隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第114話「エリンの変貌」

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 地下2階に引き続き、ダン達は地下3階を難なくクリアした。
 襲って来た魔物はスライムにゴブリン……
 上層と全く変わらず、幸いルーキーキラーも出現しなかった。

 ちなみに、他の冒険者クランとは、何度も行き交った。
 黙って会釈、または元気よく挨拶、そして無言で通り過ぎる……
 冒険者達の反応は、多種多様であった。
 地下2階で襲われた時に感じた、危険な気配はあまりなかった。

 行き交ったクランの中に、ルーキーキラーは居たかもしれない。
 しかし彼等は普段、『善良』という名の仮面を被り、普通の冒険者を演じている。

 凶行に及ばなければ、醜い正体は露見する事がない。
 もしかしたらダンの素顔を見知る者が居り、ランクBの上級ランカーだと見て、自ら襲撃を回避したかもしれなかった。
 また3人の醸し出す実力者の雰囲気が、彼等の襲撃を逡巡させたかもしれない。

 結局……
 数回ほど魔物との戦いを経て、ダン達は地下4階へ入った。

 迷宮は階層が深くなるほど、魔物は強くなり、様々な仕掛けも増える。
 すなわち地下深くもぐればもぐるほど、リスクが大きくなって行く。
 この人喰いの迷宮も例外ではない。
 地下4階から、出現する魔物のレベルが「がらり」と変わるからだ。
 
 人間より強靭な肉体を誇る人型魔物《ヒューマノイド》のオークの群れ、そして地上の種を極端に巨大化、凶暴化させたような、大蟷螂《ビッグマンティス》など……
 不慣れな冒険者など、あっという間に命を失うレベルの強敵である。
 
 実はこの迷宮で、一番死人が出るのも、ここ地下4階なのだ。
 地下3階まで経験した初心者達はつい気が大きくなる。
 自分達の実力を過信し、勘違いしたまま、この地下4階へ来たとしたら……
 結果は……推して知るべしである。

 しかし地下4階の魔物も、所詮ダン達の行く手を阻むレベルではなかった。

 確かに、油断は禁物だ。
 しかし肩書きこそないものの、実力が全員ランクAといって過言でないクランには、足止めにもならない。

 中でもダンとエリンは実戦を充分に積んでいた。
 問題はヴィリヤだけであったが、マスターレベルの魔法使いである彼女は、既に上層でコツを掴んでいた。
 
 既に戦ったゴブリンやスライムと比べ、オークではレベルに差があり過ぎるが、攻撃方法自体は全く変わらない。
 そもそも『氷化』という魔法が、上層の魔物に対しては過分な攻撃であったのだから。

 地下4階で遭遇したオークは、5体の小さな群れである。

 ここでもダンは、『戦い』をエリンとヴィリヤのふたりに任せていた。
 同じように『氷化』、そして『岩弾』で、オーク達は呆気なく倒される。
 もう、何度も繰り返したパターンだ。

 そしてか細いながら結ばれつつあった絆から、エリンとヴィリヤは勝利した瞬間には『ハイタッチ』するほどの『仲』となっていた。

 それが……この戦いでは、エリンの様子が違っていた。

『エ、エリンさん?』

『…………』

 ヴィリヤは、吃驚していた。
 いつもなら笑顔でねぎらってくれる筈のエリンが。
 明るくハイタッチをするどころか……

 物凄い形相で唇を「ぐっ」と噛み、拳を「ぎゅっ」と握り締めながら、斃れたオーク達を睨み付けていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 その後……
 地下4階では、頻繁にオークが出た。
 エリンとヴィリヤは、当然というか、お約束のように倒した。

 戦いの最中、そして終わった時……
 エリンの表情は厳しいまま、変わらなかった。

 気配を読む能力には長けていないヴィリヤ……でもさすがに分かる。
 エリンの瞳には凄まじい怒りと憎しみ……
 そして同時に、魂からは深い悲しみの波動が、強く強く発せられていたのだ。

『あ、ごめんねっ! ぼうっとしちゃって』

 いきなり謝られて、ヴィリヤはハッとした。
 まじまじと見れば、エリンは哀しく笑っていた。
 怒りと悲しみを、無理やり心の奥に引っ込めたという雰囲気で……

『い、いいえっ』

 ヴィリヤは首を振る。
 言葉が出て来ない。
 「違う、気になどしていない!」
 と、いう最低限の意思だけ送るのが精一杯であった。

『ふふ、じゃあ、ハイタッチ!』

 エリンは、ヴィリヤの手を取った。
 そして軽く合わせた。

 こつん……

 拳に伝わる軽い衝撃が、ヴィリヤを満たす。

 温かい……でも哀しい……
 エリンのぬくもりが、ヴィリヤの心を「そっ」と包む。

 ダンと出会う前……
 故国イエーラに居た頃の、挫折を知らないヴィリヤなら、遠慮なく聞いていただろう。
 エリンが、オークに対してそれほどの憎悪を持つ理由を。
 好奇心旺盛な性格を、あからさまに、むきだしにして。

『…………』

 しかし、全然聞こうとは思わなかった。
 今のヴィリヤには……分かるのだ。
 
 敢えて言葉に出して、聞かなくとも。
 か細いながら、確かな絆が伝えて来る。

 エリンの心の痛みが、魂へ刻まれた深い傷が……
 流れ出る血が、信じられないくらいに多い事が……

 まるで己が体験した過去の……
 忘れ去りたい辛い思い出のような痛みを……
 ヴィリヤは……酷く酷く感じていたからであった。
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