115 / 181
第115話「心の奔流」
しおりを挟む
オークと、数回戦った後……
ダンが、戦法の変更を提案する。
『よし、次からは全員で戦うぞ。俺とケルベロスも加わる』
ダンとケルベロスが戦いに――クランのフルメンバーで戦う。
エリンとヴィリヤの顔がほころぶ。
『全員で?』
『い、いよいよですね』
今迄は、エリンとヴィリヤの『魔法のみ』で戦っていた。
全員で戦うとなれば、どう変わるのだろうか?
『ああ、エリンもヴィリヤも、そろそろ戦いに慣れただろう。なら次は、クランとしての戦い方にチャレンジして貰う』
冒険者クランとしての戦い方。
個ではなく、集としての戦い方。
これまでに、エリンとヴィリヤふたりで戦ってみて、どうにか扉のノブを掴んだ感覚はある。
後はノブを大きく回し、扉が少しでも動いたら、思い切り開くだけだ。
当然、エリンとヴィリヤに異存はない。
『旦那様、了解!』
『ダン、わ、分かったわ』
『よっし、相手が同じであれ、絶対に気を抜くな』
ダンは、ふたりを気遣う。
ここまで……慎重に来たのだ。
当然の事であろう。
個々にも声を掛ける。
『エリン、大丈夫か?』
『大丈夫! 旦那様が居るからね!』
一見元気よく……
だが、僅かにエリンの表情が強張った事に、ヴィリヤは気付いた。
なのに、ダンはあっさりスルー。
ヴィリヤにも同じように声を掛けて来る。
『よっし! ヴィリヤも行けるな?』
『え、ええ……』
いつもの、打てば響けの返事が戻せず、口籠るヴィリヤ。
ダンは、不思議そうな顔付きで尋ねて来る。
『どうした?』
『いえ……何でもないわ……』
ヴィリヤは首を振り、顔を伏せた。
……不思議であった。
オークとの戦いで、エリンの様子が著しく変わったのは、はっきりしていた。
それなのに……
何故?
ダンは、まるで何事もないように振舞うのだろうかと。
そもそもダンは他人の心が読める。
余程の高位レベルの術者でなければ、彼の魔法を防ぐ事など出来ない。
つまり殆どの人間は、ダンの前で誰も隠し事は出来ないのだ。
そのダンが、相思相愛である自分の妻エリンの変貌に、気付いていない筈はない。
愛する者の持つ苦しみが、分からない筈などない。
しかし、ダンは何も言わない。
エリンの心の内に秘めた『事情』は勿論、ヴィリヤが案ずる気持ちも……
そこで、ヴィリヤは一計を案じる。
自分から心を開いたのだ。
絆を結んだ『仲間』が持つ深い悲しみを慈しむ気持ちを……
『仲間』を心の底から思い遣る気持ちを……
大きく大きくさらけ出し、ダンへ強い波動を送ったのである。
だが……
ダンは、ヴィリヤへ何も言わなかった。
淡々と、次なる戦いへの説明を続けて行く。
『良いか、ふたりとも。とりあえず作戦はリーダーの俺が立て、随時指示もする』
『了解!』
『りょ、了解……』
ふたりの返事を聞き、ダンは頷き、話を続ける。
『盾役《タンク》と攻撃役《アタッカー》は俺とケルベロスが担う。回復役《ヒーラー》は俺が兼務。そして今迄通り、後方から魔法を使った攻撃役《アタッカー》と強化支援役《バファー》はエリンとヴィリヤだ』
『了解!』
『りょ、了解!』
エリンとヴィリヤが、またも返事をした、その時。
「うおおん!」
ケルベロスが、鋭く吠えた。
どうやら敵襲らしい。
ダンが、「ナイスタイミング!」とばかりに笑う。
『はは、丁度いい、新手のオーク共だ』
『ぬ! オークぅ! 準備万端だよっ!』
やはりエリンはオークに対し、特別に含むものがあるのだ。
目付きが途端に厳しくなった。
片やヴィリヤは、エリンの辛さ、そして怒りの波動を感じる。
心が「ぎゅっ」と縛られたように、酷く苦しくなる。
何故か、返事も出来ないくらい息苦しい……
『…………』
無言で応えたヴィリヤであったが、
『ヴィリヤ!』
いきなり!
