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第132話「とんでもないカミングアウト」

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 王国復興開拓省の新規職員募集、公式発表から3日後……
 
 今日も、シモンとエステルのふたりは元気に出勤。
 ふたりの朝はいつものように局長室で、挨拶を交わす事から始まる。

「局長、おはようございます!」

「おはよう、エステル、今日も頑張ろう」

「はい、頑張りましょう! 局長。もうお約束のセリフですが、まずはご報告です」

「ああ、聞こうか」

 エステルから知らされたのは、『朗報』である。

「王国復興開拓省の新規職員募集ですが、応募状況を人事部へ問い合わせたところ、大変な事態となっております」

「大変な事態?」

「ええ、各部門へ応募者が殺到。既に採用枠の100倍以上となっており、人事部がてんやわんやとなっております」

「そりゃ、大変だ! ……とは言っても、ウチもいろいろな仕事で手いっぱいだし、人事の業務も範疇外だから、何か要請があったら、内容等によって協力するしかないな」

「はい、ウチは粛々とやるしかないです。目の前の事を」

エステルの言葉を聞き、シモンは懸念の色を見せる。

「ただ採用に手間がかかり過ぎて、3件の魔物討伐が先送りになるのが宜しくないな。こうしている間も難儀している人がたくさん居るから」

「まあ、そうですね」

 と、ここでシモンがとんでもない事を言い出す。

「エステル、やっぱり、俺が単独で行くのが早くて得策じゃね? さっと行って、ちゃちゃっと処理して来るよ」

「え?」

「だってさ! ケルベロスとゴーレムが居れば、オーガ100体は勿論、ゴブリン2,000体、リザードマン500体も大丈夫だと思うけど」

「はあ!?」
 
 エステルは大いに驚いた後、顔をしかめる。

「局長! 早くて得策じゃね? とか、ちゃちゃっと処理じゃありません! 絶対に駄目。却下です」

 断固拒否、シモンの提案をNGのエステル。
 だが、シモンは苦笑して首をかしげる。

「そ~かなあ。前職のように俺が単独戦闘なら、多少手間がかかるかもしれんけど、今はケルベロスとゴーレムを順番に交代で突出させて、戦えば消耗戦になっても負けないと思う」

「で、ですが!」

「ゴーレムは機敏な人間サイズのタイプも出せるし、魔力も3日間くらいぶっ通しで戦っても大丈夫なくらいは、もつし、全くノープロブレムだよ」

 ひょうひょうとしながらも、あくまで強気のシモン。
 大いに心配しながらも、論破出来ず、エステルは唸る。

「むむむむ……」

 にが虫を嚙み潰したようなエステルに、シモンはにっこり。

「よし! じゃあ、エステルにカミングアウト!」

「は? 局長、カミングアウトって?」

「いや、俺ここまで言うのって不遜だと誤解されると困るから、エステルだけに言う。っていうか内緒にしておいて欲しいけど……」

 シモンは何か重大な秘密を話そうとしているようだ。

「いや、局長が不遜とか、絶対に思いませんけど……」

「じゃあ、言うぞ、俺さ」

「ど、どうぞ…………」

「体長20m以上のドラゴン10体と、同時に戦った事があるから、たったひとりで」

 それはまさに衝撃の告白であった。
 エステルは絶句してしまう。 

「は!!?? な、何ですか、それ!!」

「いや、言葉通り。補足すればリーダー格の30mエンシェントドラゴンの尻尾をつかんで投げ飛ばし、残りの9体を ぼこった上、威圧のスキルを使ったら、全部逃げてった」

「……………」

「て、感じかな」

 シモンの人知を超えた圧倒的な強さを改めて知ったエステル。
 彼女はハッとする。

「……………あ、あの」

「ん?」

「もしかして……」

「もしかして?」

「ラクルテル公爵と引き分けたのって……」

 口ごもるエステルに、シモンはあっさり認める。

「ああ、エステルは鋭いな」

「じゃ、じゃあ!」

「ああ、あの時、ガチマジになる前にあえて引き分けに持ち込んだ。あの場で俺が勝って閣下は勿論、奥様とクラウディアに恥をかかせるわけにいかないからな」

「局長……」

「だから事前に散々魔法でドーピングしたって、強調もした」

「…………」

「でも、あの場で戦った閣下ご自身と、見守っていた奥様だけは気付いていたはずだ。俺が手加減したのをさ」

「だ、だから、おふたりはあっさりクラウディアとの仲を認めた?」

「たぶんな……後、アレクサンドラ長官も気付いていたと思う」

「…………」

「まあ、閣下とは二度と戦わないし、な……そして、俺がもっと強くなれば、閣下の強さは、色あせないし、却って箔も付く。全てが丸く収まるよ」

「…………」

「でも……やっぱり俺、傲岸不遜かな」

「…………」

「ごめん、エステル……」

 申し訳なさそうに謝るシモンを見て……
 エステルは更にシモンが愛おしくなる。
 本当にこの人は優しい。
 そして深謀遠慮だと。

「うふふ、大好きですよ、局長」

 思わず抱きついて、シモンへキスしたくなる衝動を、エステルはぐっと我慢したのである。
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