隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

文字の大きさ
75 / 181

第75話「女子は買い物好き②」

しおりを挟む
「大丈夫さ、実は……」

 心配するニーナに、ダンは自信たっぷりに説明する。
 あくまで、ざっくりとではあるが。

 実は、旅には出ない事。
 行くのは、王都から少し離れた場所、たくさんの山に囲まれた田舎。
 人気《ひとけ》のない草原の小さな家へ、3人で住む事を告げたのである。

 だが……
 ニーナはまだ、話が良く見えない。

 旅に、出ない事は分かった。
 新たな家へ、引っ越す事も理解した。
 しかしその家までは、王都から相当距離がありそうだ。
 どちらにしても、自分の荷物の運搬は大変になるだろう。
 それなのに?

「で、でも荷物が……」

「大丈夫、ここへ入れる」

 ダンが指さしたのは、彼が腰に着けていた小さなバッグである。
 身の回りの小物やもしくは旅をする際の、必要最低限のものしか入らない、小ぶりな黒革製のバッグであった。

「???」

「ニーナ、大きな声を出すなよ。出そうになったら、手で口を押えろ、まあすぐに慣れる」

「???」

 ダンは、荷造りしたニーナの荷物を見た。
 床に置いてあるのは女物の大型バッグ4つ……そのうち3つの中身は服であった。

「先に、手で口を押えていた方が良いかもな」

「は、はい」

 ニーナが言われた通り、手で口を押えると、ダンは指をパチンと鳴らした。
 
 すると!
 
 目の前に置いてあったニーナの荷物が、「すううっ」と消えてしまったのである。

「う! うううっ」

 ダンの指示通り、あらかじめ手で口を押えていたから良かった。
 ニーナは悲鳴を押え、大声を出さずに済んだのである。
 傍らでは、エリンが悪戯っぽく笑っていた。

 興奮を鎮める為に、大きく深呼吸をするニーナ。
 胸の『どきどき』が漸く収まってから、ニーナはダンへ問いかける。

「こ、これは!?」

「俺の作った魔法のバッグさ。仕組みは後で説明するが……一杯入るぞ、大型ドラゴン10体くらいは」

 ダンが平然と言うので、ニーナは口をぱくぱくしてしまう。
 ほんの少し分かって来た。
 
 ダンが魔族なんて、酷い冗談を告げて来た事が…
 そう、ニーナの愛するダンはとんでもない人なのだ!

 呆然とするニーナを他所に、エリンが口を尖らせる。

「ダン、ドラゴンなんて嫌い! 例えが悪い」

 確かに、エリンの言う通りだ。
 収容量の比喩なら、「もっと可愛くお洒落に言うべきだ」と、エリンは言っている。
 可愛い新妻ニーナに気を遣えと、『先輩嫁』として強く主張しているのである。

 ダンも、エリンの言う通りだと思う。
 些細な事でも、男は女に対して優しくあるべきだとダンは思っている。
 愛する妻に対しては尚更だ。

 概して男は、大まかで鈍感である。
 指摘されないと、惨事に気付かない事も多い。
 こうなると、ダンとしては謝るしかない。

「ははは、御免」

 両手を合わせて、変なポーズで謝るダンは可笑しい。
 驚いた気持ちは、いつの間にか消えていた。
 ニーナはつい、笑ってしまう。

「……ぷっ」

「あは! ニーナが笑った」

「うふふ、エリンさん、面白いです」

 ニーナは思う。
 やっぱり、この3人で暮らすのは楽しみだと。
 ダンもエリンも、とても優しい。
 乾いた自分へ、温もりを与えてくれるから。

 しかし、ここでエリンの『指導』が入る。

「ダメ、エリンさんじゃない、エリン姉《ねぇ》でしょ」

「あ、御免なさぁい、エリン姉」

「よっし! OK」

 そんなこんなで、モーリスに見送られて英雄亭を出た3人。
 人気ひとけのない路地で、ニーナの荷物を魔法鞄へ放り込むと、ダンがひと言。

「これからさくっと買い物しよう、アルバート達からも頼まれてるから」

 買い物?
 確かに、これからの共同生活には、いろいろ物入りなのだろう。
 ニーナは、素直に納得した。

 エリンはというと、同じく素直に喜んでいる。

「やった!」

「じゃあ、また市場ですよね? それともどこかのお店ですか?」

 ニーナの問いかけに対し、ダンは答えなかった。
 店に着いてからの、お楽しみっていうところだろう。

「まあふたりともついておいで」

 ダンは右手にエリン、左手にニーナ、ふたりの手を引いて、通りを歩いて行く。
 超絶美少女ふたりを連れたダンに対して、向けられる男達の凄まじい嫉妬目線が怖いくらいだ。

 聴覚の鋭いエリンの耳には……
 男達の「ちっ」「馬鹿野郎」「ぶち殺すぞ」「リア充爆発しろ」等の舌打ちや呪詛の言葉が聞こえて来る。
 しかし、悔しそうな男達はこちらを睨むだけで、エリンが王都に来たばかりの時みたいに声を掛けて来なかった。

 エリンは、感心する。
 夫のダンがエリンとニーナを妻もしくは恋人だと、はっきり『主張』してくれるお陰で、あれほど多かった『ナンパ』が一切無かったのである。

 やがて3人は、大きな建物の前に着く。
 貴族の屋敷のような大きな建物である。

「ここ……ですか? 確か……」

「大きな家だね~」

 立派な大型木製看板には『キングスレー商会 王家御用達』そう書いてあったのである。

 ニーナは、建物を見て少し臆しているようだ。

「私……こんな所、入ったことありません」

 王都暮らしのニーナが、今迄に入った事のない場所?
 エリンは、大いに気になる。
 
「え? どうして?」

「エリン姉は知らないのですか? ここは王家とも取引のある老舗の商会ですよ。お客は、結構なお金持ちばかりです」

 ニーナはさすがに、この『店』の存在だけは認識していたらしい。
 敷居の高い店の威容を見て、やはり腰が引けていた。

 一方、怖いもの知らずで好奇心旺盛なエリンはストレートに聞く。

「ダン、商会って何?」

「大きな店って事さ、さあ入ろう」 

 ダンから促され……
 エリンはわくわく、ニーナは戸惑いながら商会の大きな入り口から中へ入ったのである。
 店内に入ったダンは、勝手知ったるという感じでカウンターへ行く。
 顔見知りらしい、老齢の店員へ何か言うと、話は簡単に通ったようだ。

 店員は左右を見渡すと、ダン達をそっと店内に招き入れ、即座にこの巨大な倉庫へ案内したのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...