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第650話「うわ! 検問所で魔獣兄弟に、にらまれるなんて、まさに冥界そのものじゃあないですか!」

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打ち合せの翌日、リオネルとヒルデガルドは、たった1日で現地調査を終え、
「即、出撃可能だ」と、ギルドマスターのマウリシオへ告げた。

見届け役たる騎士隊の準備が出来れば、すぐに出発出来ると。

それを聞き、マウリシオは、おいおいおいおい!と大慌てした。

寝耳に水。
まさか!?という感じだ。

無理もない。
叩き上げの経験豊かなギルドマスターのマウリシオにしても、
リオネルとヒルデガルドは、規格外の常識外れ。

ドラゴンどもが跋扈ばっこする危険な出没地域へ赴くだけでも大変なのに、
たった1日で現地調査を終え、
更に出撃準備も整えるとは想像さえしていなかったから。

早く報せなければと、焦ったマウリシオは王宮へ走り、
王国宰相ベルンハルドへ謁見を申し込み、何とか時間を貰い、
リオネルとヒルデガルドの伝言を伝えた。

するとマウリシオ同様、そんなに早く現地調査が完了すると、
思っていなかったベルンハルドも大いに驚き、
準備中の騎士隊へ、大至急、出撃準備をするよう命じたのである。

今回、見届け人としてベルンハルドから指名されたのは、
アルヴァー・ベルマン侯爵である。

長きにわたる国難の解決をはかり、終止符を打つのを見届けるのは、
騎士隊、王国軍の統括最高責任者たるアルヴァーが相応しいという、
ベルンハルドの判断である。

ちなみに宰相ベルンハルドはアクィラ王家の王族貴族で爵位は公爵であり、
アルヴァー侯爵の直属の上席にあたる。

そのアルヴァーも、打合せから出発は、最低1週間はかかると見ていたから、
命令が下され、大慌てした。

だが、さすがにメンツを重んじる上級貴族。
配下の騎士100名を𠮟咤激励し、何とか3日で準備を整えたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

……という事で何とか準備を整えたアルヴァー率いる騎士隊は、
武器防具などの装備品、食料、薬品など一式を揃え、従軍するが、
今回の討伐はリオネルとヒルデガルドに全てを任せ、
戦闘への参加は不要と言われていた。

常識的に言えば、精鋭といえど騎士一個小隊100名だけでは、
強靭なドラゴンども10体超には到底、敵わない。
空から襲うワイバーンも居るから尚更だ。

これまで討伐軍に加わり、ドラゴンどもと戦った騎士達や王国軍兵士達は、
その事実が骨身にしみている。

なので、いきなりたったふたりで戦おうという、
冒険者のリオネルと異種族たるヒルデガルドを、
無謀な輩どもで、愚かな極みとあざ笑っていた。

王国軍兵士はともかく、誇り高い騎士達は元々冒険者全体をうとんじていたから、
ギルドのデータベースをあまり信用せず、
ランクSでドラゴンスレイヤーというリオネルの実力も全く分かってはいない。

今回は「戦わずとも構わない。リオネル達が討伐するのを見届けるのみ」
という命令を聞き、これ幸いとばかりに、
『高みの見物』をしようとも考えていたのである。

さてさて!
双方で連絡を取り合い、時間のすり合わせをし、折り合いがつき……
アクィラ王国中に魔法鳩便で、ドラゴン討伐を告知。
出没地域付近の住民達には改めて避難勧告を出す旨を通知。
準備が整った一行は、リオネルが報告をしてから、
ようやく1週間後の午前6時に出発する事に。

