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第134話「採用において」
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午前中、局内会議で盛り上がった支援開発戦略局。
そのままの勢いで、職員食堂全員ランチを思う存分に楽しんだ。
局員達は各自の課題における確認作業にいそしむ中……
シモンとエステルは午後、人事部との会議へ臨む。
時刻は午後2時から、場所は省内4階、幹部専用の会議室である。
「ケーリオ人事部長、エルノー人事副部長、ご無沙汰しております。今回はお世話になります。何卒宜しくお願い致します」
シモンは若干23歳で、アレクサンドラ長官、リュシー次官、レナ次官補に次ぐ、
王国復興開拓省のナンバーフォー。
何と、人事部のふたりより、席が上に置かれていた。
しかし驕らず、偉ぶらずのシモンはいつも低姿勢である。
「おい、こら」などと威張っても全く意味がないからだ。
そして「ご無沙汰しております」というセリフは尤もである。
シモンはふたりと初対面ではない。
既に数回会っている。
そもそもアレクサンドラ長官にヘッドハンティングされた際、最終的な書類の手続きは、シモンが人事部へ赴き、このふたりと直接行ったのである。
ケーリオ人事部長50歳、エルノー人事副部長43歳は、ふたりとも仕事は出来る男。
だが、対照的なタイプである。
ケーリオは人当たりの良い温厚な常識人。
安全を最優先し、採用に関し、冒険をほとんどしない。
片やエルノーはシニカルで強烈な嫌味を言うとんでもない曲者。
だが、隠された人間の才能を鋭く見抜き、個性の立った奇抜な人間も評価する。
このふたりだからこそ、王国復興開拓省人事部のバランスが取れているといえなくもない。
アレクサンドラが直接引っ張ったシモンに終始気を遣ったケーリオに比べ、
エルノーには散々皮肉を言われ、いじられた事を憶えている。
お前は23歳の線の細い若造。
なのにナンバーフォーの局長などと、重責を背負わされ大変だとか……
宝探しのレジャーハンターキャリアなど、王国国家公務員には全然プラスにならないとか……
終いには、局長の重責を果たせない場合は、さっさと自主退職すべきだとか……
その場に居た温厚なケーリオでさえ、エルノ―を激しく叱責したくらいだった。
しかし、シモンはコルボー商会時代の鬼畜な恫喝に比べれば、これくらいは全然ノーダメージ。
更にシモンの実力を見抜いたのはエルノ―であった。
「23歳にしては、厚顔無恥でオリハルコンのような肝っ玉だ。線が細い見かけとは大違いだな」
ニヤリと笑ったエルノーは、書類に「どこん」と強い圧で承認のハンコを押してくれたのである。
そして紆余曲折あって、久々の再会。
ケーリオは揉み手をし、ニコニコの好々爺と化しているが……
相変わらず、エルノ―は冷たく笑っている。
「よお、シモン君。頑張ってるじゃないか。俺の愛の鞭が効いただろ?」
「ありがとうございます。でも鞭に打たれ慣れた俺だから構いませんが、あまり、やり過ぎると、副部長こそパワハラで退職一直線ですよ」
「ふむ、君の言葉は、忠告としてありがたく受け取っておくよ」
「副部長が居なくなると、寂しいですから」
「ふん!」
シモンのコメントに対し、エルノ―は顔をしかめ、鼻を鳴らして、応えたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
冗談はさておき……
打ち合わせが開始されると、4人のやりとりは真剣であった。
それだけ、今回の王国復興開拓省の新規職員募集は大規模でガチマジなのだ。
まずエルノ―が、応募から採用までの流れを簡単に説明する。
「一般職員に関しての募集概要だが……履歴書の送付を、今月末で締め切る。書類のみの1次選考を、我々人事部が行う。
