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第587話「スケールアップしたイエーラは、この世界での存在感が、著しく増す事となる。 そして……狭量で未熟者だったソウェルの自分も変わる」

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リオネルは雷撃剣を持ち、数回素振りをし、ゆっくりと右足を踏み出した。

そこから、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。

気配を消して歩行するシーフ職スキル『忍び足』を、
リオネル流にアレンジし、鍛錬を重ねた足さばきである。

対して従士長は、ひどく緊張しながら剣を構えていた。
『忍び足』で接近するリオネルをじっと見つめている。

まず足さばきの手本は見せた。

次は体さばき。

最初はヒルデガルドと武官たちへゆっくりと見せる為、
リオネルはまるで脱力したかのごとく、
ゆらゆらと身体を揺らしながら、更に従士長へ接近。

絶対に届かないような位置から、従士長の脇腹へ軽く一撃を入れた。

びし!
ばりっ!

革鎧を打つ音。
雷撃の音。

「ぎゃう!」

短く悲鳴をあげ、崩れ落ち、膝をつく従士長。

おお~!と武官たちから、大きなどよめきが漏れた。
ヒルデガルドも固唾を飲んで見守っている。

リオネルは、雷撃の為、くたっとした従士長へ近づき、
すかさず最上位ランクの回復魔法『全快』を行使。

あっという間に回復した従士長は「参った!」という感じで、
苦笑しながら立ち上がった。

従士長が立ち上がったのを確認してから、
リオネルは、ヒルデガルドと武官たちへ声を張り上げる。

「皆さん! 今の俺の一連の動き、そして攻撃で分かりましたか? 自分の『間』をしっかりと認識しながら、隙をつき相手へ攻撃し、確実に倒す事を心がけてくださいね」

リオネルはそう言うと、
「今度は俺の攻撃を避けても構いません」と、
従士長へ頼み同じ動きを3回繰り返した。

従士長も受けて立つが、リオネルの攻撃は当てる事無く、ぎりぎりの寸止めとした。

またリオネルの剣撃は鋭いだけでなく、きわどい視点の死角をつく。

それゆえ従士長は3回とも避けきれず、雷撃剣をすんでのところで止めて貰う。

「ふう~」と息を吐く従士長は、
雷撃を喰らう事がなかったと、安堵しているようだ。

そんな従士長を見て、リオネルは微笑む。

「さて、次は防御の手本を見せます。攻撃同様、従士長さんの攻撃、対する俺の体さばき、足さばきに充分注意してください。ちなみにこちらは格闘技の際にも応用出来ます」

「…………………………………………」

リオネルの指導に対し、ヒルデガルド、武官たちは、無言で聞いていた。

「では、従士長さん、お願いします。俺は反撃しません。だから遠慮なく、本気で打ち込んでください」

「わ、分かりましたあ!」

今度はリオネルが構え、待ち、従士長が打ち込む形だ。

「いつでもどうぞ」

「い、行きますっ! でああああっっ!!」

従士長はここで手を抜いたら、絶対にかなわないと考えたのだろう。

だだだだだだだだだだ!と駆け、突っ込んで来る。

そして剣を振りかざし、結構な速度の剣撃けんげきを繰り出して来た。

しかし、リオネルはスウェー、ダッキング、ウェービング、
サイドステップ、バックステップを華麗に駆使。

従士長の剣撃を、全て軽々とかわしてしまったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

リオネルの『素晴らしい手本』を見たヒルデガルドと武官たちは、
気合が入ったのか、一斉に訓練を始めた。

武官同士ペアとなり、攻防の体さばき、足さばきを繰り返し行う。

当然というか、お約束というか、リオネルはヒルデガルドとペアを組み、
彼女へじっくりと、剣技の基礎を教えた。

その間、随時、従士長以下武官たちにも、指導を行う。

リオネルの指導は相変わらず、簡潔明瞭。
腰が低く、丁寧で、不明点があればすぐ答えてくれるので大好評。

論より証拠。
そばに置かれた倒したオークキングどもの死骸が、
訓練に励むヒルデガルドと武官たちのモチベーションを著しく上げ……

比例して、リオネルへの信頼度もますます上がった。

……そんなこんなで午後4時。
タイムリミットとなり、ヒルデガルドと武官たち全員に惜しまれながら、
訓練は終了。

予定では、格闘術の指導も行うはずであった。
だが、ヒルデガルドと武官たちからの質問と
それに伴うリオネルの回答、手本披露と実践がとんでもなく増え、
結局、剣技の指導のみとなってしまった。
しかし、「予定は未定」と意に介さず、リオネルは笑顔であった。

さてさて!
訓練が終わったら、明日の打合せを行わねばならない。

リオネルが地属性魔法で生成した、
岩石製防護壁沿いにある町村の首長以下、住民たちへ、
長年その地域を苦しめたオーク討伐完遂の報告と、
いきなり出現した巨大な岩石製防護壁の事情説明を行うからだ。

リオネルとヒルデガルドの訪問は勿論だが、
武官と事務官も若干名同行する事となっている。

ちなみに明日訪問する事は緊急の魔法鳩便にて、各所へ伝えられている。

官邸へ移動し、あれこれセッティングする時間も惜しいので、
効率を考え、同行する武官に、事務官も呼び、そのまま訓練場で打合せをする事に。

……打合せは、さくさくと進んだ。

事務官たちは、魔法鳩便を各所へ送り済みとの事。

そこから段取りも確認しながら、スケジュールと内容を決めて行く。

……結果、集合は午前9時前に、官邸玄関前と決定した。

そして赴く者が全員集合後、リオネルの転移魔法で現地へ直接移動。
各所を回り、首長、住民と話し、救援物資等々を配給。
午後4時には官邸へ帰還する予定だ。

更に、明後日の朝には、都フェフの中央広場へ、
オークキングどもの死骸をさらす事も決定した。

都からオーク討伐を発信する事で、イエーラの治安向上をアピールするのだ。

また、原野、荒野を開拓し、農地にし、食糧増産を図る件。
イエーラにおける商会を設立、他国と交易を開始し、生活物資を購入する件。

……等々が、リオネルから提案&ざっくり説明された。

各事業に関して、リオネルが先駆けて仕事にあたり、
軌道に乗りそうな時点で、引継ぎをする方針だとも伝えられる。

リオネルの話を聞きながら、ヒルデガルドは感じている。
否! 確信していた。

これから……イエーラは、大きく変わる。

間違いなく国は富み、強くなる。

スケールアップしたイエーラは、この世界での存在感が、著しく増す事となる。

そして……狭量で未熟者だったソウェルの自分も変わる。

目を覚まさせてくれたのは、祖父が連れて来てくれたリオネルのお陰……

大きく頷いたヒルデガルドは、身振り手振りを交えて話すリオネルを、
熱く熱く見つめたのである。
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