考えておりましたし、祖父の手紙には強い方だと書いてありましたが、実際、目の当たりにして、びっくりしました」

「そうですか」

「はい! まず身体能力が凄すぎますわ! 戦うリオネル様の動きが速すぎて、ひとつひとつ見極めるのが大変でしたが、何とか認識出来ました。リオネル様は、剣と格闘技、そして魔法を織り交ぜ、戦うのですね」

「おお! 分かりましたか! その通りです。それが俺のバトルスタイルなんです」

「剣聖と呼べる剣技、拳王と呼べる格闘技、そして究極の賢者と呼べる無詠唱で神速発動の魔法、全てにおいて本当に素晴らしかった! そ、それと……オークたちの動きが、私には止まるように見えたのですが……」

妖精族の末裔たるアールヴ族の身体は頑健ではないが、五感は優れている。
ヒルデガルドの視力は、リオネルの戦いぶりをしっかりと捉えていたのだ。

「おお! そこまで分かりますか! それは俺が相手を行動不能にするスキルを使ったのです」

「でも! 最後に戦ったオークキングとは、真っ向から勝負されていましたよね?」

「はい! ミスリル製の手甲は装着していましたが、ほぼ素手で戦おうと決めていましたので」

「オークキングの攻撃をあっさりと受け止め、すかさず拳を放ち、倒しましたね!! それもたった一撃で!! す、凄すぎますうう!!」

ヒルデガルドは、菫色の瞳を輝かせ、少女のようにはしゃいだ。

そんなヒルデガルドを見て、リオネルは微笑む。

「旅で出会った師匠から、武闘僧モンクが行使する拳法を習ったんです。適度な運動、気晴らしにもなりますし、護身術としてヒルデガルドさんも習得してみますか?」

「はいっ!! ぜひぜひっ!! 拳法だけでなく!! 剣技、魔法も全て!! 私、ヒルデガルド・エテラヴオリをリオネル様のお弟子にしてくださいませませっ!!」

リオネルの提案を聞いたヒルデガルドは、身を乗り出し、
待ってましたとばかりにOKしたのである。
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