2次選考は、一般常識筆記試験とスキルチェックを確認する面接で、こちらも人事部が行う。で、3次の集団面接をリュシエンヌ・ボードレール次官、エレン・デュノア次官補、シモン・アーシュ局長、つまり君の計3名で行う。そして個別面接をアレクサンドラ・ブランジェ長官を加えた幹部4名で行う。最終の面接は、アレクサンドラ・ブランジェ長官と受験生1名の、1対1の面接となる」
「へえ、結構な難関なんですね」
シモンは、自分がアレクサンドラにヘッドハンティングされた時の事を思い出した。
あの時は、アレクサンドラとの1対1、簡単な面接と省内の説明くらいで、ここまで段階を踏まなかった。
シモンの言葉を聞き、今度はケーリオ部長が言う。
「当たり前だ、シモン君。君の大活躍で、王国復興開拓省の存在と意義が王国中、否、国外にも広く知らしめられた。エステル君から報告を受けているだろうが、各所から応募者が殺到しているのだ」
「ですよね」
シモンが頷くと、ケーリオが尋ねて来る。
「で、だ。シモン君は、採用にあたって何か要望はないかね?」
エルノ―も続いて尋ねて来る。
「うむ、何でも構わん。言ってみてくれ」
「はあ、じゃあ遠慮なく。……心身が丈夫。つまり頑健でメンタルが強い人。そして器用貧乏より、何かの才能に突出している人。そして良くも悪くも想像力がある人……以上3点ですね」
エステルはシモンの傍らで黙って頷いていた。
同意という事である。
「要望は分かった」
「人事部として最大限考慮しよう」
ケーリオとエルノーも大きく頷いた。
「次にシモン君の支援開発戦略局直属のクランの増員6名、及び応援部隊派遣の100名の募集に関してだ。こちらも騎士隊と冒険者ギルドよる応募が殺到している。
また一般からも応募が数多来ている」
「成る程」
「こちらはランク、スキル、戦歴のチェックの1次選考、模擬戦の2次選考を行う事を検討している」
「2次選考は模擬戦ですか? ……そうですね。俺に考えがあります」
「ふむ、聞かせてくれないか?」
……その後もやり取りは時間いっぱい続けられた。
こうして……
シモン、エステルと人事部ふたりの打合せは無事に終わったのである。
そのままの勢いで、職員食堂全員ランチを思う存分に楽しんだ。
局員達は各自の課題における確認作業にいそしむ中……
シモンとエステルは午後、人事部との会議へ臨む。
時刻は午後2時から、場所は省内4階、幹部専用の会議室である。
「ケーリオ人事部長、エルノー人事副部長、ご無沙汰しております。今回はお世話になります。何卒宜しくお願い致します」
シモンは若干23歳で、アレクサンドラ長官、リュシー次官、レナ次官補に次ぐ、
王国復興開拓省のナンバーフォー。
何と、人事部のふたりより、席が上に置かれていた。
しかし驕らず、偉ぶらずのシモンはいつも低姿勢である。
「おい、こら」などと威張っても全く意味がないからだ。
そして「ご無沙汰しております」というセリフは尤もである。
シモンはふたりと初対面ではない。
既に数回会っている。
そもそもアレクサンドラ長官にヘッドハンティングされた際、最終的な書類の手続きは、シモンが人事部へ赴き、このふたりと直接行ったのである。
ケーリオ人事部長50歳、エルノー人事副部長43歳は、ふたりとも仕事は出来る男。
だが、対照的なタイプである。
ケーリオは人当たりの良い温厚な常識人。
安全を最優先し、採用に関し、冒険をほとんどしない。
片やエルノーはシニカルで強烈な嫌味を言うとんでもない曲者。
だが、隠された人間の才能を鋭く見抜き、個性の立った奇抜な人間も評価する。
このふたりだからこそ、王国復興開拓省人事部のバランスが取れているといえなくもない。
アレクサンドラが直接引っ張ったシモンに終始気を遣ったケーリオに比べ、
エルノーには散々皮肉を言われ、いじられた事を憶えている。
お前は23歳の線の細い若造。
なのにナンバーフォーの局長などと、重責を背負わされ大変だとか……
宝探しのレジャーハンターキャリアなど、王国国家公務員には全然プラスにならないとか……
