隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第25話「家族の団らん」

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 その日の午後遅く……
 ダンとエリンは、意気揚々と家へ帰って来た。
 湖で得た、たくさんの『お土産』を持って。
 但しダンが収納の魔法を使っているので、見た目には、何を持ち帰ったのかは分からない。

 あるじの帰還に、例によって『犬』達は嬉しそうに吠え、『黒猫』はマイペースで出迎えもせず屋根の上に丸くなっている。

 屋根の上に居る、不貞腐れた感じな『黒猫』へ、エリンが悪戯っぽく笑う。

「トームちゃん」

「な、何だよ、ダークエルフ」

 いきなり呼びかけられたのと、変に愛想が良すぎる?エリンに、妖精猫ケット・シーのトムはちょっと慌てた。
 しかしトムの返事を聞いて、エリンは口を尖らせる。

「そっちこそ何よ、ダークエルフって……ふうん、エリンの事……今朝みたいに名前で呼んでくれないの?」

 エリンの抗議に、トムはそっぽを向く。

「はん、いつ誰をどう呼ぼうと俺の勝手じゃん。お前をいちいちエリンなんて……面倒臭ぇ……所詮ダークエルフはダークエルフだろ」

「へぇ! 良いのかなぁ? そんな事言ってさ。エリン、トムへお土産あげるの……やめようかな」

 今度は、エリンが腕組みをして横を向いた。
 しかし、天邪鬼なトムは鼻を鳴らす。 

「ふん! 土産だと? そんなの要らねぇよ!」

「本当に要らないの?」

 エリンが再び聞いても、トムは知らんふりである。
 
「要らねぇったら、要らねぇ! ん? それより、お前。さっき帰って来た時から何か焼いたような良い香りがするぞ? ふんふんふん」

 頑ななトムではあるが……ずっと気になっている事があった。
 妖精猫の鼻は、当然鋭い。
 人間の数万倍以上あると言われる猫の、更に上を行っている。
 その鼻がエリンから、何やらかぐわかしい香りが漂って来るのを捉えたのだ。

 トムに、香りの正体の予測はすぐついた。
 「多分そうだろう」と思っていたが、「おかしい」とも思っていた。
 いつものダンなら、すぐにアレをトムへ誇らしげに見せてくれるのに。
 
 でもこの香りは、絶対に間違いない!

 目を丸くしたトムは鼻をひくつかせて、もう一回エリンから漂う香りを嗅ぐ。
 そして確信する。

 やっぱり間違いない!
 エリンから漂う残り香は、トムの大好きな食べ物のひとつだと。

 吃驚したトムは屋根から降りると、エリンの傍へ行き周囲を嗅ぎまわった。
 当のエリンはというと、相変わらず面白そうに笑っている。

「うふふ、ト~ムちゃん、エリンから一体何が匂うのかなぁ?」

「あ~っ、あっ、あ~っ、ああっ! こ、これはっ!? やっぱり!」

 トムの、喉まで出かかった大好きなあの魚。
 しかしエリンはとぼけながら、ここで種明かしをしてしまう。

「うふふ、トム。どうしたの? 変な声出して? ところでさ、『鱒』って凄く美味しいね、最高!」

「ぐはっ、やっぱりそうだよ! 鱒だよぉ! ぎゃう、ぎゃう、ぎゃう! このダークエルフめぇ! 生意気だぞぉ、俺様を差し置いてうっまい鱒を先に食べやがってぇ! 新参者の癖にぃ!」

 思った通りの答えを言われて、大声で罵倒するトムであったが、こうなるとエリンも負けてはいない。

「そんな酷い事言ってるとぉ、ご飯お預けだよ。エリンとダンとワンちゃん達だけで鱒ぜ~んぶ食べちゃおうかなぁ」

 飯がお預け!?
 それも、ご馳走の鱒が、自分だけ食べられない!?

 エリンの意外な反撃に、トムの口調は一気にトーンダウンする。

「くうううう……にゃあ、にゃあん……そんな冷たい事言わないでぇ……ご、後生だから……トムにも……鱒、ちょ~だい」
 
 すると!
 エリンは意外にもあっさりと許し、トムへ優しく微笑んだのである。

「いいよっ、あげるよ! 一緒に食べよう、トム」

 地獄から天国……
 トムの表情は、「ぱあっ」と明るくなった。

「うわぁ、本当に!? ダークエルフ! い、いやエリンちゃんはまじ天使!」

 トムは、慌てて名前を言い直す。
 「ごろごろ」と喉を鳴らしながら、エリンの足に「すりすり」している。

 ふたりのやりとりを、笑顔で見守っていたダンもうんうんと頷く。

「ははは、トムは鱒には目が無いからな」

 鱒が、何よりトムの大好物!
 ダンの言った通りであると、エリンは思う。
 その証拠に……

「へへぇ、エリン姫様~、貴女に一生懸命仕えますから、この哀れな腹ペコの妖精猫に、鱒というご褒美をお恵み下さい~」

 いつの間にか二本足で立ちあがったトムが、王女に対して跪く忠実な騎士のようなポーズを取っていた。
 これはトムが示す、エリンへの愛情だ。
 食べ物で買収されて、節操が無いようにも見えるが、元々トムは不幸なエリンに同情的であった。
 最初のやりとりも、本心からではない。
 だからエリンも、トムに応えてやる。

「うふふ、了解! じゃあすぐ焼くからねぇ」

「にゃあごっ、にゃあごっ」

 『エリン姫』の寛大なる処置にトムはもう狂喜乱舞していた。

「うふふふ」

「はははは」

 その姿が可笑しくてエリンが笑い、ダンも笑う。

 これが、楽しい家族団らんなのだろう。
 ダンの家は、久々に明るい笑いに包まれていたのであった。
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