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第652話「……ケルベロス、さくっと頼む」

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「護衛は居ますが、念の為に皆様も出来る限り、ご自分の身をお守りになるようお願い致します」

リオネルはそう言うと、背負ったヒルデガルドと話して相互の確認を行い、
そのまま出撃した。

事前に打合せした作戦通り、シルバーグレイの灰色狼に擬態したケルベロスが先行し、その頭上を大鷲に擬態したジズが飛翔する。

そして従士達に先導されながらヒルデガルドを背負い、
たったったっ!と走るリオネル。

走りながらリオネルとヒルデガルドは、会話を交わす。

ふたりのやりとりは、最近ヒルデガルドがすっかり上達した心と心の会話、
『念話』である。

『リオネル様』

『はい!』

『出撃の並びはそうですが、念の為、確認です。作戦は昨夜打合せした通りでしょうか?』

『です!』

『先ほど別れたアルヴァー・ベルマン侯爵様と騎士様達は、私達がドラゴンを討伐するまで、あの離れた町の廃墟――討伐の総本部で待機される事となってていますし、周辺の住民は全て安全な場所へ避難させているのですよね?』

『はい、その通りです!』

『更に申し上げれば、従士達の報告に加え、張り巡らされたリオネル様の索敵により、人間やアールヴ族などの反応はこの領域に完全に皆無。ならば、私達の戦闘に巻き込まれる人的被害はほぼ100%心配ないですよね?』

『ですね!』

『であれば! 第三者の視線がない事は確認されていますから、リオネル様は公にされず厳秘されている古代魔法、全ての属性魔法、スキルなど、堂々と使え、存分に力を振るえますね』

『ええ、本日は秘した力を振るいます。ですが、秘した力を振るえるのは俺だけではなく、ヒルデガルドさんも同じですけどね』

『うふふ、ですよね! これまで私は表向き、水の魔法使いという事になっていますから、本日は心置きなく風の魔法も使ってみます』

『了解です。念の為、ドラゴン、ワイバーンは死骸を確認及び二次使用する為、討伐する際、全損は避ける事、但し危険を伴う場合はその限りではない……です』

『はい、リオネル様。私も了解致しました!』

『従士達へも、もろもろ周知してありますから、戦う際は心がけるはずです』

『ですね!』

王国宰相ベルンハルド・アクィラから、討伐したドラゴン、ワイバーンの死骸は、
全てこちらで回収OKとの許可を得ている。
報奨金金貨3万枚と合わせ、結構な実入りになるだろう。

さてさて!
戦いにおいては、まず情報を制するのが勝利への近道。

ケルベロス、オルトロス、ジズの索敵による随時の報告、
そしてリオネル自身の索敵により……
巣穴にこもるドラゴンと一部のワイバーン、周辺を飛翔する残りのワイバーン、
この領域における敵の所在は既に全てを把握していた。

そして、気になる作戦はドラゴンども複数から集中攻撃を浴びないよう、
従士達が様々な方法で群れを撹乱、基本的に分断して各個撃破。
戦法は基本的に攻撃魔法を行使、それにスキルと剣技等を織り交ぜる。

『ヒルデガルドさん、ボスのドラゴンは巣穴に居ますけど、そろそろ領域を飛翔する手下のワイバーンとは遭遇しそうです。すぐ戦えるよう、スタンバっておいてください』

『分かりましたわ、リオネル様。いつでも攻撃魔法を撃てるよう準備しておきます』

そんな会話をしつつ、進んでいると早速ジズがワイバーン2体に接近。

大鷲に擬態したジズに気付いたワイバーン2体は、餌として喰い殺そうと
威嚇しながら接近して来たのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

しかし!
格からいえば、ドラゴンの中ではさほど強者ではないワイバーン如き、
鳥の王たる巨大魔獣ジズにとって敵にもならない存在。

ジズは、ちらっとワイバーン2体を一瞥。
接近してリオネルとヒルデガルドの居る方向へおびき出し、
誘う様にしばし飛んだ後、反転。
わざと軽度の風攻撃魔法『風弾』を放つ。

ばびゅっっ!!ばびゅっっ!!

どしゅっ!! どしゅっ!!

ぎゃ!!?? ぎゃうう!!??

風弾を受け、情けない悲鳴を発し、驚いたのは2体のワイバーンである。
攻撃魔法を仕掛けたのは何者か?とばかりに大鷲――ジズへ視線を向ける。

超大型の鷲といえど所詮、普通の鳥だろ?と、たかをくくり……
侮って追いかけていたのが、いきなり魔法『風弾』を喰らい、
驚き悲鳴を上げ、ぐらりと身体をよろめかせたのだ。

バランスを崩して地上へ落ちないよう、
腹の痛みをこらえ、ワイバーン2体は翼を動かし、必死に態勢を整えようとした。

さすがにこんなレベルの風弾では、ワイバーンを倒す事は不可能。 
軽度の風弾を放ったジズの意図は倒すのが目的ではなく、撹乱。

攻撃せず撹乱したのは、リオネルが従士達にも周知した、
『討伐したドラゴンの死骸をいたずらに損傷しない』
……の指示を徹底しているからである。

という事でワイバーン2体が慌てふためき、これでセッティングは完了。
リオネルは背に居るヒルデガルドへ告げる。

『よし! 打合せ通り、ジズが上手くやってくれましたよ! ヒルデガルドさん! さあ今です! 焦らず、ゆっくりとで構いませんから! 落ち着いてよ~く狙って!』

『はいっ!』

リオネルに背負われたまま、ひとつ深呼吸。
じっくりとワイバーンを狙いすまし、ヒルデガルドは風弾を放つ。

どうしゅっっ!!

ヒルデガルドから放たれた風弾は、必死にホバリングする、
ワイバーンの土手っ腹どてっぱらへ、どん!と命中。

リオネルを師とし、日々切磋琢磨した成果である。

だが、腹を貫通するまではいかない。
ヒルデガルドは、上手く魔力を加減したらしい。
彼女は、リオネルの指示をきちんと守っているのだ。

「ぎゃうっっ!!」

先ほどとは比べ物にならない威力の風弾を受け、
悲鳴をあげたワイバーンは痛みに我慢出来ず、バランスを崩し、
地上へと落ちて行った。

どおおお~ん!!と鳴る地響き。

残された1体は呆然としていたが、大音響でハッと我に返り、仲間を追おうとする。

と、そこへ、

どうしゅっっ!! と2発目の風弾がヒルデガルドから放たれ、

「ぎゃうっっ!!」

これまた見事に命中!

2体目のワイバーンは自分が意図しない形で先に落ちた仲間を追い、地上へ。

どおおお~ん!!と鳴る地響き。

『ヒルデガルドさん! 完璧ですね!』

『ありがとうございます! リオネル様のご指導の賜物ですわ!』

『いえいえ、ヒルデガルドさんの日々の努力の結果です。ではケルベロスにとどめを刺して貰います』

『はい!』

『……ケルベロス、さくっと頼む。くれぐれも身体に傷をつけないように、急所をガブっとね』

『うむ、了解しましたぞ、主! お任せください!』

既にケルベロスは、ワイバーンの落下地点へ行き、待機していた。

リオネルの指示を受け、速攻で落ちた2体へ駆け寄り、
それぞれ急所をひと噛み。
さくっと、とどめを刺したのである。
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