ダンの声が耳元で聞こえたような感覚に陥る。
どうやら、エリンには聞こえない特別な念話のようだ。
何だろう?
急にどうした……と、いうのだろう。
ヴィリヤは、とりあえず返事をするしかない。
『あ、は、はい!』
『…………』
少し、ダンにはためらいがあった。
だが、すぐに彼の声が聞こえて来る。
『もし……何かあったら……エリンを……傍で、支えてやってくれ』
『え!?』
もし何か?
あったら?
エリンを……支える?
唐突なダンの願い。
ヴィリヤは、呆然としてしまう。
『…………』
理由を話して。
と、言いたげなヴィリヤの沈黙に、ダンは答えてくれる。
『あいつの家族は……オーク共に殺されている……』
『え!? そ、そんな!』
『ヴィリヤ、頼むぞ』
『は、はいっ!!!』
エリンの家族がオークに!?
それはヴィリヤにとって、衝撃の事実であった。
でも……
ただ殺されただけではない……何かある。
エリンの様子を見て……
ヴィリヤは、そう感じる。
もし……自分がエリンの立場だったら……
目の前に『仇』が現れたら……
泣き叫び、怒りに我を忘れてしまうかもしれない……
そして……
やはりダンは分かっていた。
全てを分かっていたのだ。
エリンの心に、大きな変化が生じていた事を。
ヴィリヤが、エリンを案じていた事も。
突如、ヴィリヤの中で、強い気持ちが湧き起こる。
彼女の華奢な指がゆっくり曲げられ、小さな拳が「きゅっ」と握られた。
ダンは、エリンを託してくれた。
愛する大事な妻を……ヴィリヤを信じて、託してくれたのだ。
『わ、分かっていますともっ! エリンさんは大切な仲間です! さ、支えるわっ! 何があっても! ……そして私がしっかり守りますっ!』
叫ぶヴィリヤは、自分でも不思議であった。
赤の他人の為に、何故自分がこんな強い気持ちになれるのか……
しかしヴィリヤは、自分の気持ちに素直に……
心の底からほとばしる、熱い奔流に身を委ねていたのであった。
ダンが、戦法の変更を提案する。
『よし、次からは全員で戦うぞ。俺とケルベロスも加わる』
ダンとケルベロスが戦いに――クランのフルメンバーで戦う。
エリンとヴィリヤの顔がほころぶ。
『全員で?』
『い、いよいよですね』
今迄は、エリンとヴィリヤの『魔法のみ』で戦っていた。
全員で戦うとなれば、どう変わるのだろうか?
『ああ、エリンもヴィリヤも、そろそろ戦いに慣れただろう。なら次は、クランとしての戦い方にチャレンジして貰う』
冒険者クランとしての戦い方。
個ではなく、集としての戦い方。
これまでに、エリンとヴィリヤふたりで戦ってみて、どうにか扉のノブを掴んだ感覚はある。
後はノブを大きく回し、扉が少しでも動いたら、思い切り開くだけだ。
当然、エリンとヴィリヤに異存はない。
『旦那様、了解!』
『ダン、わ、分かったわ』
『よっし、相手が同じであれ、絶対に気を抜くな』
ダンは、ふたりを気遣う。
ここまで……慎重に来たのだ。
当然の事であろう。
個々にも声を掛ける。
『エリン、大丈夫か?』
『大丈夫! 旦那様が居るからね!』
一見元気よく……
だが、僅かにエリンの表情が強張った事に、ヴィリヤは気付いた。
なのに、ダンはあっさりスルー。
ヴィリヤにも同じように声を掛けて来る。
『よっし! ヴィリヤも行けるな?』
『え、ええ……』
いつもの、打てば響けの返事が戻せず、口籠るヴィリヤ。
ダンは、不思議そうな顔付きで尋ねて来る。
『どうした?』
『いえ……何でもないわ……』
ヴィリヤは首を振り、顔を伏せた。
……不思議であった。
オークとの戦いで、エリンの様子が著しく変わったのは、はっきりしていた。
それなのに……
何故?