革鎧姿で背負い搬送具を使い、最初からヒルデガルドを背負ったリオネル。
馬車や馬を使うのではなく、ふたりはこのスタイルで移動し、戦場を駆けるのだ。

これは事前調査の時と全く同じで理由は簡単。

現場に早く到着出来るのは、メリットなのだが、
移動手段の馬や馬車はかえって足手まといになるからである。

但し、今回は街道ではなく、
リーベルタースの正門を出るすぐ前に、リオネルは従士達を召喚。

それも無詠唱で召喚可能なのに、リオネルは敢えて、
肉声で周囲に響き渡るよう呼んだのである。

「ケルベロス!! オルトロス!! グリフォン!!」

召喚された3体は、当然擬態した姿。
体長2m超シルバーグレイの灰色狼、漆黒の灰色狼、
そして、大空をゆうゆうと飛ぶ大鷲であった。

ちなみに念の為、誇り高い鳥の王ジズをグリフォンと呼ぶのは、
本人へ事前に事情を伝え、了解を得ていた。

また怖ろしい本体の姿ではリーベルタースにパニックを巻き起こすからと、
擬態の理由も公表済み。

それゆえ3体を見て、出発を見送る宰相ベルンハルド、周囲の騎士達、
見守る観衆からは、「おお!! これが!!」と大きな歓声が上がった。

敢えてリオネルが、従士達の存在が知られるよう公表し、
騎士達と公衆の面前で呼んだのは、ふたつの意味があった。

リオネルとヒルデガルドのふたりでドラゴンどもと戦うにあたり、
名だたる魔獣達へ加勢を頼み、無茶な真似ではないと知らしめる事がひとつ。

そして、もうひとつは、いずれ交易を始めるであろうアクィラ王国へ、
牽制をする意味もあったのである。

こうしたリオネルの意図は、当然ながら事前にヒルデガルドへも、伝えてある。

『リオネル様』

『はい、何でしょうか、ヒルデガルドさん』

『私は以前にも言い、今回もそう思いましたが、リオネル様は本当に先々の事を考えておられるのですね』

『はい、先々の様々な可能性について、対策を考えながら行動していますよ。完璧にとはいかず、まだまだ甘くて未熟なのですがね』

『いえいえ、今までの結果を見れば、全然未熟ではありませんわ。リオネル様の深謀遠慮、私も見習いたいと思います』

『まあ、備えあればうれいなしとなるので、先読みの訓練は、少しづつでも、今からしっかりとやっておいた方が良いでしょう』

『分かりました!』

『そもそも従士を使う話は、アクィラ王国にて依頼を受ける際、前もって話した方が良いと考えてはいましたし、このタイミングでオープンにするのがベストだとも思いました』

『ええ、昨夜リオネル様がおっしゃった通りだと私も思います。複数の首と蛇の尾を持つ冥界の魔獣ケルベロス、オルトロスの兄弟に、鷲の翼を持つ巨大な獅子グリフォンに擬態した鳥の王ジズ、彼らほどの猛者もさが3体も加勢すれば、リオネル様と私だけでもドラゴンどもに対抗出来ると考えるでしょうね』

『はい、少なくとも、たった2名で突っ込むとは無謀で愚か者め、とは言われないと思います。以前ギルドの資料で読みましたが、ケルベロス一体だけで、騎士の一個連隊にも匹敵すると言われてますからね』

『ですよね! という事は魔獣3体で騎士数千人相当ってところでしょうか』

『ええ、そんなところでしょう。そしてドラゴン討伐後は、騎士達の態度は一変し、俺とヒルデガルドさんへは、一目も二目も置くと思います』

『うふふ、楽しみですわ』

『それにちまたでケルベロス達の名が広まれば、ますます良い事になります』

『え? 巷でケルベロス達の名が広まれば、ますます良い事になる? ……のですか?』

『はい、実はケルベロス、オルトロスには開国後、交易の窓口となる特別地区の門番も務めて貰おうと考えています。よこしまな奴らがイエーラへ入国しようとするのを阻止、排除する為です』

『ケルベロス、オルトロスに特別地区の門番を!? な、成る程! 魔獣兄弟に入国チェックをして貰うのですね?』

『はい、強靭な冥界の門番がにらみをきかせる町だと周知すれば、イエーラへ来て、悪さをしようとする者は、はなから入国を諦めたり、来訪しても検問所でオミットされるでしょう。となれば純粋に商売をしようという者だけが入国する確率は高くなるのではと思います』

『うわ! 検問所で魔獣兄弟に、にらまれるなんて、まさに冥界そのものじゃあないですか! ぞっとしますわ……』

『でしょう? まあ、万事上手く行くかは、やってみなければ分かりませんがね。行かない場合の対処も考えておきましょうか』

念話で、そんなやりとりをヒルデガルドとしたリオネルは、手を大きく打ち振り、

「では、アルヴァー・ベルマン侯爵閣下と麾下の騎士様。我々は出発致します!」

と、アルヴァーと騎士隊へ声を張り上げたのである。
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