隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第156話「帰還」

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 数日後……
 いろいろな準備を万端に整えたダン達は、リストマッティ達へ別れを告げた。
 いよいよ地上へ戻るのだ。

 ちなみに帰りは、迷宮を1階ずつ上がったりはしない。
 ダンの転移魔法を使う。
 地下深きデックアールヴの国から直接、それも一気に、英雄の迷宮3階へ跳ぶのである。

 直接、ヴィリヤの屋敷へ戻る事も可能であったが、ダンは慎重であった。
 ちゃんと手順を踏み、迷宮から帰還する形を取ろうと決めたのである。

 帰還地点に地下3階を選んだのは、商店が立ち並ぶ地下1階は論外、地下2階は迷宮初心者も含め、「人の目が多いから」というダンの判断である。

「ダン殿、頼んだぞ。朗報を待っている」と、リストマッティ。

「お願いします、ダンさん。妹へ! ニーナへ伝えて下さい。ルネは、兄は生きている、絶対にまた会おうと!」と、ルネ。

「お~い、ダン。いつものように上手くやってくれよ、信じてるぞ」とチャーリー。
 他のクランフレイムのメンバーも、エールを送り、大きく手を打ち振っている。

 ふと思いつき、ダンは見送りの者、全員へ『フィストバンプ』を教えた。
 お互いに、拳と拳を軽く突き合わせるアレである。

 こつん、こつん、こつん、こつん、こつん、こつん……

 その場の全員が、拳を合わせて行く。
 大きなごつい拳、華奢な拳……様々な拳が交わされる。
 軽い感触と、確かな温かさが伝わって来る。

 「他愛ない!」といえば、他愛ない行為だ。
 しかし、更に心の絆が深まったのを、誰もが確かに感じていたのである。

 こうして……
 未来への期待を一身に受け……
 リストマッティ達は勿論、ルネやチャーリー達にも見送られ、ダンは魔法を発動した。

 エリンを助け、習得したての時、計算を大きく間違って、天高い大空に飛び出してしまったのも、今は懐かしい思い出……
 今や、ダンは、転移魔法を自由自在に使いこなしていた。

 でも……
 いつもながら、転移魔法で空間を移動する感触は不思議なものらしい。
 ダンはともかく、エリンやヴィリヤには若干の不安があるようだ。

 しかし、もう遠慮は要らない。
 3人はもう、夫婦なのだから。
 ダンに、エリン、そしてヴィリヤはしっかりと抱きつき、3人は煙のように消えたのである。

 瞬時に英雄の迷宮3階へ跳んだ3人は、難なく、迷宮の出口へと戻った。

 当然、先に火蜥蜴《サラマンダー》を先行させ、到着地点の周囲に人影が無いのを確かめてからの転移である。

 迷宮を出たダン達は、すぐ冒険者ギルドの出張所へ向かった。
 出迎えてくれたのは、見送ってくれた戦士と、僧侶である。
 エリンは、また人間の姿に変身しており、ヴィリヤもゲルダの姿に戻っていたから、出発した当初の3人という趣きである。
 
 ダン達が、迷宮へ潜ってから、丁度2週間が経過していた。
 無事を信じているとはいえ、ニーナ、そしてゲルダはどんなに心配しているだろうか……
 すぐに緊急の魔法鳩便が飛ばされ、1時間後……
 ヴィリヤの屋敷から、大型馬車が迎えに来た。

 3人の前に止まった馬車から、転がるように飛び出して来たのは……
 ヴィリヤに擬態した、ゲルダであった。

 一目散に駆け寄って来るゲルダは、顔をくしゃ、くしゃにし、泣いている。
 大きな声をあげて……

 無事帰還した主に安堵する、嬉し涙であり、鼻水まで流していた。
 化粧も、完全に崩れてしまっている。
 もう……号泣であった。

 普段の、凛としたゲルダなら、絶対に見せない姿だ……
 擬態しているから、ゲルダの名前は呼べないが、ヴィリヤは恐る恐る挨拶をする。

「た、只今……」

「お帰りなさいませっ!」

 戸惑うヴィリヤへ、泣き笑いのゲルダは大きく叫び、「ひし!」と抱きついたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 3人と合流した、ゲルダは馬車を、ヴィリヤの屋敷へと走らせていた。
 出張所の戦士と僧侶へ、ギルドへの報告は明日以降にと、伝言を託して。

 ちなみに……
 途中で、英雄亭へ寄り、ニーナをピックアップする事になっている。
 
 ニーナへは既に、ダンから念話で連絡が行っていた。
 当然、兄ルネとチャーリー達の無事も伝えてある。
 たくさんの朗報を聞いたニーナは大喜びし、「待っています!」と返して来たのは言うまでもない。

 馬車の車内で、擬態したゲルダをジト目で睨むのは、本物のヴィリヤである。

「もう、ゲルダったら……まるで、私が大泣きしたみたいじゃない……恥ずかしいわ」

「申し訳ありません、つい嬉しくて……」

 しかし、当然ヴィリヤは本気で怒っているわけではない。
 ゲルダは……もし自分が帰還出来なかったら、死ぬ覚悟をしていたくらいだ。
 肉親以上に、自分を思ってくれる部下の気持ちが、ヴィリヤは凄く嬉しいのである。

「ううん、冗談よ、全然構わない。本当にありがとう、ゲルダ。私、い~っぱい、話す事があるわ」

「そうでしょう、そうでしょう! ゲルダはぜひお聞き致します」

「とりあえず、最初の報告、私……ダンと結婚します」

「ええっ! そ、そうですかっ! お、おめでとうございますっ!」

 上手く行った!
 遂に!
 主の恋が実った!

 ゲルダは更に、嬉しくなった。
 同時に……
 「これから、大変だ」とも思う。
 筋を通す為、故国イエーラへ行き、ヴィリヤの婚約を解消し、人間であるダンとの結婚を告げる。
 ヴィリヤの祖父であるソウェル、ヴェルネリを説得しなければならないから。

 そうこうしているうちに……馬車は王都へ入り……
 すぐ英雄亭の前に着いた。

 店の前では既に、ニーナと店主のモーリスが立ち、待っている。

 止まった馬車からは、ダンとエリンだけが降りた。

 良くある格言だが、歴史は繰り返されるという。
 安堵と喜びで、顔をくしゃくしゃにしたニーナは、ゲルダ同様……
 ダンとエリンの名を、大きな声で呼び、思いっきり抱きついたのであった。
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