ダンは、まるで何事もないように振舞うのだろうかと。
そもそもダンは他人の心が読める。
余程の高位レベルの術者でなければ、彼の魔法を防ぐ事など出来ない。
つまり殆どの人間は、ダンの前で誰も隠し事は出来ないのだ。
そのダンが、相思相愛である自分の妻エリンの変貌に、気付いていない筈はない。
愛する者の持つ苦しみが、分からない筈などない。
しかし、ダンは何も言わない。
エリンの心の内に秘めた『事情』は勿論、ヴィリヤが案ずる気持ちも……
そこで、ヴィリヤは一計を案じる。
自分から心を開いたのだ。
絆を結んだ『仲間』が持つ深い悲しみを慈しむ気持ちを……
『仲間』を心の底から思い遣る気持ちを……
大きく大きくさらけ出し、ダンへ強い波動を送ったのである。
だが……
ダンは、ヴィリヤへ何も言わなかった。
淡々と、次なる戦いへの説明を続けて行く。
『良いか、ふたりとも。とりあえず作戦はリーダーの俺が立て、随時指示もする』
『了解!』
『りょ、了解……』
ふたりの返事を聞き、ダンは頷き、話を続ける。
『盾役《タンク》と攻撃役《アタッカー》は俺とケルベロスが担う。回復役《ヒーラー》は俺が兼務。そして今迄通り、後方から魔法を使った攻撃役《アタッカー》と強化支援役《バファー》はエリンとヴィリヤだ』
『了解!』
『りょ、了解!』
エリンとヴィリヤが、またも返事をした、その時。
「うおおん!」
ケルベロスが、鋭く吠えた。
どうやら敵襲らしい。
ダンが、「ナイスタイミング!」とばかりに笑う。
『はは、丁度いい、新手のオーク共だ』
『ぬ! オークぅ! 準備万端だよっ!』
やはりエリンはオークに対し、特別に含むものがあるのだ。
目付きが途端に厳しくなった。
片やヴィリヤは、エリンの辛さ、そして怒りの波動を感じる。
心が「ぎゅっ」と縛られたように、酷く苦しくなる。
何故か、返事も出来ないくらい息苦しい……
『…………』
無言で応えたヴィリヤであったが、
『ヴィリヤ!』
いきなり!
ダンの声が耳元で聞こえたような感覚に陥る。
どうやら、エリンには聞こえない特別な念話のようだ。
何だろう?
急にどうした……と、いうのだろう。
ヴィリヤは、とりあえず返事をするしかない。
『あ、は、はい!』
『…………』
少し、ダンにはためらいがあった。
だが、すぐに彼の声が聞こえて来る。
『もし……何かあったら……エリンを……傍で、支えてやってくれ』
『え!?』
もし何か?
あったら?
エリンを……支える?
唐突なダンの願い。
ヴィリヤは、呆然としてしまう。
『…………』
理由を話して。
と、言いたげなヴィリヤの沈黙に、ダンは答えてくれる。
『あいつの家族は……オーク共に殺されている……』
『え!? そ、そんな!』
『ヴィリヤ、頼むぞ』
『は、はいっ!!!』
エリンの家族がオークに!?
それはヴィリヤにとって、衝撃の事実であった。
でも……
ただ殺されただけではない……何かある。
エリンの様子を見て……
ヴィリヤは、そう感じる。
もし……自分がエリンの立場だったら……
目の前に『仇』が現れたら……
泣き叫び、怒りに我を忘れてしまうかもしれない……
そして……
やはりダンは分かっていた。
全てを分かっていたのだ。
エリンの心に、大きな変化が生じていた事を。
ヴィリヤが、エリンを案じていた事も。
突如、ヴィリヤの中で、強い気持ちが湧き起こる。
彼女の華奢な指がゆっくり曲げられ、小さな拳が「きゅっ」と握られた。
ダンは、エリンを託してくれた。
愛する大事な妻を……ヴィリヤを信じて、託してくれたのだ。
『わ、分かっていますともっ! エリンさんは大切な仲間です! さ、支えるわっ! 何があっても! ……そして私がしっかり守りますっ!』
叫ぶヴィリヤは、自分でも不思議であった。
赤の他人の為に、何故自分がこんな強い気持ちになれるのか……
しかしヴィリヤは、自分の気持ちに素直に……
心の底からほとばしる、熱い奔流に身を委ねていたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる