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第646話「手を伸ばせば触れられるくらい近くにドラゴンの死骸がある!」

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「閣下、大丈夫です。心配はご無用ですよ。自分はひとりで一度に5体のドラゴンや、ヒュドラと戦った事もありますし、ギルドマスターにはお伝えしてありますが、従士も何体か呼び出し、対応しますので」

リオネルはさわやかに笑い、「自身とヒルデガルドのみで戦う」
と、きっぱり宣言した。

そして単身でドラゴン5体、ヒュドラとも渡り合った事も告げた。

但しコレ、実際の話と比べれば、だいぶ少く告げていた。

フォルミーカ迷宮探索において、
リオネルは一度に、10体以上のドラゴンに囲まれ、難なく撃退した事がある。
また体長20m以上ある9つ首のヒュドラも、あっさり倒した事があるからだ。

しかし、話を抑えめにし、「ドラゴン5体やヒュドラと戦った」と告げただけでも、
宰相ベルンハルドは驚愕する。

当然かもしれない、一度にドラゴン5体と戦う勇者など、誰も聞いた事はない。

「な!!?? ひ、ひ、ひとりでド、ドラゴン5体と!!?? ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒュドラも!!??」

「はい、召喚した従士のフォローもありましたが、結局、全てノーダメージで退けました」

「はあ!!?? ノ、ノーダメージ!!?? ま、まさか!!?? た、確かに関係者の証言や冒険者ギルドのデータベースを始め、いろいろ証拠はあるが……」

「まあ、そうですね」

「つい失礼な物言いを度々して申し訳ないのだが……にわかには信じられない!!」

「ははは、宰相閣下のお気持ちも良く分かりますよ。自分もそうですが、人は誰もがまず、自分自身で見たものしか信じませんしね」

「むうう……」

ズバリ言われ、口ごもるベルンハルド。

ここでリオネルは、マウリシオへ呼びかける。

「ギルドマスター、お願いがあるのですが」

「お、お願い? な、何でしょうか、リオネル殿」

「はい、いきなりの質問ですが、冒険者ギルドは、倒した魔物の死骸買取を行っていますよね?」

「あ、ああ……武器防具、薬品、魔法ポーションなどに2次加工可能な部位は買い取っていますよ」

何を今更?
そんな事は常識だろう?
という表情でマウリシオは言った。

そんなマウリシオへ、リオネルは告げる。

「であれば、今後、いろいろ物入りになりそうなので、リーベルタース支部で自分が倒したドラゴンの死骸を買い取って頂けませんか?」

「え!? リ、リオネル殿は、た、倒したドラゴンの死骸を!? お、お持ちなのですか!?」

「はい、空間魔法で何体も保存していますから、今すぐに取り出せます」

そう、リオネルはフォルミーカ迷宮の深層で倒して修復したゴーレムだけではなく、
同じくドラゴンや魔物の死骸も、大量に所持していた。

あって困るものではないし、そのまま放棄するのは勿体ない。
後で、物入りな時に現金化すれば良いと考えたのだ。
当然、かさばらないよう全て収納の腕輪へ搬入してある。

話を聞いたマウリシオは驚きの連続である。

「く、空間魔法で!? ド、ドラゴンを何体も!? そして今すぐに取り出せる!?」

「はい、という事で、ドラゴンの死骸を買取の際、宰相閣下にもご覧になって頂きましょう」

リオネルはそう言うと、ベルンハルドへ向き直り、

「宰相閣下、ご多忙のところ恐縮ですが、少々お時間を頂戴したい。論より証拠、自分が倒したドラゴンの死骸をご覧になって頂けますか?」

丁寧に一礼したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

この世界において、ドラゴンは破壊を具現化した巨大な魔物。
最強レベルの存在である。

相対あいたいし、立ち向かう者は、
喰われたり、焼かれたり、嚙み砕かれたり、引き裂かれたり、
踏みつけられたり等々、リアルな『死』を覚悟しなければならない。

完全に息の根を止められた害のない死骸とはいえ……
人間は、そんなドラゴンを見る機会など滅多にない。
生まれてから死ぬまで、姿を見ない方が普通なのだ。

せいぜい遠目から、暴れまわる姿をちらりと見て、
気付かれないよう、すかさず逃げるレベルである。

それゆえ、誰もが怖いもの見たさで、一生に一度くらいは、
「怖ろしいドラゴンを間近でじっくり観察してみたい」という、
隠れた真逆の欲求を持っていた。

高貴な生まれの王族で、
王に次ぐ宰相の地位にあるベルンハルドも例外ではなかった。

死骸を見る事を了承したベルンハルドに相談し、マウリシオが用意したのは、
今居る王宮から最も近い王立闘技場である。

王立闘技場の広大なフィールドならば、巨大なドラゴンを『展示』出来るからだ。

……という事で、全員で王立闘技場へ移動。

使いを飛ばし、冒険者ギルドから鑑定スキルを持つ買い取り部門のスタッフも来て、
いよいよドラゴンのお披露目である。

リオネルがフォルミーカ迷宮で倒した数多のドラゴンは、
様々な種類で、大きさも千差万別。

どれを見せて買い取って貰うか迷ったが、結局はノーマルタイプのドラゴンで、
体長20m強のものと決めた。

例の案件の首魁たるドラゴンに最も近い個体だと思ったからである。

念の為、説明すると、ドラゴンの死骸から採取出来る鱗付きの皮、爪、牙などは、
武器防具の材料となり、内臓からは薬や魔法ポーション、肉は珍味として使われ、
無駄にする部位がない。

ドラゴン製の武器防具は耐久力に優れ、魔法抵抗もある為、
討伐が超高難度な、その希少価値と合わせ、とんでもなく高価なものとなるのだ。

「では、ドラゴンを出しますね。5、4、3、2、1、搬出!」

大勢のギャラリーが見守る中、リオネルがカウントダウン。
どどん!という感じで、何もなかったフィールドにドラゴンが現れた。

当然だが、ドラゴンは、ぴくりとも動かない。
完全な『しかばね』である。

おおおおおおっっっっっっっっ!!!???

間近でドラゴンを見たギャラリー達からは、驚きとどよめき、
「お、おい!? ほ、本物か!?」なんて声も混ざっていた。

手を伸ばせば触れられるくらい近くにドラゴンの死骸がある!

そんな現実をつきつけられ、アクィラ王国宰相ベルンハルド・アクィラは、
大きくかっと目を見開き、ドラゴンをじっと見つめている。

そんなベルンハルドの様子を見ながら、
リオネルとヒルデガルドは、念話で会話を交わす。

『さすがです! 凄いですわ、リオネル様。私もこんなに近くでドラゴンを見るのは初めてです』

『そういえば、イエーラで、ドラゴンの死骸を見せた事はなかったですね』

そんな心の会話を交わしながら、リオネルとヒルデガルドは見つめ合い、
柔らかく微笑んでいたのである。
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