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第651話「語り継がれた伝説の勇者でさえ、遠く及ばないスケールである」

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リオネルとヒルデガルドは、アルヴァー・ベルマン侯爵指揮の騎士隊100名とともに、アクィラ王国王都リーベルタースを出発。

先日事前調査の為、赴いたばかりの現場、ドラゴンどもの出没地域へ向かった。

進む並びとしては、魔獣兄弟ケルベロスとオルトロスが街道を先導。
魔獣兄弟の上空30mをジズが飛ぶ。
リオネルと、おぶさったヒルデガルドは、徒歩。
その後に続く騎士達は全員が騎馬である。

念の為、究極の防御魔法『破邪霊鎧』をかけているのは、
もういつものお約束。

ここで思い出して欲しい。

誰もが初めて、リオネルの実力を目の当たりにして思う事。
それは……とんでもなく規格外という事である。
修業時代の祖国ソヴァール王国の冒険者達に始まり、
現在、背に居るヒルデガルドまで、
出会う人々全てが桁外れなリオネルのスケール、大器ぶりに驚嘆したのだ。

アクィラ王国宰相以下の面々もそうである。

擬態ゆえ、見た目はやや迫力ダウンといえど、
リオネルが召喚した従士達は全て名だたる魔獣。
なので、事前に知らされていたとはいえ、騎士達は度肝をぬかれた。

更に騎士達はリオネルの持つ身体能力にも驚愕する事となる。

リーベルタースの正門を出た段階で、
馬の代わりとなりヒルデガルドを背負うリオネル。
それを見て、まるで不釣り合いな弟が、
美人の姉を背負っているようだと笑った騎士達。

悪質ないたずら心がわいた騎士達は、
あろうことか背後から騎馬で、ふたりをあおってやろうかと考えていたらしい。

だが、彼らの危険で邪な心の波動を察知し、リオネルは声を張り上げる。

「侯爵閣下、騎士の皆様! 失礼して、我々は先に集合地点へ行きますねえ!」

響き渡る大音声でそう言ったリオネルは、たったったっ!と走り出した。

走り出したリオネルを見ても、最初騎士達は全然余裕であった。
走る事に関し、人間は馬に敵うはずがないと常識の範囲内で考えていたからである。

しかし、リオネルは良い意味で『常識外』が人間になったようなものである。
徐々に速度を上げ、すぐに時速100㎞で疾走。

ちなみに馬はギャロップ襲歩においてだいたい時速70㎞超で走れるが、
その最高速度のまま、長時間にわたる走行は到底無理だ。

あおろうとしていた騎馬の騎士達は、あっさりとぶっちぎられ、
どんどん引き離されてしまう。

「う、う、うえ!!!??? な、な、何だあ!!!???」

という事で、あっという間に見えなくなったリオネルとヒルデガルド。

人間技とは思えないリオネルの脚力を見て、慌てふためく騎士達だが、
潰れてしまうから、さすがに馬に無理はさせられない。
馬が極端に疲労しないよう、速度を抑えつつ、引き離されまいと必死で追いかけた。

そんなこんなで、先行したリオネルだが、
そのまま集合地点へ行くほど底意地は悪くない。

集合地点少し手前の街道上で待つ事に。

騎士達を待ちながら、リオネルは一旦ヒルデガルドを降ろし、ふたりは休憩をとる。

しばしの後、ようやく追いついた騎士達を見て、
並んだリオネルとヒルデガルドは、大きく手を打ち振ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

