隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第158話「ゲルダの決意②」

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 エリンと共に居ても、災いなど、何も起こらない。
 そして、歴史的な遺物ともいえる、3つの種族を繋ぐ指輪と誓約書……

 厳然たる事実を目の当たりにして、ゲルダは『デックアールヴの呪い』が単なる迷信である事を受け入れるしかない。

 現に、あれだけ『ダークエルフ』を嫌っていた主ヴィリヤが……
 こんなにも、エリンと打ち解けている。
 それはダンが、『ふたりの夫』というだけではないだろう。

 肉体的にも精神的にも、迷宮で窮地に陥ったヴィリヤを、エリンが、支えてくれたからに違いない。
 そして何より、エリン自身の人柄もある。
 
 元より、ゲルダもエリンの事は好きだ。
 デックアールヴ云々を、一切抜きにして。

 ゲルダも感じる。
 エリンと時間を共有すると、朗らかになる。
 何故か、明るく元気になれる。

 だが……
 まだ信じきれない事がある。
 それは、リョースアールヴが本当に、
「デックアールヴを陥れたのか?」という事だ。

 ゲルダが「つらつら」と考えていると、ダンが「ポン!」と肩を叩いた。
 他人の、それも男に馴れ馴れしく肩を叩かれたら、普段のゲルダなら容赦なく相手の頬を張っていただろう。