終いには、局長の重責を果たせない場合は、さっさと自主退職すべきだとか……
その場に居た温厚なケーリオでさえ、エルノ―を激しく叱責したくらいだった。
しかし、シモンはコルボー商会時代の鬼畜な恫喝に比べれば、これくらいは全然ノーダメージ。
更にシモンの実力を見抜いたのはエルノ―であった。
「23歳にしては、厚顔無恥でオリハルコンのような肝っ玉だ。線が細い見かけとは大違いだな」
ニヤリと笑ったエルノーは、書類に「どこん」と強い圧で承認のハンコを押してくれたのである。
そして紆余曲折あって、久々の再会。
ケーリオは揉み手をし、ニコニコの好々爺と化しているが……
相変わらず、エルノ―は冷たく笑っている。
「よお、シモン君。頑張ってるじゃないか。俺の愛の鞭が効いただろ?」
「ありがとうございます。でも鞭に打たれ慣れた俺だから構いませんが、あまり、やり過ぎると、副部長こそパワハラで退職一直線ですよ」
「ふむ、君の言葉は、忠告としてありがたく受け取っておくよ」
「副部長が居なくなると、寂しいですから」
「ふん!」
シモンのコメントに対し、エルノ―は顔をしかめ、鼻を鳴らして、応えたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
冗談はさておき……
打ち合わせが開始されると、4人のやりとりは真剣であった。
それだけ、今回の王国復興開拓省の新規職員募集は大規模でガチマジなのだ。
まずエルノ―が、応募から採用までの流れを簡単に説明する。
「一般職員に関しての募集概要だが……履歴書の送付を、今月末で締め切る。書類のみの1次選考を、我々人事部が行う。
2次選考は、一般常識筆記試験とスキルチェックを確認する面接で、こちらも人事部が行う。で、3次の集団面接をリュシエンヌ・ボードレール次官、エレン・デュノア次官補、シモン・アーシュ局長、つまり君の計3名で行う。そして個別面接をアレクサンドラ・ブランジェ長官を加えた幹部4名で行う。最終の面接は、アレクサンドラ・ブランジェ長官と受験生1名の、1対1の面接となる」
「へえ、結構な難関なんですね」
シモンは、自分がアレクサンドラにヘッドハンティングされた時の事を思い出した。
あの時は、アレクサンドラとの1対1、簡単な面接と省内の説明くらいで、ここまで段階を踏まなかった。
シモンの言葉を聞き、今度はケーリオ部長が言う。
「当たり前だ、シモン君。君の大活躍で、王国復興開拓省の存在と意義が王国中、否、国外にも広く知らしめられた。エステル君から報告を受けているだろうが、各所から応募者が殺到しているのだ」
「ですよね」
シモンが頷くと、ケーリオが尋ねて来る。
「で、だ。シモン君は、採用にあたって何か要望はないかね?」
エルノ―も続いて尋ねて来る。
「うむ、何でも構わん。言ってみてくれ」
「はあ、じゃあ遠慮なく。……心身が丈夫。つまり頑健でメンタルが強い人。そして器用貧乏より、何かの才能に突出している人。そして良くも悪くも想像力がある人……以上3点ですね」
エステルはシモンの傍らで黙って頷いていた。
同意という事である。
「要望は分かった」
「人事部として最大限考慮しよう」
ケーリオとエルノーも大きく頷いた。
「次にシモン君の支援開発戦略局直属のクランの増員6名、及び応援部隊派遣の100名の募集に関してだ。こちらも騎士隊と冒険者ギルドよる応募が殺到している。
また一般からも応募が数多来ている」
「成る程」
「こちらはランク、スキル、戦歴のチェックの1次選考、模擬戦の2次選考を行う事を検討している」
「2次選考は模擬戦ですか? ……そうですね。俺に考えがあります」
「ふむ、聞かせてくれないか?」
……その後もやり取りは時間いっぱい続けられた。
こうして……
シモン、エステルと人事部ふたりの打合せは無事に終わったのである。
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