先読みと言うか、深謀遠慮と言うか、
こうなる可能性も考え、リオネルは『集合地点』を決めていた。

その集合地点とは、ドラゴンどもが出没する領域にある、とある廃墟である。

ドラゴンどもの相次ぐ襲撃で、今や無残な廃墟となってしまった町で、
現在人間はひとりも住んではいない。

ここを討伐の総本部とし、騎士隊は駐屯するのだ。

……という事で、まずはアルヴァー・ベルマン侯爵へ依頼し、
先に連絡しておいた周囲の町村へ、魔法鳩便で避難勧告を出して貰う。

一行が数日待機し、住民達が安全な場所まで避難した後、
リオネルとヒルデガルドは出撃し、ドラゴンどもを討伐する。
そして討伐終了後に、騎士隊により現場確認をして貰い、
リーベルタースへ帰還する段取りであった。

しかし、リオネル、ヒルデガルドと入れ違いで、
この総本部にドラゴンどもの襲撃を受けたら、
騎士たった100名ではあっさり全滅してしまうじゃないか、という懸念が生まれる。

実際、王国宰相ベルンハルド・アクィラはリオネル、ヒルデガルドとの打合せの際、その懸念を投げかけて来た。

対してリオネルは、
「ヒルデガルド様と自分が出撃中は、警護の従士を残して行きます」
と告げたのである。

なのでリオネルは改めてアルヴァーへ、

「打合せ通り、騎士様達の護衛に、オルトロスを残して行きますね」

と告げた。

だが、オルトロスは陸戦タイプである。

「万が一、ワイバーンによる空からの襲撃を騎士隊が受けたらどう戦い、どう守るのか?」

という質問がベルンハルドから為された。

その答えは、
「大丈夫です。索敵可能な警護担当の従士による対空迎撃の手立てを考えていますし、最悪グリフォンを回します」というもの。

これが今初めて、騎士達に披露される。

「オルトロス! 天空へ炎を吐け!」

うおん!と吠えたオルトロスは、カっと口を開け、
天へ届けとばかりに、ごおおおおおお!と数十mも伸びる猛炎を吐いた。

この猛炎でワイバーンによる空の迎撃は対応OKという意味なのであろう。
ジャストなデモンストレーションである。

傍らに待機する兄ケルベロスも、
弟オルトロスが紅蓮の炎を吐くさまを平然と見つめていた。
これくらい楽勝という雰囲気が漂っている。

漆黒の巨大灰色狼に擬態していたオルトロスが紅蓮の炎を吐いたのを見て、
騎士達は、目の前のオルトロスがやはり冥界の魔獣なのだと思い知ったようである。
また「ケルベロスもやはり本物なのだろう」と考えているに違いない。

「オルトロスには索敵と敵襲の際の迎撃を命じておきます。騎士1,000人超に匹敵する彼のみで充分だと思いますが、増員で、更にゴーレムを出しますね」

リオネルはそう言うと、身長3mにもなる鋼鉄製のゴーレムを100体搬出する。

ま!ま!ま!ま!ま!ま!ま!ま!ま!ま!
ま!ま!ま!ま!ま!ま!ま!ま!ま!ま!

独特な声をあげ、出現した鋼鉄の戦士達。
呆気に取られる騎士達の前に立ち、がっつり強固な壁となる。
否、ぐるりと騎士を取り囲んだ難攻不落な鋼鉄の砦となるだろう。

「ゴーレムには基本的には動かず専守防衛を、危急の際のみ反応させ、敵から騎士様達を守るよう命じておきます」

事前に聞いていた10体の従士どころではない。
魔獣兄弟にグリフォン――実はジズ、そしてゴーレム100体を従えるなど、
語り継がれた伝説の勇者でさえ、遠く及ばないスケールである。

「リ、リオネル殿!」

「はい、侯爵閣下。まだ護衛の数が足りませんか?」

「い、いや、充分だと思うぞ……」

「そうですか、ではしばらくしたら、ヒルデガルド様と自分は出撃しますので、皆様は野営の準備をしてください」

「わ、分かった!」

「護衛は居ますが、念の為に皆様も出来る限り、ご自分の身をお守りになるようお願い致します」

リオネルはそう言うと、背負ったヒルデガルドと話し、双方の確認を行い、
そのまま出撃したのである。
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