 しかし、ダンの手は温かく、先ほどから告げる言葉も、ゲルダを安堵させる。

「ゲルダ、お前の気持ちは分かる」

「え?」

「リョースアールヴが、果たしてそんな大罪を犯したのか……疑問なのだろう?」

「…………」

 心の中を、ズバリ言い当てられ、ゲルダは黙り込んだ。
 一方、ダンは微笑み、話を続ける。

「……当時、立ち会った者は、全員この世には存在しない。天界に行って使徒に聞くのも不可能。さすがに、直接、当事者へ確認するのは無理だ」

「…………」

「だが……この指輪の材質違いの同型、同文の誓約書が、アスピヴァーラ家とアイディール王家に大事に保管されていれば……それが動かぬ証拠だ」

「そう……ですね。確かに!」

「だろう? それを確認するのが、俺の役目のひとつだ」

「え?」

 歴史に隠された、大いなる事実を確かめるのがダンの役目……
 ゲルダは、胸が高鳴り、思わずダンの顔を見た。
 ダンは、相変わらず微笑んでいる。

「俺は、これからイエーラへ赴き、ヴィリヤの祖父ヴェルネリ殿に会う」

「ソウェルに? ダンが?」

「ああ、デックアールヴとの『約束』は勿論、俺とヴィリヤの結婚を確定させないといけない。彼女の婚約を解消させないと」

「そ、そうですね」

 やはりと、ゲルダは思う。
 ダンは本当に、誠実だと。
 妻ヴィリヤの為なのは勿論……
 彼女の祖父ヴェルネリ、そして別れる事となる、婚約者の事も考えているのだ。

「イエーラでのケリがつけば、次はアイディール王家だ。宰相フィリップ様に会う。同じ仕事が待っている」

「な、成る程……」

 ダンの仕事は大役だ。
 世界へふりかかる、怖ろしい災いを防ぐのと同じくらい。
 そう……
 これから、『歴史』は、大きく動き出すのだから。

 と、その時。
 ダンが、いきなり話題を変える。

「それで……ゲルダはどうする?」

「え? 私?」

「これから、俺達は新たな国造りへ邁進する」

「それは、そうでしょうね」

「ああ、ヴィリヤとも話した……彼女とお前は主従関係だが、あくまでイエーラにおいてだ。こうして、新たな状況となった今、縛られる事はない」

 告げられた、ダンの言葉は、ゲルダにとってはショックだった。
 自由にして良いという言葉の反面、絆の弱さを感じさせるものだったから。

 ヴィリヤの心は、憤りを感じる。

「ダン……」

「おう!」

「何が言いたいのですか? もう私は不要だと?」

 怒りの籠ったゲルダの言葉。
 けれど、ダンは首を振る。
 それも笑顔で。

「いや、逆だ」

「え? 逆? 逆って?」

 ダンの言葉を想定外に感じ、驚いたのだろう。
 
 大きく目を瞠り、ぽかんと口を開けるゲルダへ……
 更に、ダンは言う。

「新たな国には、いろいろな課題があるし、それに伴う大変な仕事が山積みさ。気心の知れた、優秀な人材は絶対に必要だ」

「それ? 私が? 気心の知れた……優秀な人材って事?」

「おう! 俺達には、ゲルダ、お前が絶対に必要なんだ」

「私が……絶対に必要」

「ああ、だが……今の身分、地位を一切捨てる事となる。そこまで俺とヴィリヤはお前に強要する事は出来ない」

「……分かりました。……少し考えさせて下さい」

 ダンの申し入れは……ゲルダが期待していたものであった。
 しかし……何故か、すぐにOKの返事が出来ない。

 そんなゲルダへ、ダンは優しく微笑んでくれた。

「構わない、何日でも考えた上で、返事をくれ」

「はい……」

 ダンの言う通り、自分の人生の岐路だ。
 じっくり考えよう……
 口籠りながら、返事をし、ゲルダはそう思ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 翌朝……

 ヴィリヤの屋敷の大広間には、主のヴィリヤ、副官のゲルダだけではなく……
 ダン、エリン、ニーナも含め、昨夜、書斎で話したメンバーが全員居た。
 昨夜、ダン達は、この屋敷へ、そのまま泊ったのである。

 5人、朝食を摂る中で……
 ただひとり、ヴィリヤだけが、むくれていた。

 気になったゲルダが、聞いてみれば……
 昨夜は夫婦4人、一緒には寝た。
 だがヴィリヤは、『妻』として、ダンに抱いて貰えなかったという。

 一見、他愛もない事だが……
 自分は、もう完全にダンの妻だという気持ちのヴィリヤにとっては、とんでもない大事件なのだ。

 こうなったら……
 ダンに直接、聞くしかない。
 朝の上、夫婦の秘めたる事情を聞くなど、あくまで他人のゲルダには勇気の要る事である。

 しかし、ヴィリヤの為なら……
 ゲルダは、思い切れる。
 主でありながら、まるで、妹のように思える、心から愛するヴィリヤの為ならば。

 そんなゲルダに対し、ダンの答えはあっさりしたものだった。

「ヴェルネリ殿とヴィリヤのご両親に認めて貰った上、婚約者との、ケリを付けてからさ」

「そんなの、良いじゃない。もう私は、ダンの妻なんだから!」

 栗鼠のように、頬を膨らますヴィリヤを見て、ゲルダは嬉しくなった。
 改めて実感する、ダンの、真っすぐな誠実さに。

 主という、ひいき目を差し引いても、ヴィリヤは素晴らしく美しい。
 人間から見ても、『女』として、「ぜひ抱きたい!」と思う筈だ。
 
 しかしダンは、一緒には寝ても、ヴィリヤを抱かなかった。

 全てのしがらみを断ち切り、正式に妻として、迎えてから。
 「筋をしっかり通す」と、はっきり告げてくれた。

 愛する主で……可愛い妹……
 大切なヴィリヤを、この人なら……
 ダンになら、任せて間違いない。
 
 ゲルダは心の底から、そう思えたのである。

 こうなると、答えは決まった。
 ゲルダはすぐ決意をした。

「ダン!」

「おう!」

「私を必要としてくれるなら、ぜひお願いするわ!」

「おお、ゲルダ、ありがとう!」

 屈託のない笑顔で、ダンは礼を言ってくれた。
 そして、

「ゲルダ、これからも宜しくね」

 と、いう主ヴィリヤの言葉。

「エリンもゲルダなら、大歓迎だよ」
「ゲルダさん、私も、嬉しいです」

 喜ぶ、エリンとニーナの言葉。
 
 自分に投げかけられる4人の言葉が、春の温かい日差しのように感じられ、ゲルダはとても心地良かったのである。
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