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第586話「ヒルデガルド、武官たちは全員無言、リオネルをじっと見つめ、話を聞いている」

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「リオネル様ああ!! 商人たちとの、宝箱――戦利品の確認と価値の計上が終わりましたわああ!! 私にも武術指導をお願いしま~すうう!!」

満面の笑みを浮かべたヒルデガルドが、駆け寄って来た。

それを見た従士長は、直立不動で敬礼する。

「ソ、ソウェル! お、お疲れ様です!」

従士長は平身低頭。
これまでのヒルデガルドはなら、武官たちの不甲斐なさを、
容赦なく叱責するはずだから。

しかしヒルデガルドは、にこっと笑い、優しくいたわる。

「うふふ、貴方達もお疲れ様。見ていたわよ、全員いいようにあしらわれていたわね」

「も、申し訳ございません!」

「大丈夫よ! 武官たる貴方達が全力を尽くしたのは分かっているわ。でも今回は、本当に相手が悪かった。リオネル様が規格外過ぎただけよ」

……やはり、ヒルデガルドは変わった。
間違いない。

「ヒルデガルド様……」

「貴方達は常に一生懸命仕えてくれているから、理不尽に責めたりはしないわ。でもね、この際だから、己を鑑みて、更に上を目指してみない」

「は! 更に上を目指す……といいますと?」

「言葉通りよ! 貴方達も一緒にリオネル様について切磋琢磨し、ワンランク、ツーランク、いえ、もっともっと上を目指すの。私もね、自分の未熟さを痛感して、既にリオネル様へ弟子入りしたから」

「な、何と!? ヒルデガルド様がリオネル様のお弟子に!?」

「うふふ♡ 論より証拠! 貴方達も体感したでしょう? 剣士としてリオネル様のとてつもない強さを! そして魔法使いとしても、数々の属性魔法に、失われし転移魔法をも使いこなすもの凄さは、今更、言うに及ばずだわ」

「はい! 確かに! リオネル様は大器です! 底が知れません!」

白熱するヒルデガルドと従士長のリオネル談義。

そろそろストップさせた方が良さそうだ。

リオネルは微笑み、従士長へ話しかける。

「あの、従士長さん」

「はっ! 何でしょう、リオネル様」

「だいぶ時間も押していますし、そろそろ訓練に戻りましょう。まずは、その練習用雷撃剣に慣れてください。安全の為、互いに充分距離を取り、素振りをしていてくださいね。ちなみに剣の振り方はこうです」

笑顔のリオネルは、びゅ!びゅ!びゅ!びゅ!と軽く剣を振った。
武官たちに対する『手本』として見せたようだ。

対して、従士長は食い入るように見つめ、

「な、成る程!」

と頷いていた。

リオネルは更に言う。

「もっと手本が必要なら、随時行いますから、遠慮せず言ってください。全員で充分、素振りを行い、剣に慣れたら、次は基本的な体さばき、足さばきを教えます。俺がOKを出すまでは、素振りのみを充分に行うように。たっぷりと振ってください」

「はっ! リオネル様! もろもろ了解です!」

「そしてヒルデガルドさん」

「はいっ! リオネル様!」

「検品鑑定作業を終えた商人さんたちへあいさつをし、礼を述べた上で、撤収して貰いましょう。その後で貴女は準備運動、ストレッチをしてください。武官さんたちと一緒に剣の素振りをしますから」

「剣技から始めるのですね」

「はい。まずは」

「うふふふ♡ 学ぶ事がい~っぱいありますね! 楽しみです!」

満面の笑みを浮かべるヒルデガルドは、嬉しそうに言い放ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リオネルとヒルデガルドは、商人3人をいたわり、礼を言うと、
後日の打合せを約束した。

事務官にはスケジュール調整を指示する。

いずれ開始する他国との交易等も相談するつもりだ。

商人たちを見送り、リオネルとヒルデガルドは再びフィールドへ。

ここでリオネルは、オークキングどもの死骸、宝箱を収納の腕輪へ仕舞う。

一方、武官たちは、指示通り、ひたすら素振りを重ねている。

リオネルは従士長を呼び、素振りの型を再指導。

指導後、ヒルデガルドと共に、準備運動、ストレッチを共に入念に行う。

しばらく行うと、身体が充分ほぐれたので武官たちへ合流。

全員でじっくり素振りを行った。

ヒルデガルドは、使い慣れない剣に難儀するが、必死に剣を振るう。

ひたむきに、一生懸命、剣を振るう。

自分達アールヴ族のトップたるヒルデガルドの真摯な姿を見て、
絶対に手を抜けない、気を抜けないと思ったのか、
武官たちの素振りも一層熱を帯びた。

……そろそろ頃合いであろう。

リオネルは素振りを終了させ、従士長を呼ぶ。

「次は基本的な体さばき、足さばきを教えます。従士長さん、剣を構えてください」

「は! 了解です!」

リオネルの指示に従い、従士長は剣を構えた。

頷いたリオネルは更に言う。

「俺は、基本的にヒットアンドアウェイ戦法を用いています。 ヒットアンドアウエイは『一撃離脱』とも言い、敵の攻撃を避けつつ、接近して打って離れるという一連の動作を基本とする戦法です。私見ですが、膂力より、スピードと俊敏さに優れたアールヴ族には合っている戦法だと思います」

軽く息を吐き、リオネルは話を続ける。

「相手へ踏み込む『間』を意識してください。つまり自分の剣が届く有効距離です。相手のどこまでに接近すれば攻撃可能かという事を常に意識してください。相手が強敵だと思ったら、相手の間を考え、ダメージを受けないよう、遠目の安全圏において、慎重に戦うようにしてください。戦ううち、相手に隙が生まれたら攻撃のチャンスです。ただ、フェイント――罠の場合もありますから、充分に気を付けてください」

「………………………………………………」

ヒルデガルド、武官たちは全員無言、リオネルをじっと見つめ、話を聞いている。

「……さて、うんちくはそのくらいにして、実践です。最初はゆっくりで、徐々にスピードを上げますから、しっかり見ていてください」

リオネルは雷撃剣を持ち、数回素振りをし、ゆっくりと右足を踏み出したのである。
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